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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その81

具体的アプローチから発想の転換を

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 マンホールの設問5、ケーキ二分の設問19、テニストーナメントの設問32、鏡の設問36、ビール缶の設問39、競輪競争の設問69、絶壁の設問75など、日常注意しておくと役に立つような問題として、ごく日常的に起こりそうな問題を過去いくつか掲載してきましたが、グラスの半分になる薬溶液の前問も、いざというときに力を発揮すると思われますので、頭の片隅にでも入れておかれることをお薦めいたします。

 さて、今号の設問はどうでしょうか。その内容を見れば、論理思考の極意のような問題かもしれません。

問題 設問81  ここに硬い新素材で新たに開発したボール状の製品が2個あり、その耐久性をテストすることになりました。製品は見た目だけでなく、すべての面で精巧厳密に作られているため、その耐久性もまったく同じです。100階建てのビルの何階以上から落としたら製品が壊れるか、あなたはそのテストを依頼されました。製品が100階から落としても壊れないほど堅固なものに仕上がっているか、1階から落としてもすぐに壊れてしまうほどもろいものなのか、製品の耐久性については一切わかっていません。このテストで落としたら確実に製品が壊れる階を特定するためには、最低何回落とさないといけないか、あなたはどう算定しますか。正確な階が特定できるのであれば、製品は2個とも壊れてもかまいません。

100階のビル

 夏休み期間を利用して解いていただけるような少々骨のある問題として、昨年は相対性理論を出題しましたが、今回の問題はアインシュタインほどの発想の転換は必要ないと思われるものの、やはりその内容を見て、かいもく見当がつかない、あるいはその取っ掛かりすらわからないとされた方も多かったかもしれません。

 さらにはまた、特定のものを探し出す似たような問題として、過去、本稿シリーズに出題された設問を振り返り、設問その30の図書館の問題や設問その55の電話帳の問題を思い出された方々もおられたかもしれません。

 図書館の問題は図書配列ルールを調べ、順次、探索範囲を狭めていくというやり方で、二分探索、つまり探す範囲を半分ずつに分けて、それを繰り返していく方法で解けました。
 ちなみに当設問の100階という範囲ならば、それを半分ずつに分けて調べていき、該当するところに辿り着くまでの回数は2≧100となるnですから、解は7回と出ます。
 しかしこの方法ですと、1階から落として壊れるような脆い製品であった場合、少なくとも製品が6個以上ないと特定できないわけです。
 したがって、製品が2個しかない当設問81にこの二分探索は適用できません。

 では電話帳の問題はどうか。その内容は、電話帳の中である特定の名前を見つけるのに平均して何回ページを開かねばならないか、というものでした。
 実際この場合、1回開いただけでぴたりと当る場合もあれば、ほとんど永遠に開き続けなければならない場合もあり得ることがわかりました。
 だからその設問では平均して何回開かねばならないかと、「平均」を訊いていることがわかり、結果、「余事象」を使って確率という形で解答を導き出すことができました。
 それを踏まえて設問81を考えてみますと、「最低何回落とさないといけないか」と断定した解答を求められており、平均や確率とはまったく無関係な問題であることがわかります。
 したがって、電話帳の設問も参考になりません。

 しかし必ずどこかにその手がかりや糸口、突破口があるはずです。この連載の解説で常に意図していることは、世の中に多く見られる単に「正解はこうです」といった、いきなり解答に飛ぶ解答形式ではなく、正解に至るまでの必然的な思考過程というものを丁寧に説き、解答に至るまでのその必然性を見ていくことに重きを置いています。

 読者の皆さんに対して、どうしてそのような形で思考が進んで行ったのかという道筋がしっかりとわかる解説がなされていなければ、その解答は単なるその場限りの「思いつき」という強い印象を与えてしまい、したがって実社会において日常、次々と出てくる難問を解決していく思考能力の養成には何の役にも立たないということです。
 まずは問題を注意深く読み、最初の突破口、糸口、手がかりを見つけ出す過程、そしてそこから必然的に解答に至る過程を見て行くことにして、当設問81を考えてみます。

 そこで設問を注意深く読んで整理しますと、まず
 ・使える製品が2個ある。
 ・だから一投目は試し打ちができる。
 ・2個とも壊れたら、それ以上は試せない。

となり、そして次に必然的に考えられることとして、
 ・当然のことながら、製品が壊れなければ、何回でもテストに使える。
 ・その最初の試し打ちで壊れなかったら、それから下の階は試す必要がなく、一気に
  省略することができる。
 ・だから、この省略できるということがあるから、1階から100階までを全部試す必要は
  なく、何回落とせば特定できるかという最低回数を問う設問につながる。

ということがわかってくると思います。

 ではこのことを念頭において、次に「突破口、糸口、手がかり」に進みます。
そこで過去出題の典型的な9つの問題分野から、その手がかりや糸口、あるいはその突破口となる17の対処法をまとめた当シリーズ「その73」を参考にしますと、当設問81は「複雑に見える問題、数量が多い問題」に該当しそうで、また100階という大きな数を扱っていることから、いくつかあるその対処法の中では、まず最初に「小さな数字や量で単純化、シンプル化してやってみる」という項目が相当しそうです。

 そこで、100階建てのビルではなく、まず1階、2階、3階建て・・・だったらどうかと、順次、やってみます。
 この途中の過程で常に注意して考えておかねばならない大事なことは、
 ・最少の落下回数で済む方法。
 ・各ビル最上階から投下しても壊れないケースは、最少落下数に貢献する。

です。
 では、便宜上、試し打ちの製品をA、残っている製品をBとして、順に投下回数をみていきます。

図1

 1階建てを調べるには、製品Aの1個だけあれば充分で、投下回数は1回です。
 2階建ての場合、まずAを最上階の2階で試し、壊れなければ投下は1回だけで済みますが、壊れればBで1階を試さねばならず、少なくとも投下は2回必要になります。
 3階建ての場合はどうか。前の2つの投下必要回数は、1階建てが1回、2階建てが2回でしたから、3階建ての場合は3回になるかというとそうではないのです。Aを最初3階から落として壊れたら、次にBは1階から見ていく必要があります。もしも2階から見ていくとして2階で壊れたら、もはや1階を試す製品がないからです。
 では最初Aを2階で試した場合はどうか。壊れたらBで1階を、壊れなかったらAかBで3階を試せば、壊れるか壊れないかの階数がすべてわかります。したがってこの順序で試す場合の必要投下回数は2回で済みます(図1)。なぜこのようなことが起こるのかと言えば、製品の数よりも試す階数が大きくなったからです。
 しかし、最初3階からの落下で壊れなかったら、投下数は1回で済むことを忘れてはなりません。最終的に100階まで調べなければならないのですから。

 ここに至って初めて、「或る落下回数に対して何階まで調べられるのかに注目する必要がある」と、気付くのではないでしょうか。発想の転換、これが必然性です。
 つまり、落下数1回では1階分まで、落下数が2回では3階分まで調べられました。ではその延長としてもっと高いビルの場合はどうでしょうか。落下数が3回だとどうなるか。最上階から投下しても壊れないケースを考慮して、3階から落とします。製品が壊れなかったとすると、残りの落下数は2回です。落下数が2回では、上述のように3階分まで調べられましたから、さらに3階分、つまり3階+3階分で最高6階分まで調べることができるわけです。一方3階から落として壊れたら次に1階、2階と順に落としていくことで3階より下の階の分もカバーできます(図2)。

図2

 では落下数が4回のときはどうか。やはり最上階の4階から落としたとします。
このとき壊れれば1階から順に調べればよく、もしも壊れなければ、あと3回の落下を試せます。前述の落下数3回で見たように6階分まで調べることができますから、落下数が4回では、4階+6階の10階分まで調べられるということです。

表1

 ここまで来ると、落下回数と調べられる階数の間での規則性がわかってきます。
表1のように、落下回数Nで、1+2+3+4・・・+N階まで調べられるわけです。ここでわかることは、Nが14、つまり落下数14回で100階をカバーする105階まで調べられるということです。

 このことを言い換えますと、100階までを試せる最も多い落下回数は14回で、あとは壊れる階がどこにあるかによって、この回数以下で特定できるということです。
 以上の説明で、まず試し打ちを14階から始めればいいことがわかると思います。そして14階で壊れれば、1階から順に13階まで、壊れるまで調べていけばいいだけです。
 ここでこの14という数は、特定階が試し打ち階の1階下13階の場合、落下回数が14回となることを意味している、ということはおわかりになると思います。

 次に、もしもこの14階で壊れなければ、すでに落下数14回のうち1回を使ってしまっていますので、残りで使える落下数14−1=13回を考慮して、2回目は14階+13の27階からの落下を試みればよいことになります。27階で壊れれば、15階から順に上へあがって26階まで調べればいいわけです。

100階のビル

 次に27階で壊れなければ、前述同様3回目は落下数13から1回引いた12階飛んで、今度は27階+12階の39階に上がって試します。
 このようにして壊れなければ、14+13+12+11+10+9+8+7+6+5+4+3+2+1のそれぞれ足し算の区切りとなる数のところ、39階の次には50階、60階、69階、77階、84階、90階、95階、99階、そして最後はこのビルの最上階100階と、順に階数を上げ試していけばよいわけです。

 では、実際に分かり易く理解できるよう、たとえば具体的に壊れる特定階が72階だとしたらどうなるかやってみます。
 まずA製品で1回目14階からの落下(壊れない)、2回目27階からの落下(壊れない)、3回目39階からの落下(壊れない)、4回目50階からの落下(壊れない)、5回目60階からの落下(壊れない)、6回目69階からの落下(壊れない)、7回目77階からの落下(壊れる)、A製品が壊れたこの時点で今度はB製品を使い、A製品が壊れなかった69階の上の階70階から8回目の落下を試みます。
 そして以下、順に1階ずつ上がって試していけば、10回目の落下となる72階で壊れるということになります。

 ちなみに100階まで壊れなかった場合、そこまで12回の落下が必要です。また13階、26階、38階・・・など、前に見た足し算の区切りとなる階の1階下が壊れる階である場合に、それぞれ14回の落下が必要になることもおわかりいただけると思います。

 今号の設問81は少々骨のある問題として、夏休み期間の充分な時間を取って論理思考の世界を堪能してくださいとしましたように、この設問の背景は、かなり深く複雑な論理思考ができるかどうかを見ようとするものです。と同時に、いかに早くその普遍性、一般化ができることに気付くかどうかも重要なポイントとして見ようとしているものです。

 それでは設問81の解答です


正解 正解81  14回。(必要なら本文で解説した要点、(1)落下回数に対して何階まで調べられるのかを算出、(2)そこで飛び飛びに試せる階、を説明すれば万全です)

 では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。


問題 設問82  1日24時間のうちで、長針と短針が重なる回数を、2つ以上の解法で説明してください。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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