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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その47 問題の反対側を覗いてみる
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 直感から感じるものは、うまく解答に結びつかないという確率の例として、前問を取り上げてみましたが、今号の設問はどうでしょうか。


問題 設問47 ジョーカーを抜いたトランプ52枚の中から、無作為に順次5枚のカードを抜き取るものとする。この抜き取ったカードの中に、ハートの「エース」かクラブの「エース」があれば賞金がもらえる。賞金を獲得できる確率はいくらか。

トランプ1 トランプ2

 この問題は、そのまま順次考えていきますと深みにはまってしまうというサンプルです。つまり起こり得るケースを考えて、1枚目がハートの「エース」またはクラブの「エース」である場合、次に1枚目に両者が出なかった場合に2枚目にハートの「エース」またはクラブ「エース」が出る確率、1枚目も2枚目も両者が出なかった場合・・・、いや1枚目にはハートの「エース」が出て2枚目以降は出ない場合、いや1枚目にはクラブ「エース」が出て2枚目にハートの「エース」が出る場合、いや2枚目に出ないで3枚目に出る場合、いや、いや・・・とやっていきますと、何がなんだかわけがわからなくなってきてしまうということです。

 といっても、「これが正解です」と、いきなりその解説に移るのはこのサイトにおける本意ではありません。もちろん正解への道へと、すぐに進まれた方もあると思いますが、あくまでもこの連載では、基本の考え方ができていれば広くその応用が利くという、正解に至る必然性を解いていくところにあります。

 ではその必然性とはどこにあるか。まず、このわからなくなるところまで考えること自体、悪くはないということです。つまり、1つは、そこでさらに懸命に考えようとする「考える脳作り」をうながし、また1つはそれによって解決の手がかり、糸口につながるものが発見し易くなる、ということにあるからです。
 その糸口ですが、「わけがわからなくなってきてしまうのはどうしてか」と、いずれその原因を深く考えることに至るはずで、結果、問題を複雑でわからないような方向に持っていく元凶は、○○の場合、または△△の場合、または・・・という具合に、ケースが多くあり過ぎるということに気がつくはずだということです。

 そこで、これまでも度々見てきましたが、「視点を変えて見る発想の転換」、あるいは「隠れているものを考えてみる」ことを思い出してください。それによって複雑さを簡単な世界へと導けたことがしばしばありました。視点を変え隠れているものを考えるとは、今、見えているものの反対側にあるものです。

ハートの「エース」とクラブの「エース」

 この設問の場合の反対側にあるものとは、ハートの「エース」またはクラブの「エース」以外のものと、すぐ思いつきます。ところが以外のものは、かえって対象の数が多くなって、複雑さは増すばかりです。

 そこでもう一度、複雑さの元凶を考えてみます。この辺がビル・ゲイツの求めている「よ〜く考えるねばり強さを持つ資質」に当たります。
 ここまでくるとはじめてその元凶は、ケースが多くあり過ぎること、つまり「または」という条件にあることがわかってくるはずです。

 ここで確率の基本。どんな条件でも何でもいいですが、該当する確率とそれ以外の確率とは、それらを加えれば必ず1になるということです。そんなことはわかっているとお叱りを受けるかもしれませんが、丁寧な説明をすれば、52枚のカードからハートの「エース」を引く確率(=1/52)と、ハートの「エース」以外のカードを引く確率(=51/52)と、この2つの確率を足すことにより、必ず1(1/52+51/52=1)になるということです。
 つまりもしも該当するもの以外の確率のほうを簡単に出すことができれば、1からその確率を引くことにより、該当するものの確率も簡単に出せるということです。

「or」→「and」

 そこでこの設問で、「または/or 」の反対、つまり「and」で、該当以外の世界を考えてみるとどうなるか。
 問題をさらにわかり易くするために、設問22のような極端な場合を考えて、ここで5枚引くのではなく1枚引くというケースで、該当以外の確率をandを使った表現で考えてみますと、「ハートのエースandクラブのエースが1枚目に含まれない確率」となります。ちなみにそれは50/52です。
 もともと1枚目がハートの「エース」またはクラブの「エース」である確率なら、52枚のうちの2枚が該当しますから、それは2/52と最初からわかっていることなのですが、この該当以外のほうから計算すると1−50/52=2/52と、まずは同じ答えが出てくるという確認と、このような基礎的な考えを持っていれば、広く応用が利くという観点から、敢えて詳しく説明をしているわけです。

 どうやら正解への道が見えてきたようです。では続いて2枚引くケースなら、「ハートのエースandクラブのエースが、1枚目and2枚目に含まれない確率」で、これは前問でやったように従属の問題になりますから、50/52×49/51です。
 同様に5枚で考えれば、該当以外とは「ハートのエースandクラブのエースが、1枚目and2枚目and3枚目and4枚目and5枚目に含まれない確率」となり、その値は50/52×49/51×48/50×47/49×46/48 です。
 したがって、求める解答は 1−50/52×49/51×48/50×47/49×46/48=1−(47/52)×(46/51)=(2652-2162)/2652=18.5%と出てきます。

 実際に細かな計算が必要になる設問なので、これは面接試験場で出されたものではありませんが、卓上計算機の持ち込みなどがOKであるような場合ならばもちろん、たとえそうではなくとも、受験応募者の論理思考が見られるという点でも格好の試験問題になるということです。
 解答への糸口として、問題に隠されている部分や反対側を覗いて見ることがヒントになり、したがってその出題背景として、「確率の考え方の基礎が出来ているか」、また「その応用力があるか」という論理思考の有無、さらに「ねばり強さを持つ資質か」などを見ることができるということです。

 ここで見た確率の世界で反対側にある「該当するもの以外」のことを「余事象」と言うのですが、これを使うことによって簡単に確率計算ができてしまうことから、このような学術用語が定着しているということです。したがってその応用力をいろんな身近なところで試すことができます。
 たとえば、学校でも職場でもサークルでもどこでもいいですが、「集まった集団の中に、同じ誕生日の人が少なくとも1組は存在する確率」も簡単に出すことができます。
 「1組だけ同じ、いや2組ある場合、いや3組ある場合、いや・・・などと考えていると、混乱するだけということは、先にも学んだとおりです。そこでこの「余事象」を考えるわけです。

 つまり1年を365日として、まず集団が2人だけという極端な場合を考えてみます。そこで2人の誕生日が異なる場合、1人の誕生日に対して2人目の誕生日は残りの日だと考えれば、その確率は364/365です。
 では集団が3人の場合はどうか。この場合、3人目が前の2人と誕生日が異なればよいので、この場合の確率は364/365×363/365、したがって以降、集団全ての人の誕生日が異なるこの余事象の確率は364/365×363/365×362/365×・・・のように計算していけばよいことになります。

表1 誕生日が異なる/同じである確率の計算

表2 集団の人数別の確率

 こうして少なくとも2人の誕生日が一致する確率は、(1−余事象)で計算できます。その確率は集団の人数によって表1表2のようになり、集団が70人になれば、その中に99.9%の確率で同じ誕生日の組があるということがわかるわけです。100人なら、もう100%と言ってよい値です。

 直感からは、そんなに高い確率だということをなかなか想像できませんが、40人のグループにしても、その確率は約90%にものぼります。
 「同じ誕生日の人が、40人の中に1組はいるか」という賭けで、もしもあなたが「いる」ほうに賭ければ、100回中90回はあなたの勝ちになるわけです。
 いかがですか。基礎的な論理思考の頭脳作りさえできていれば、いろんな問題の解決も簡単にできるようになるということがわかります。

 では、今号の解答です。


正解 正解47 条件の「または」が問題を複雑にしていることから、これに該当する以外の残りの部分を考える。それは「ハートのエースandクラブのエースが、1枚目and2枚目and3枚目and4枚目and5枚目に含まれない確率」であり、その値は50/52×49/51×48/50×47/49×46/48。したがって、求める解答は 1−50/52×49/51×48/50×47/49×46/48=1−(47/52)×(46/51)=(2652-2162)/2652=18.5%。


 では、出題背景を考えながら、次のビル・ゲイツの設問を解いてみてください。


問題 設問48 箱がx個とy枚の1ドル札がある。お金を箱に封入し、どの箱も開けず箱を渡すだけで、0ドルからyドルまで、求められた総額を出せるようにしなさい。そのとき、xとyにはどんな制約があるか。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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