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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その134

易しい問題には疑ってかかる

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 前号の巻頭では、日本橋公会堂で開催した講演「どう変わる インターネット社会」の概要をお伝えしましたが、スペースの関係でコンピューターの人工知能が人間の知能を超える特異点、シンギュラリティについては割愛しました。

 そこで今回、それについて少々触れておきます。
シンギュラリティとは、一般に特異点という意味ですが、コンピューターの進化に関連づけて、それを人工知能が人間の知性を超える時点として、2005年に出版されたThe Singularity Is Near: When Humans Transcend Biologyの中で使ったのが、アメリカの発明家で未来学者のレイ・カーツワイルでした。

 まず彼の予言が的中していることから見てみます。彼が42歳のときの1990年にThe Age of intelligent machinesの中で、まだインターネットのかけらもないとき、つまり物理的な通信の技術はあったものの、画面上に情報を出して、世界中の誰もが読めるように表示するための技術(ブラウザー)がなかったとき、今日普及しているインターネットシステムを予言、またコンピューターがチェスの世界チャンピオンになることも予言、それらを的中させていることから、以降注目される人物となりました。

 このブラウザーのリリースは、Netscapeが94年12月、Microsoftは95年8月。コンピューターがチェスの世界チャンピオンを破ったのは1997年。いずれも5年〜7年もの先読みで的中させています。
 またずっと後の2012年、将棋の世界でも名人に勝利するのですが、しかしその時点で、囲碁の世界だけは永遠に勝てないだろうと言われていました。なぜなら、チェスと将棋の指し手は、それぞれ10120、10220通りなのに対して、囲碁は10360通りもあるからです。宇宙に存在するすべての原子の数でさえ1080通りです。その可能な指し手一石一石をあらかじめプログラムに組んでおくなどということは、不可能な話なのです。

 しかしそんな中で、昨年の3月には韓国の、今年の5月には中国の囲碁チャンピオンを破ってしまい、もはや囲碁の世界でも人間はコンピューターに勝つことはできないだろうということになりました。
 なぜ不可能と言われていたことが、こんなにも早く可能になったのか。
 それはコンピューターの記憶容量が、年々指数関数的に大きくなり、ビッグデータを容易に取り扱うことができるようになったこと、そして演算スピードが、やはり飛躍的に高まっていったからです。
 囲碁で世界チャンピオンを連覇したコンピューターのアルファ碁には、一切プログラム入力はしないで、ただ膨大な量の局面画像を読み込ませ、またアルファ碁同士の対局をさせただけです。

 実際、読み込んだ画像の数は15万局分、1局平均110手ほどならば、15x110=1650万画像。また対局は約4500万局分のシュミレーションです。
 画像は文字と違って、ケタ違いの記憶容量を必要としますが、そのビッグデータの取り込みや、また膨大な量の演算も可能となり、この進んだ環境の中で、個々の特長を割り出して顔やモノを認識できるいわゆるコンピューターが眼を持つことを可能にした新ソフト・ディープラーニング手法により、各局面の好手パターンを認識し、自ら学習していく人工知能ができあがったというわけです。

 この囲碁の件以降、一躍、人工知能の話題が沸騰し、シンギュラリティも話題にあがるようになったわけです。
 カーツワイルは、2045年頃をコンピューターの演算能力が人間の脳の100億倍にもなる技術的特異点と予測しておりますが、ただ人工知能が人類史上初めて人間よりも賢くなる年は、当初予想していたよりも早まって2029年頃になると、今年2017年の3月、テキサス州で開催されたコンファレンスで述べています。
 2030年と丸めた数ではなく2029年としているところは、急速に人工知能のブレークスルー研究が世界的に広がって、何か根拠とする背景があるものと思われます。

 ここでカーツワイルが2005年、57歳のときに出版したThe Singularity Is Nearの中で述べていることを2、3取り上げてみますと、それらは驚いてしまうことばかりです。

  • 脳をスキャンしてアップロード。 人間の脳をスキャンしロボットにインストールするというもので、その人の人格、記憶、技能、歴史の全てが取り込まれるとしている。
  • ヴァーチャル・リアリティ。 5感全てを組み込んだバーチャル・リアリティ環境により、現実のオフィスを使う理由はまったくなくなり、どこでも好きなところに住んで仕事をするということになるとしている。
  • ナノロボット。10億分の1メートル、1千万分の1cmという大きさの自ら運動する血球ロボットを血管に流し込めば、血液が自動的に流れることになり、ポンプの役目をしている「心臓」が不要になる。栄養やホルモンなども血中のナノロボットたちが提供し、他の臓器も不要になる。残るのは骨格、皮膚、生殖器、感覚器官、口と食道上部、そして脳くらい。
  • 老化のコントロール。ナノ医療によって、あらゆる生物学的老化を継続的に止めるだけでなく、現在の生物学的年齢から本人が希望する年齢へと若返られるようになる。今は人間というハードウェアが壊れると、生命というソフトウェアも一緒に消えるが、しかし脳に納められた数兆バイトもの情報を保存し、復元する方法がわかれば、精神の寿命は、個別のハードウェア媒体の永続性には依存しなくなる。だからソフトウェアをベースとする人間はウェブ上で生きてゆき、必要なときや、そうしたいと思ったときには体を映し出す。

などなど。

 これらは、まさにSFの世界を彷彿とさせ、誰もが「現実離れしてあり得ない話」と感じてしまいますが、しかし「21世紀初頭には、手のひらサイズの小さな装置で、世界中の人と無料で音声やメールでコミュニケーションができるようになっている」と100年前の日本人に説明したら、同様に「あり得ない」との反応が返ってくるのではないでしょうか。

 そのシンギュラリティについて、実現年次に多少誤差はあるかもしれないが、今後30年前後で必ずその時がくる、と断言しているのが、ソフトバンクの孫正義社長です。

 孫氏が昨年のソフトバンクアカデミアの特別講義で語ったときのその概要は、次号でご紹介いたします。

 それでは今号の設問に入ります。

設問134

次の三角形の面積を求めよ。

 ほとんどの方が当設問を見た途端、なんだこの設問は! バカにするな! と思われたのではないかと思います。三角形や平行四辺形、ひし形や台形の面積の求め方、それから円周率は小学5年生で学びます。
 したがって、三角形の面積の出し方である公式を使って、底辺掛ける高さ割る2で、設問の面積は 10 x 6÷2=30と、いとも簡単に出ます。

しかし、面接試験でそんな易しい問題が出題されるわけがありません。ましてやこの設問は、アメリカ大手IT企業が出した問題のようです。
 その上、設問でどこにも疑う余地もなさそうな三角形が、そこに図解までしてはっきりと示されていれば、なおさらです。

 そこで当連載その73でまとめた、問題を解く手がかりや糸口、あるいはその突破口となる対処法を思い出していただくと、その中に、「易しすぎと思える問題やすぐに解けそうな問題には落とし穴があるので、落ち着いてよ〜く考えること」とあります。
 ではどこに問題があるのか。三角形は三角形でも直角三角形が3つありますが、それには数値がついています。
 とすると、問題は直角三角形と数値、この2つの関連に基づくものではないか、という視点に向かう地頭力の出番です。はたしてこのような数値でいいのだろうか、と疑う地頭です。
 そのことに早く気づいてほしいというのが、おそらくこの設問を出題した側の期待していることではないか、ということです。

 それは、「円の直径の両端と円周上の任意の点を結んでできる三角形は、必ず直角三角形になる。言い換えると、三角形の斜辺を直径として、その三角形が円に内接するとき、そのすべての三角形は直角三角形になる」というものです。

 なぜか。この連載には中学受験の愛読者もいるということなので、ここでおさらいをします。
 まずは三角形の内角の和は180度であることの証明から。頂点Cを通る辺ABに平行な線を引けば、そこにできるα、β、γは図1の通りで、合計180度となります。

 次に「三角形の斜辺を直径として、その三角形が円に内接するとき、そのすべての三角形は直角三角形になる」は図2の通りです。
 この図2でOは円の中心。だから線OAも、線OBも、線OCも半径で、その長さは皆同じ。したがって、三角形OACも三角形OBCも二等辺三角形で、その底角はそれぞれ同じ角度になる。
 そこで三角形ABCを考えれば、角度Xと Y の関係で2 X+2Y=180、だからX+Y=90度の直角ということになります。

 では設問に戻って、斜辺10cmを直径にして図3のように円を描けば、設問の三角形の6cm部分は半径以上のため、円からはみ出してしまいます。  ということは、設問のような直角三角形はできない、つまりあり得ない三角形だということです。

 では、なぜこんな問題を出題したのか。その背景は、いかに早くこのような直角三角形は存在しないことを見抜くか、さらにそれを素早く理路整然と説明できるか、そのスピード回答と論理的な頭脳を見ようという出題ではないかと思われます。

 それでは設問134の解答です。

正解

正解 134

 このような直角三角形は存在しないので、その面積は出せない。直角三角形の斜辺を直径にした円を描くと、その斜辺を一辺として内接するすべての三角形は直角三角形になり、その斜辺からの高さは最大でも6cmにはならず5cm。したがってこのような直角三角形は存在しないことになる。

 それでは当連載締めくくりとして、愛読者からの次の問題をやってみてください。

問題 設問 135

 次の図のそれぞれ3つの正方形の面積をもとめなさい。ただし、xなどを利用した方程式は使わないこと。

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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