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その103

規則性の発見は最初の5つがキー

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 氷に関連した水の量の問題は、一般のパズルやクイズなどでよく出題されることから、いつものような問題だろうとあなどってしまったが最後、結果、間違えてしまった方たちも多くおられたかと思われる前問でした。
 問題文を注意深く読み、水に浮かぶ氷の基本原理や水の物理現象などをしっかり理解できている人だけが正解に至るという内容の問題でした。

 さて、今号の設問はどうでしょうか。それでは解説に移ります。

問題 設問103   次の3つの数列は、ある規則で並んでいる。それぞれ「?」に入る数値は何か。
 その1 1、11、21、1211、111221、?
 その2 1、11、21、1112、3112、211213、?
 その3 1、2、3、21、32、213、3221、?

氷水のコップ

 これまで102個の設問をみてきましたが、数列の問題を取り上げたのは初めてです。数列と言いますと、3、5、7、9、11、・・とか、1、2、4、8、16、・・といった等差数列や等比数列が、すぐに頭に浮かびますが、この設問はそんな単純な類のものでないことは容易にわかると思います。

 さて、いきなり解答を示すのは簡単なのですが、以前からお伝えしているように、この連載の解説で常に意図していることは、世の中で一般に見られるような「正解はこうです」と、すぐに解答のみを示すというやり方ではなく、正解に至るまでの必然的な思考過程というものを、できるだけ丁寧に説いていくことに腐心しています。

 というのも、たまたまその解法が見つかったとしても、いつもたまたま見つかるという保証はまったくなく、出たとこ勝負の姿勢では常に役立つような解法スキルが身に付かないからです。
 したがって最初の突破口、糸口、手がかりを見つけ出す過程に重きを置き、どうしてその解法に辿りつけたのか、本設問でもその過程をみてもらいながら進めていきたいと思います。

 そもそも数列とは、或る規則に基づいた数値の並びで、その種類は無限にあるということです。したがってどんな出題でもできるわけですが、その一例としてグーグルの面接試験に出たのが、上記「その1」の問題です。
 グーグルの出題であることから、そんなに簡単に解けるような問題ではないはずです。

 さて、数列とは前にある数値がベースになり、或る規則に従ってうしろの数値が決まるという数字の並びであることから、数列の問題とはその規則性を見いだすことで解決します。そんなことはわかっているとお叱りを受けそうですが、このこと自身が必然性を見い出す重要なポイントであるため、敢えて申しあげます。
 これを念頭に置いて「その1」にある数列の前後の数値を見ていきますと、その異常性に気付かれるはずです。

氷の比率=中の水の比率

 つまり、1から11は10倍近くに増えるのに対して、11から21はたったの2倍くらいしか増えなく、さらに21から1211はぐんと増えて60倍近く、さらに1211から111221では90倍近くと、数値の大きさという点では増えたり減ったり、またその倍増度合いもまちまちで、まったくデタラメの様相を呈しております。
 また一度減ってまた増えるという点でも、ここに示されている5個の数値の中では一度きりで再現性がなく、とても規則性などは伺えません。

 このことから重要なポイント、この数列は数値の大きさで羅列されていないのではないか、つまり、数値の大きさとは無関係な数値がならんでいるのではないかという必然的な見方が出てくるということです。
 では、数値の大きさではないとすると、他にどんなことが考えられるのか。
 この時点に至って、初めて考えられる見方は、数値のように見えるそれぞれが、実は数値ではなくて、単なる個々の数字の羅列という見方です。
 つまり21は二十一という数値ではなく、2と1という2つの数字が並んでいるだけという見方です。

氷の比率=中の水の比率

 そこでこの数列、1、11、21、1211、111221を、イチ、イチイチ、ニイイチ、イチニイイチイチ、イチイチイチニイニイイチというように読み、それぞれ前後の関係を探っていくことにします。
 そして例えば、11、21をじっくりと見てみますと、やがて21の前には1が2つあることに気付くことになります。結果、2個の1で21と表現できることがわかってきます。

 だから、11はその前が1個の1だから11になり、1211ではその前が1個の2と1個の1ということで、1211になることがわかってきます。
 したがって111221の後ろの数字は、3個の1と2個の2と1個の1とで、312211になるわけです。

氷の比率>中の水の比率

 このような形で導かれる数列を最初に提起したのは、現プリンストン大学教授のジョン・ホートン・コンウェイ(John Horton Conway, 1937年生)でした。彼は数学会における賞をいくつも受賞しているイギリスの数学者です。

 次の「その2」と「その3」の問題を見ますと、非常に似通った数値が並んでいる問題であることがわかります。特に「その1」と「その2」は酷似していて、やはり数値として見たら、デタラメであることがわかります。したがって、前述と同様な発想でやってみることにします。

 そこで「その1」と「その2」の数列で、最初に違いが出てくる4番目の、1211と1112に注目しますと、それぞれ11と12の並びが逆になっていることがわかります。
 ということは、「その2」の問題では数字の小さい方から順に、そこに含まれているそれぞれ数字の個数を表現しているのではないかとの見方ができると思います。
 そこで4番目の1112にこの見方をしますと、3個の1に、1個の2ということで、たしかに5番目の3112になり、またこの数の中には2個の1に、1個の2,そして1個の3があるので、たしかに6番目に示されている211213になることから、この見方でいいことがわかります。
 したがって、211213の次には、3個の1に、2個の2、そして1個の3ということで、312213がくることになります。

 では、「その3」はどうか。
 最初の1、2、3では徐々に数値が増えていますが、つぎの21、32、213、3221では大きく増え続け、大きく分けたこの2つのグループの羅列を見ただけでもデタラメの域を出ず、規則性はまったく見当たりません。このデタラメではもちろん数値として計算加工を試みても解けません。
 また「その1」と「その2」のやり方を「その3」に踏襲し、どのようにやってみてもうまくいきません。

 だから、「その1」と「その2」が解けた方でも、「その3」にはお手上げになった人たちが多かったのではないでしょうか。
 しかし何らかの規則に則って出題されているはずですから解けるはずです。ここで驚くことは、これが大宮開成中学の入試に出た問題だという事実です。つまり小学6年生に解かせる問題だったということです。

 この事実が改めてわかったとしたら、意外と簡単な見方で解けるのではとの希望が湧いてきます。
 そこで数字の羅列という観点からこの数列の最初の5つ 1、2、3、21、32のところをじっくりと眺めてみます。すると、或ることに気付くのではないでしょうか。

氷の比率=中の水の比率

 つまりポイントは1、2、3、から突然21へと変化しているところです。そして次は32です。この21と32の2つの数字を眺めていますと、21はその前の1個の数を飛び越えた2個の数、つまり1、2を逆にしていることに、また32も同様に、1個前の数を飛び越えた2、3を逆にして並べていることに気付くのではないでしょうか。

氷の比率=中の水の比率

 そこで次に続く2つの数 213や3221を見ますと、まったく同様な規則性で数が並んでいることがわかります。表記されているこの数列で、7個もの数字がこのように作られていますので、もはやこの規則性を疑う余地はないでしょう。
 したがってこの「その3」の数列で、「その3」の?にくる数値は3221を飛び越えた32、213を逆にして、21332が導き出されるということです。

 たしかにこれで正解なのですが、しかしここで反論が出るかもしれません。3番目の数字、3はつまり1個前の数字が2つなく、この規則に則って作れないのではないかと。

氷の比率=中の水の比率

 たしかにその通りです。では、どんな解き方があるのか。
実は、開成のこの入試問題には前置きがあって、次のような規則性が書かれています。
 この問題は次の規則にしたがって,数値字を並べていきます。
 ・はじめに1を置きます。
 ・前に並んでいる数字の1を2,2を3,3を21に置き換えます。

と。

 な〜んだ、そうだったのかと、ここに至って初めて小学6年生でも解ける問題であることがわかるというわけです。
 この方法でやりますと、答は前述の方法で出した21332と同じになります。
 前述の1個前の数を飛び越えたやり方と、この開成のやり方のもとでの答はすべて一致しますが、では何故一致するのか、時間と余力のある方はやってみてください。

 さて、この設問の背景は、設問の数列が数値という概念では解けないということを、いかに早く見抜くか、また数列というものを従来の見方でみるのではなく、まったく新しい斬新で柔軟な発想でみることができるかどうか、この辺りの資質と能力を見ようとしているものです。

 それでは設問103の解答です。


正解 正解103  その1  312211
 その2  312213
 その3  21332 

 では、その出題背景を考えながら次の設問を考えてみてください。


問題 設問104  あるところの年老いた暴君が、跡継ぎの1人息子のため1000粒のゼリービーンが入った瓶を1000個、倉庫に保管していました。ある日、衛兵が倉庫に侵入した敵国のスパイを取り押さえましたが、すでに1つの瓶だけすべてのゼリーがすり替えられたあとでした。拷問をかけられたスパイは、すり替えたすべてのゼリーには毒が仕込んであり、その効き目は1ヵ月後になって初めて現れるが、少しでも口に入れていれば確実に死に至ることを自白しました。瓶もゼリーも、外見上まったく見分けがつきません。そこで暴君は、囚人に毒見させることにしました。1カ月後に、できるだけ少ない囚人数で、毒入りゼリー瓶を見つけるには、どうしたらよいでしょう?

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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