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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その133

実際のビジネスに則して考える

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どう変わるインターネット社会

 アープ社のウエブサイト納品数が1000を達成、そして当連載「ビル・ゲイツの試験問題」が完結したのを記念して、2017年5月15日、日本橋公会堂で「どう変わる インターネット社会」と題する講演会を開く旨、前号でお知らせしましたが、結果、会場は満員の盛況でした。
 旺盛な向学心、興味、先行き不安な気持ちなどが入り混ざり、それらの気持ちが参加動機となったようですが、講演終了後のアンケートから皆さんは満足してお帰りなったことがわかりました。

 また今回、スケジュールなどの理由も含め、参加できなかった皆さまも多かったようで、その概要だけでも知りたいとの要望もあり、それに応える形でここにその一部を再現いたします。
 中身は大きく次の6章、

話の進め方

  1.  デジタル と インターネット
  2.  スマイル曲線
  3.  IoT (モノのインターネット)
  4.  クラウド と ビッグデータ
  5.  人工知能・ディープラーニング
  6.  地頭力

に分れており、話を進めるに当たって、文字よりも絵のほうがすんなりと頭に入りやすいことから、全部で130枚のスライドに多くの画像を使い、また20本のビデオも駆使して説明しました。では、各章を順番に紹介していきます。

1.デジタル と インターネットの章: アナログよりもデジタルは、いかにコンパクトでしかも容量が一気に増えスピードも上がったか、レコードや録音機、カメラやビデオ、そしてコンピューターの今昔を例で示し、また機能面においても、1969年、人類が月に足を踏み入れたアポロ計画において、そのコントロールセンターで使われた大型のコンピューターの全性能をもってしても、今のスマホ1台にもかなわないことなどを解説。

 さらに通信のデジタル化と相まって、インターネットが生まれ、その後、急速に発展していったことを説明。

2.スマイル曲線の章: 台湾のホンハイによるシャープ買収、ソフトバンクによるARM社の3兆円という超大型買収、これらはすべてインターネットに起因する社会現象であること。

 また製造業における各工程別の利益率をグラフにしたスマイル曲線が、その社会現象のベースになっていて、その中で利益率の一番高いところを狙ったのが今回の買収であったこと。

 さらにその曲線に合致する形で暗黒20年の日本を支えてきたのは中小企業であったことなどを説明。

3.IoT (モノのインターネット)の章: まもなくすべてのモノがインターネットにつながり、離れたところにあるモノの状態をモニターしたりコントロールしたりできることから、従来は経験と勘だけを頼りにしていた農業をはじめ、林業、製造業、交通、流通、医療、福祉、教育、エネルギー、不動産、スポーツ分野と多岐にわたり、その活用がすでに始まっていること。

 さらに一般個人が自家用車で都合のいいときに適宜タクシー業になれるUber社などの例のように、新しいビジネスモデルが続々登場しており、次々と開発されるスマホのアプリを利用した新モデルの台頭により、銀行の支店もそのうち要らなくなり、本業でも支払い業務や融資業務など多くを見直さなければならなくなっている銀行は、今、IT企業と組んで生き残りに必死であることなどを説明。

4.クラウドとビッグデータの章: すべてのモノがインターネットにつながることから、今後、幾何学的にそのデータ量が増えていき、2020年の1年間に生み出されるデータ量は、全世界に今日現在ある印刷物のおよそ20万倍になること。
 しかしIT技術の進歩によりそのデータを収納するメモリーは充分に準備されていて、どんなにデータ量が増えても、クラウド上のコンピューターにすべてを収めていくことができること。

 さらにビッグデータによってどんなことができるかを、いくつかの例をあげ、それらをビデオで見てもらう。
 例えば日本上空3000mの風の動きを細かな線で見えるようにした気象天気図、また警視庁の主要幹線道路に設置された監視カメラのデータとタクシー会社7000台分の走行データ及び一般車140万台が発信した車の移動データなどをベースにした車の移動情報を使って、東日本大震災当日の地震発生前から夜中までの東京における渋滞状況の変化、さらにまたテニススタジアムに設置された10台のカメラが100分の1秒単位で記録しているコート上のボールの位置データを使って、錦織が世界チャンピオンに勝ったときの解析結果などを順に説明。

 そして今後、人工知能やIT化によって失職する人が多くなってくる中で、ますます不足してくるのが、ビッグデータを解析する統計の専門家であることなどを伝えた。

5.人工知能・ディープラーニングの章: チェス、将棋、クイズ、そして永遠に無理だと思われていた囲碁の世界でもコンピューターが、遂に世界チャンピオンに勝つようになった経緯を説明。

 特に囲碁で勝利したのは、人間の脳の働きである神経細胞のネットワークを模したディープラーニングという手法によるものであり、この手法によりコンピューターが、これまでの壁であった画像の認識、運動の習熟、言語の意味理解ができ、自己学習もできるようになったという画期的な人工知能の開発であったことを紹介。
 これはコンピューターがモノを認識できる眼を持ったことによるものであり、それまで数十種類しかいなかった古代生物が、眼を持ったことにより1万種類へと爆発的に増えたカンブリア期と同じように、これか始まる機械・ロボットの自動化世界は、IoTの進展と相まって圧倒的に多様化することを説明。

 この画像認識と運動の習熟により、「熟したトマトを収穫せよ」とロボットに目的を与えれば、ロボットは現場に行き、熟したトマトだけを収穫して農作業は完了するという時代がすぐそこまできていること。
 また一方、人工知能の普及により、2030年までには日本の労働人口の半分、49%が機械に取って代わられ、今のままでは740万人の人が職を失うようになるという試算が経済産業省によって報告されていること、そしてそれらに該当する具体的な職も解説。さらにこのままITが進歩していけば、今後30年以内にコンピューターの知能が人間を追い越すというシンギュラリティ時代の到来が現実味をおびてきたことのわかるビデオも紹介。

6.地頭力の章: そんな激変の時代が始まろうとしている中で、我々はどのように対応していけばいいのか、明日何か゛起こるかわからないこと、学校では教わらなかったことなどが、ますます頻繁に起こると予想される今後のインターネット社会て゛必要不可欠とされるのが「地頭力」て゛あり、その「地頭力」の程度を面接試験の場で試してみようと出題し始めたのが、マイクロソフト社などアメリカの先進企業だったことを説明。

 そして「日本の学校の授業は7割くらいが暗記重視で、3割くらいが思考。他を真似していればよかった高度成長期ならいざ知らず、今後、成熟社会で世界をリードしていくにはこの割合を逆にすべきであり、思考重視のアメリカ学校教育は試験のとき辞書や教科書の持ち込みは自由、だから暗記で解けるような出題ではなく、考えて解くという形だからアメリカは依然として創造性が活性化されていく社会になっている」と訴えるソフトバンクの孫社長のビデオを紹介。
 そこで世の中の第一人者と言われている人たちの考え方や企業の盛衰を、コンピューター分析なども含めて私が半世紀にわたって調べ続けてきた内容、つまり彼らも明日何が起こるかわからない難局を幾度となく乗り越えてきた点は同じだということから、彼らの資質やそのとき取った行動などを紹介。

 カルロス・ゴーン氏をはじめ、多くの第一人者の「やる気は才能に勝る」というメッセージのビデオを紹介し、企業も個人も本業や特技を軸にした付加価値を付け足していくことが、難局を乗り越え、それ以降、逆に発展していっているという多くの事例がよい手本になると解説。

 最後にビジネス界において、記憶力・計算力・知識量・感知度分野では、人間よりも勝るコンピューターやセンサーなどの機器に任せて、人間は本来の創造力・思考力・洞察力・判断力・柔軟性などに磨きをかけ、それにより未知・未体験の世界における問題を解決していく、独自性のある考える力=地頭力を培うことが、ますます重要になってくることを伝えた。

 以上が、講演会での概要です。それでは今号の設問に入ります。

設問133

ある人が8元で鶏を1羽仕入れ、一旦9元で売りましたが、10元で買い戻し、再び11元で売りました。いくら儲けたでしょうか?

 これは中国のBMW社で、その面接試験に出された問題だそうです。ということは、机上論式に簡単に考えてしまっては、相手の壺にはまってしまう可能性の強い問題ではないかということから、慎重に考えるという事前の心構えが必要です。

 まずはこの設問を見て一番考え易いのは、最初と最後との差でみる方法で、最初に8元の価値だったものが、最終的には11元の貨幣になって返ってきたわけですから、3元の儲けという回答。

 しかしよーく考えると、最初の8元だけでなく、途中でさらに1元使っています。
 だからここで改めて、使った全資金と最終的に受け取ったお金とを考えれば、最初の取引で8元の資金と、途中で使った1元を足し、合計9元の資金が流出。それに対して11元のお金を手にしたわけですから、差引2元の儲けとなる、とする回答。

 いや、そうではない。1つ1つの取引を見ていけば、最初9ー8 = 1 次に9ー10 = ー1(買い戻しのコスト) 最後に11ー10 = 1 だから、儲けはそれらの合計1+(ー1)+1 = 1の1元であるとする回答です。
 これが実社会の取引という観点からみた儲けということなのですが、さらにもっと現実的に実社会を見なさい、というのがBMWの最終的に要求している回答のようです。

 つまり、市場の動向をみた営業をやっているかどうか、そこまでを見ようとしている設問だということです。
 市場動向から判断して、最初8元で売るときのタイミングを少しガマンして延ばし、最終的に11元で売れるときまで待って売れば、差引3元の儲けとなったはずだという考え方です。
 したがってタイミングを逃し、3元の損失となるところを、前述の1元のプラスとなった差額である2元が損失という回答、これがBMWの求めていた回答ということです。

 この設問の背景は、単に机上論的な見方で問題に接するのではなく、あくまで先までを考えて市場を見る現実社会に立脚した見方、考え方ができる人間かどうか、そこまで深く応募者の中身をみようとしている出題だということでしょう。

 それでは設問133の解答です。

正解

正解 133

 2元の損失。市場の値上がり動向をみながら、最初の仕入れ8元のときの取引を止め、11元で売れるときまで待てば、3元の利益が得られたことになり、結果3元の機会損失となるが、途中のコストなどのかかった取引の合計、1+(ー1)+1 = 1の1元(最初9ー8 = 1、次に9ー10 = ー1<買い戻しのコスト>、最後に11ー10 = 1) のプラスとの差引の結果、2元の損失となる。

 本来なら、当連載も完結なのですが、愛読者が知らせてくれた良い問題や米企業が出した考えさせる問題がまだありますので、もう1、2回続けたいと思います。


 では、次の問題をやってみてください。

問題 設問 134

 次の三角形の面積を求めよ。

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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