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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その112

やはり裏から考えてみる

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 どんな会場に何人いても、その中には必ず同じ回数の握手した人が2人はいるという前問は、ちょっと信じられない課題でしたが、解答を知ってしまえば「なるほど」と納得いく内容でした。

 そこで見た鳩ノ巣原理は、しごく当たり前の原理ですが、いろんな角度からの問題にも応用できることから、しばしば試験問題にも出題されます。
 しっかりと自分のものにしておかれることをお薦めしておきます。

 さて、今号の設問はどうでしょうか。やはり裏から見る発想が手がかりになります。
 

問題 設問112    ある会場の中に、同じ誕生日の人が2人いる確率が50%となるには、何人の出席者いなければならないか。ただしうるう年は無視すること。

ビル 誕生会

 これはIT業界大手、ヒューレット・パッカード社の面接試験で出題されたものです。
この問題を見て、まず自分の誕生日が頭に浮かんだ人は、直感的に次のように考えたかもしれません。
 「うるう年は無視するということなので、1年は365日。だから他の出席者の1人とだけ自分の誕生日と同じである確率は1/365。これは0.002739726で、0.27397260%。これが50%以上になるには50/0.27397260=182.5で183人いればよい」と。

 一方、前の設問111・握手の問題をやったばかりの方は、次のようなことを考えるかもしれません。
 もしも出席者が366人いたら、鳩の巣原理で少なくとも2人は、同じ誕生日の人が100%いることになる。したがって50%の確率を求めるならば、その半分の183人ではないか」と。

 両方とも183人と一致していてもっともらしく見えますが、いずれも乱暴な考え方で、前者では1人分の確率が人数分だけ増えていくというその考え方自体が、さらに後者でも、366人で100%なのだから、50%ならその半分の人数という、これまたその考え方自体が、本来の確率という本質から、著しくはずれていることになります。

 確率とは、そんな単純なものではありません。

 この設問を難しくしているのは、該当すると思われる種類を真っ先に想像した場合です。
 可能な誕生日は365種類もあり、そのどれかに属する人間が2人いる場合?、いや3人の場合、いや4人・・・、などと考えていくと、どんどん考え方が発散していき、深みにはまるだけなのす。
 この設問も、やはり前回および前々回の2問と同じように、真っ正面から見るのではなく、裏から取り組む発想をすればすっきり解けてきます

 コインを投げたら、表が出る確率は1/2、それ以外として裏が出る確率も1/2で、両者を足せば1になるという、そんなことはわかりきったことだと大部分の皆さんは思われると思いますが、当連載の最年少愛読者の中には、ときたま中学受験者や中学生も交じっているとのことなので、それらの皆さんも含めてこの連載では、設問のとらえ方や考え方、そして解答までの道筋を丁寧に解説することに意を注いでいる旨、ご理解をお願いします。

子供

 したがってここで、一方の或る現象の確率をA、もう一方のそれを裏から見たそれ以外の現象の確率をBとすれば、その2つを足したものは1になるということを利用するわけです。
 この方法を取るのは、裏から見た確率Bのほうが簡単に計算できるときです

 当設問で言えば、少なくとも2人が同じ誕生日である確率をAとして、それ以外の、つまり全員の誕生日が違う確率をBとすると、Aは2人が同じ、3人が同じ・・・などのいろんなケースを考えなければならないのに対して、Bは全員が違うという1つのケースだけを考えればいいからです。

 では、その全員が違う場合の確率をみてみます。
 まず2人の場合ですが、2人目が選べる誕生日は、1人目の誕生日を除いた364日のうちのどれかが誕生日となりますので、その確率は364/365です。
 では1人増えて3人の場合、その3人目が選べる誕生日は、1人目と2人目と異なる日であればよく、その確率は363/365ですから、3人とも違う誕生日となる確率は364/365 × 363/365です。

二人の場合 三人の場合

 4人に増えても理屈は同じで、4人とも全員が同じ誕生日でない確率は、364/365 × 363/365 × 362/365です。

N人の場合

 したがって人数が増えても、これを繰り返していけばよく、N人の全員の誕生日が異なる確率は、
364/365 × 363/365 × 362/365・・・×(365-N+1)/365 -------(C)
となります。
 ちなみに階乗記号!を使えば、(C)=(365!/(365-N)!)÷ 365N ------ (D)です。

 前述のように、
(少なくとも同じ誕生日の人が2人居る確率)+(全員違う誕生日の確率)=1ですから、少なくとも同じ誕生日の人が2人居る確率(E)は、(E)= 1-(D)で計算できます。

二人いる確率

 この(E)が50%以上になるには、(C)あるいは(D)が50%以下になるNを計算すればいいわけです。ところがここまで解いてきても、何だか割り切れない疑問が湧いてきた人も多いのではないでしょうか。
 というのもこれは面接試験での出題であるため、その場で(C)にある分母・分子ともに大きな数字になりそうな計算や、あるいは(D)にある階乗計算を、どうやってやれということなのか、という疑問です。

電卓とパソコン

 出題当時の受験者に聞かなければわかりませんが、実際には卓上計算機が用意されていたのかもしれませんし、あるいはIT企業の受験者にはプログラミング知識が不可欠ということで、その場にパソコンが準備されていたかもしれません。
 しかし筆算でも、なんとかすぐに人数の概略見当だけは付けられるという方法はありますので、ここでそれを披露してみます。

 まず、筆算でもできる(C)の中身である個々の項目、364/365、363/365、362/365、・・・に着目します。

N人目の確立

 10人目なら356/365=0.9753・・・、20人目なら346/365=0.9479・・・、30人目なら 336/365=0.9205・・・と、これらの項目の値は、しばらく0.9台が続きます。

 ですからすべての項目の値を0.9としてみて、0.9x0.9x0.9・・・と、何回くらい掛ければ0.5以下になるかみるわけです。
 するとたったの7回、つまり項目7個で0.5以下になります。さらに20人目の値0.947を20人全員に当てはめれば13回で0.5以下になります。
 しかし実際の項目の値として、もう少し大きな数が並んでいますので、もう少し人数と回数が増えますが、これで求めるNはそんなに大きな数にはならないという見当がつきます。

 そこで少し時間をかけて根気よく、階乗の計算式(E)の計算をすると、求めるN は23と出てきます。
 ここでまたまた疑問です。「たったの23人!ということは、22人いる会場に自分が行けば、そこに自分と同じ誕生日の人がいる確率が50%もあるということ? そんなことは本当にあり得るのか!」と。

 これは「自分と同じ誕生日の人がいる確率」と「同じ誕生日である2人組が存在する確率」とを混同しているためです。
 つまり自分以外の人たち同士の組合せをすっかり忘れてしまっているためで、数学を思い出していただければわかりますが、23人の中の2人の組合せは、23C2=23!/[2! x(23-2)!]=253通りもあり、少なくともその中のどれかの組合せの2人が、50%の確率で同じ誕生日である、ということを意味しているわけです。

252人の集団

 このことは、少なくとも252人いる会場には、自分と同じ誕生日の人がいる確率が50%になるということです。
 では、これと違う方法でこのことを検証してみます。 N人の中で自分と同じ誕生日がいる確率は、残りの(N-1)人全員が自分の誕生日と異なる確率(364/365)N-1を1から引いて、その結果が0.5以上になるときですから、1-(364/365)N-1>0.5の条件によってNが求められます。
 ここからもN=253と出てきます。Excelを使えば、簡単にこのべき乗計算ができます。

 さて、これまでしばしば「それ以外の事象」という言葉が出てきましたが、確率の世界ではこれを余事象と呼んでいます。

 当連載を最初から愛読されている皆さんの中には、この余事象という言葉を見て、過去の設問を思い出された方もおられるのではないかと思います。

エクセル

 そうです。実は連載その47に、ずばり「同じ誕生日」の計算方法まで披露しています。ですからそれを記憶されている方であれば、本題においてスムーズな解答ができたのではないでしょうか。

余事象

 当設問の背景は、設問47の見出し「問題の反対側を覗いてみる」にもあるように、余事象というポイントにいかに早く気づくか、さらにいつでもそれを応用できるように自分のものにしているかどうか、などを見ようとしているものです

 それでは設問112の解答です。
 

正解 正解112  集団の中で、(少なくとも同じ誕生日の人が2人居る確率)+(全員違う誕生日の確率)=1であり、ここで簡単に出せる余事象として、全員違う誕生日の確率を考える。うるう年は無視となっているので、2人目が選べる誕生日は、1人目の誕生日を除いた364日のうちのどれかが誕生日となる。その確率は364/365。さらに3人目の場合、その3人目が選べる誕生日は、1人目と2人目と異なる日であればよく、その確率は363/365なので、3人とも違う誕生日となる確率は364/365 × 363/365。このようにしていけば、N人の全員の誕生日が異なる確率は、364/365 × 363/365 × 362/365・・・×(365-N+1)/365となる。したがって、少なくとも同じ誕生日の人が2人居る確率が50%以上となるNの値は、この余事象を使って1-[364/365 × 363/365 × 362/365・・・×(365-N+1)/365]>0.5となるNを計算すればよい。結果、N=23で、左辺が0.507になり、出席者は23人いればよいことになる。

 
 では、次の問題の出題背景を考えながらやってみてください。これはアメリカのコンサルタント企業大手、マッキンゼー社とボストン・コンサルティング 社が、大学の企業説明会で出題したものです。


問題 設問113  ホテルで使用されるミニボトルに入ったシャンプーやコンディショナーは、世界中で年間どのくらい製造されているでしょうか。

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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