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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その2:氷山と水位と地球環境
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 浮力というものを水位にまで結びつけた前回の設問は意表を突いた問題で、そんなことまで考えもしなかったという方が多かったのではないでしょうか。
 これからもその出題背景も含めて順次ご紹介してまいりますが、その多面性から派生する他の類似問題も考慮に入れながら、引き続き試験問題にチャレンジしてみてください。

 それでは前回の設問から派生する、

問題 設問2 北極などの海に浮かぶ氷山が溶けてしまった場合、海面の水位はどうなるか

の解答に移ります。

 この設問で予測できるのは、<水中の物体はそれ自身の体積と同じ体積の水の重さ分だけ浮力を受ける>という排水量と浮力の原理をよく理解している人ほど、「氷山が溶けたとしてもその全重量は変わらないので、水位は変わらない」とする解答です。

 では、解説に移ります。

 まず、厳密に言えば摂氏4度のとき、水1cm3あたりの重さは1グラムになりますが、ここではその温度差を誤差の範囲として、一般に水1000cm3、つまり1リットルはちょうど1kgとして考えます。この1リットルの水が凍った氷を水槽に入れた例で見てみましょう。
 水は氷になると体積が大きくなり約9%増えます。この氷を水槽に入れれば、同じ水同士なので氷は沈むことなく、氷の体積が増えた分だけ水面上に顔をだしていることが想像できます。

 では、約という端数を捨てて、ここではちょうど9%増で計算してみますと、1リットルの水が氷になると、体積は1.09リットルになります。もちろん重さは変わらず1kgです。
 排水量の原理により、1kgの氷は1kgの水槽の水を排水します。これは水槽水1リットル分です。つまり、氷はその体積1リットル分だけ沈むということです。
 この氷の体積は1.09リットルになっていますから、沈んでいる1リットル分を引いた残りの0.09リットルが水面上に出て浮かんでいるということになります。通常、コップの中に浮いている氷は、その約9割が水面下、1割が水面上にあるというわけです。
 しかしこの氷が溶ければ、重量は変わらずに元の体積1リットル分の水に戻るだけですから、これまで排水していた1リットル分の水の量と差し引きゼロで何の変化もなく、したがって水位も変わらないことになります。

 では、設問の海に浮かぶ氷山となるとどうでしょうか。

 氷山とは、極地の氷河や氷床から海に流れ出た大きな氷塊をいい、中身は真水です。氷山の多くが凸凹したとがった山の形をしているのは、それらが山あいのV 字状の断面をもつ氷河から流出して海の中で転倒したためで、陸地から運ばれた淡水、つまり真水の凍ったものだということがよくわかります。

 これに対して、海の水は真水ではなく塩分を含んでいます。つまり1kgの氷が排水する海の水1kg分の体積は1リットルではないということです。海水は淡水より重く、海水1リットルは約1.1 kgであるため、排水する海水1kgの体積は0.9リットルなのです。
 したがって海水に入れた1kgの真水の氷は0.9リットルが海面下にあることになり、もともと1kgで1.09リットルとなっている氷は、差引き0.19リットルの体積を水面上に出しているわけです。だから氷山は、コップの中の氷と違って、その約2割が海面上に顔を出していることになります。

 しかし水位の問題に戻れば、この1.1リットルの氷が溶けると1リットルの水に戻りますので、排水していた海面下0.9リットルを埋めたその差の0.1リットル分が余ることになり、その分だけ水位が上がるということなのです。
 これは真水と塩分を含んだ海水の比重が違うからで、比重が同じということでもしも海水でできた氷ならば、それが海中で溶けても水位は変わらないことになります。

正解 正解2 氷山はみな真水でできているので、それが溶けたら海面の水位は上がる。

  これは、ゲイツの出した問題ではありませんが、昨今の課題である環境問題・地球温暖化に関連して私自身が考えてみたものです。
ちょうどよい機会なので、その海面上昇に関連する事柄につき、ここで少し考えてみたいと思います。

 信頼筋のデータによれば、地球上の水分の98.3%が海水で、湖を含めた真水はたったの1.7%しかありません。その真水も、氷(固体)が2,370万km3(97.8%)、水(液体)が50万km3(2.1%)、水蒸気(液体換算)が1.4万km3(0.1%)と、なんと98%が氷の状態です。

 地球上の大きな氷塊は、陸の上にあるものが「氷床」、そのうち河のようになっているのが「氷河」、氷床が海に突き出したものが「棚氷」、氷床や棚氷が壊れて海に流れ出したものが「氷山」、海水が凍ったものが「定着氷」、定着氷が割れて漂っているものが「海氷」「浮氷」「流氷」などと呼ばれていますが、それら全部の氷のうち9割近くもが南極大陸にあります。だから、温暖化で南極の氷が溶け出すとすると、もはや深刻な問題どころではなくなるわけです。

 では、地球上の氷 2,370万km3が全部溶けたとしたら、海面水位の変化はどうなるか概算してみます。

 現在の地球の半径rは6,370kmですから、その表面積は4πr2=(4x3.14x6,370x6,370)=509,646,000km2となります。測定陸地面積は148,890,000km2ですから、海に相当する面積は差引き360,756,000 km2で、この部分だけに2,370万km3の氷が溶け出すとすると、23,700,000km3÷360,756,000 km2=0.0657kmと、約66m海面上昇が起きることになります。しかし実際には、陸地に水がどんどん入っていくのでこれよりは下がります。

 また氷の量はもっと多く2,670万km3くらいという説もあり、この場合の海面上昇は74mになりますが、いずれにしろ氷の全解だけで地球上の大中すべての都市部は全滅です。
 オーストラリアの2倍もある南極大陸で、その97%を覆っている氷の厚さは、平均2,000mもありますから簡単にすぐには溶けないものの、それよりは薄い氷河などでは明らかに温暖化の影響を受けて溶け出していることが、名古屋大学環境学研究科チームの撮ったヒマラヤの写真からもよくわかります。

ヒマラヤの比較写真
ヒマラヤ 1978年     ヒマラヤ 1998年
1978年
   
1998年

 しかし氷の溶解だけに目が向きがちですが、実は温暖化による水位の上昇の6割以上は海水の熱膨張によって引き起こされるのです。先ほど、「氷の全解だけで」と述べたのはこの意味からです。

水1gの体積変化

 熱による水の膨張率はグラフのとおりで、 水の温度が僅か2度上がっただけでも、とてつもない水位上昇に結びつくことが、地球上の水分の98.3%という膨大な海水の量を考えれば容易に納得できます。

 この研究チームが温暖化 1.4〜5.8 ℃で100年後を予測した2100年の海面上昇値は42cm(中間値)と報告しています。その要因別上昇値は次のとおりです。

(海面上昇の要因)
要 因
推定上昇(cm)
海水の熱膨張
27  
氷河
12  
グリーンランド氷床
3.1  
南極氷床
−0.1  
  合 計
42  

 

 この100年間というスパンで見れば、南極の膨大な量の氷床は、むしろ温度を吸収するほうに作用してくれるということでしょうか。

 短期的な氷解のもたらす弊害は、水位の上昇以前に起こる気象変動です。干ばつや豪雨なども含め、今日の気候地図は完全に塗り替えられてしまいます。
 一方、氷解した周辺海域の塩分濃度がぐっと下がってしまうことから一帯の比重が変わり、海流筋が激変してしまうのです。そして潮の流れの影響は連鎖的に生態系へと伝播し、今日の生物界のバランスにも壊滅的な打撃を与えてしまうわけです。

 一方では温暖化による陸地の砂漠化の問題があります。その解決の一助として、氷山の利用が真剣に考えられています。北極海に面したカナダや南極における大きな氷床や棚氷から流出する氷山には、氷島と呼ばれる比較的表面の平坦な長さ・幅とも数 km にも及ぶものがあり、南極海で発見された最大の氷島は神奈川県くらいの面積もありました。
 こういう氷山を曳航して、中東の砂漠地帯への水供給に役立てようという研究が行われていますが,曳航などの技術的な難点,波浪による氷山の崩壊など研究課題も多く,いまだ実現には至っていません。

  以上、設問1から派生する水位の問題として、氷と温暖化という環境課題を考えてみましたが、いずれにしてもこの地球という住みかを、我々の子供や孫そして先々の子孫から、今日、借り受けていることを思えば、小さなこととは言えクールビズ(CoolBiz)など、今、省エネと温暖化防止に一歩踏み出すことは必要不可欠なことです。

 ではビル・ゲイツの出す次の設問を、次回までに考えてみてください。

問題 設問3 南へ1キロ、東へ1キロ、北へ1キロ進むと出発点に戻るような地点は、地球上に何ヵ所あるか


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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