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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その26:筆記試験と面接試験の違い
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 ソフトウエア開発に非常に重要な論理学として、前号では選言の問題を見てもらいましたが、実際の面接ではその正解率はかなり低かったようです。
 その理由として、選言問題には心理学者が指摘する人間の陥りやすい背景、つまり人間にはまず目に見えているもの、確実なことをベースにして推論を始めるという性癖があるとのことで、設問25で言えば、「見えていない文字が母音だとすると、どうなるか」とか「見えていない文字が子音だとすると、どうなるか」など、未確定なものから始める推論が苦手だとの指摘です。

 隠れているものや不確実なことに思いを巡らせるのをどうしても苦手とする人間、その格好な例として、心理学の教授が大学で行ったこんな調査結果を報告しています。
 学生に対して「重要な卒業試験を受けたあと、今、その試験に合格したかどうかその結果はまだわからない状態だが、もう一方で、盛りたくさんの楽しいプログラムが組まれている卒業記念旅行が、近々、予定されている。しかしその旅行の申し込み締め切り日は明日で、試験の合否に関する成績発表はその翌日まで待たないとわからない。 
 このような現状をふまえた上で、楽しいことがいっぱいある卒業記念旅行の料金を皆さんは払い込むかどうか」という質問を出したところ、大半の学生は旅行に行かないという結果だったそうです。ここには、大事な試験の結果を待ちながら、はめをはずして遊ぶ気にはならない、という心理が伺えます。

 ところが、「では、合格したことがわかっている場合、参加するか、あるいは、不合格がわかっている場合、参加するかどうか」と、質問の内容を変えると、今度はまったく違った反応が返ってきたというわけです。
 結果は、いずれの場合でも大半の学生が“参加する”だったのです。もちろん、合格ならば何のためらいもなくお祝いの意味も兼ねて参加するといった心理が、その裏で働いていることは疑う余地もありませんが、一方、不合格でも参加するとはどういうことなのか、そこには、一生に一度の卒業記念ゆえ、残念会として参加するという心理がなんとなく見てとれます。
 それだったら最初から“参加する”にしていてもいいのではないかと思われますが、そこに彼らの「先延ばしして、どうなるか見てからどうするかを決めよう」とする、不確実なことに思いを巡らせることが苦手な、確実なことをベースにして推論を始める人間の性癖が出ています。

 またこの心理学者は、これと似た現象が一般社会でも身近に起きていることとして、次のような例を挙げています。それは大統領選挙と株式市場の動きです。大統領選挙が近づくと、投資家の多くは選挙が終わるまで、金を出すかどうかの判断を延期するというのです。そのため、市場は停滞するのが常ですが、しかし一旦、選挙が終わるや否や、市場は大きく動きます。
 ところが奇妙なことにその値動きは、誰が選ばれたかで決まるわけではなく、前述の学生のケースとまったく同じことが起こっていることを、たまたま或る場面をきっかけに発見するのです。

 時は1988年、大口投資家の大半は共和党のブッシュ(現大統領の父親)支持でした。ところが、このブッシュが当選した途端、相場は急落したのです。「部屋に入って相場急落の画面を見たときには、対立候補のデュカキスが勝ったのかと思った」という或る投資家の言動をニューヨーク・タイムスが紹介をしたことから、その発見をするのです。つまり、この発言はデユカキスが勝ったから、相場は下がったんだという業者の見方を明らかに反映しています。
 選挙前の投資家たちは、まだ確定もしていない結果の「後を考える」ことができず、やはりこのケースでも学生の調査の場合と同じで、未確定部分が確定し、はっきりと行動できるようになるまで待とうという、そういう人間の性癖が出ていることがわかります。
 
 このような例からもわかるように、不明なことには踏み込まない、未確定なままでは先に進もうとしない、ましてや未確定なものを考えたり、そこから始めるといった論理パズルなどに対しては、人間はたいへん苦手意識を持っているということです。

 論理パズルでは、欠落した情報は誰も与えてくれません。だから、「何か欠けた情報があることを前提に、ありうる筋書きを展開しなければならない。そうすれば、欠けた情報があっても明瞭な結果に到達するだろう」という心構えができていないと、なかなか論理パズルの突破口は見つからないということなのです。これからも、論理パズルの面接問題がしばしば出てきますので、このことをしっかり頭に入れておいてください。

 さて、少々スペースを取ってしまいましたが、それでは今号の設問を見てみましょう。


問題 設問26

アリが3匹いて、それぞれ三角形の頂点、3つの角にいます。それぞれのアリが別の角に向かって、辺の上を同じ速さで移動し始めます。どちらの角に向かうかはアリの気の向くままでわかりませんが、途中で向きを変えることはしません。どのアリも衝突しない確率はいくらか。


それでは解説です。

 設問でアリの移動はあくまでも辺の上と言っている以上、面ではなく線上ですから、アリが衝突をしないで移動する方向は2通りしかないことがわかります。どのアリも三角形の辺上を時計回りに移動するか、あるいはどのアリも反時計回りに移動するか、そのいずれかでしかありません。さもなくば、かならずどこかでぶつからざるを得ません。

 仮に三匹のアリに名前をつけて、A、B、Cとし、どれでもいいですがその中の一匹のアリを選びます。それをAとします。このAのアリが時計回りか反時計回りか、どちらに行くかを決めてしまうと、残ったアリBもCも衝突を避けるためには、Aと同じ方向に行かなければなりません。アリは無作為に方向を選びますから、第二のアリBがAと同じ方向に移動する確率は2分の1、第三のアリCもAと同じ方向に移動する確率はやはり2分の1です。したがって、3匹のアリが衝突を避けられる確率は 1/2 x 1/2 で1/4 、つまり25%になります。

 なんだかいやに簡単だ、と思う方もおられるかもしれませんが、実は、出題の原文は
  アリが3匹いて、それぞれ三角形の頂点、3つの角にいます。それぞれのアリが辺の上
 を別の角に向かって移動し始めます。どちらの角に向かうかは無作為に選ぶとします。
 どのアリも衝突しない確率はいくらか。

というものです。

 ここで設問26とこの原文の違いを見ますと、「同じ速さで移動」「途中で向きを変えることはしません」の2ヵ所で、私が敢えてこの部分を設問26に加えたものです。と言いますのも、皆さんには面接という状況の中でこの設問を解いてもらっているわけではなく、面接官に対しての質問や疑問を呈する機会が得られない紙面上で紹介しているという理由からです。
 つまりこの2ヵ所を加えないと、時間に制限を設けていない当設問においては、いつかはどのアリも必ず「追いつく」か「ぶつかる」かすることになり、衝突しない確率は考えるまでもなくゼロとなってしまい、これでは何のための出題なのか意味がなくなってしまうからです。
 
 実際この設問は、面接中に応募者とのやりとりの中で、これらの考え方や解き方、進め方の質問が出ることを想定しながら、最終的な解答の25%に至れば正解、という出題形式になっているもので、その背景は、出題内容のあいまいさを見抜き、面接の中でいかにそれらを指摘し解決していくか、応募者の注意深さも合わせて、そのやりとりから資質を見ていこうというものです。

 では、解答です。


正解 正解26

3匹のアリが衝突しないためには、3匹とも同じ方向に移動する場合で、その確率は二匹目のアリと三匹目のアリが一匹目のアリと同じ方向に向かう確率となり、1/2 x 1/2 = 1/4 、つまり25%。


 では、次の設問を考えてみてください。

問題 設問27

犬が4匹いて、それぞれ正方形の頂点、4つの角にいます。それぞれの犬は時計回りに隣の犬を同じ速さで追いかけます。必ず時計回りの隣の犬にまっすぐ向かうように、走る向きを調整しながら走っています。それぞれが隣の犬に追いつくのにかかる時間はどれだけか。また、そうなる位置はどこか。


 さて、永遠にぶつからないアリの問題が出てきたところで、思い出したことがあります。知っている人もいると思いますが、この機会にご紹介しておきます。

 設問20の「視点を変えて見ることの重要性」のところで、マウリッツ・エッシャーの作品を一つ見てもらいましたが、右の絵もその作品の一つです。
 このように曲がったネット上では、アリたちがネットの表から裏へ、そして裏から表へと、永遠に進み続けることになります。このような裏表のつながった曲面、つまり向きをつけられない曲面を、一名、メビウスの帯(輪)と呼んでいますが、このような輪は細長い長方形を180度ねじって両端を貼り合わせれば作れます

 しかしこれには貼り合わせが必要で、両端部分の継ぎ目となる境界線がその面上に残ってしまいます。三次元の世界ではクラインの瓶というのが有名ですが、自然界には継ぎ目のない傑作があります。血管を出し、またその血管が自分の中に入り込んでいる心臓がそれで、そこにはこの貼り合わせているような継ぎ目の境界線がありません

 この偉業ともいえる作品を自然はいとも簡単に作り出していることに畏敬の念を禁じ得ませんが、科学の力と人間の知恵はさらに素晴らしいもので、今日ではトポロジーという数学理論・位相幾何学を応用した光造形システム装置によって、そこには継ぎ目などのない、ビニール様の材料から成る、形も柔らかさも心臓とそっくりそのままのものが作れるまでになっています。血液を流す動力源の問題さえ解決すれば、生の心臓として完全に体内に埋め込まれる日も遠くはないのではないかと思われます。

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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