その32:スピード勝負を演出するロジック |
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設問25と同様に、前問では、隠れているもの、わからないもの、不確実なことに思いを巡らせる人間の苦手とする分野に目を向けることにより、正解に至る時間には大きな差が出てくることがわかりました。 さて、前号の冒頭部分では、知能指数IQとの比較などを交えて論理思考パズルの沿革を簡単にまとめてみましたが、次の設問の解説に移る前に、右の写真を見てください。突然、場違いなモデルさんの写真などを出して!と思われる方もおられるかもしれませんが、それが誰であるか、ここで少々思いを巡らせてみてください。なぜ突然の写真か、その理由はのちほど明かします。 それでは、今号の設問の解説に移ります。 |
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この設問を目の前にした皆さんは、おそらく誰もが次のような疑問を持たれたのではないでしょうか。 フェルミ問題をはじめ、当初、漠然としてつかみどころのない印象を受けた設問や、あるいはサンプル解答といった形でいくつもの回答が考えられた設問などを、過去いくつか見てきましたが、たしかにこの設問はそれらとは違って、特別に考えさせるようなパズルというものでもなさそうであり、どう考えてもはっきりとした1つの数値解が簡単な計算だけで出てくる設問としか思えません。
たしかに従来の設問と比べて、論理的な思考を要するものでもなければ、創造力を発揮しなければならないというチャレンジのしがいがある設問でもなく、このように簡単に解答できてしまうと、これまで見てきた31個の設問の中では、一番、易しい問題だという印象を受けます。 ここまでに2つの疑問が出てきました。これはビル・ゲイツの設問なのか、という疑問と、こんな簡単な設問に出題背景などあるのか、です。 もちろん、この面接試験をショックレーが公表するわけがなく、若者側から漏れたということになりますが、では、どうしてこんなに易しい問題なのか。 そのヒントはストップウォッチにありました。それはショックレーが面接の折、ポケットの中にストップウォッチを忍ばせ、応募者が解答するまでの時間を秒単位で計っていたということです。つまりこの設問では、いかに早く解答を出すか、というところを重要視していたわけです。 ところがこのように説明しますと、たいていは、“な〜んだ、計算スピードの問題か”となります。つまりそのポイントは「物理的な計算スピードにあり」と受け取ってしまいがちです。しかしこの場合のスピードはあくまで副産物的要素でしかなく、本当の背景はそこにはないのです。それはまったく別のところにありました。 そこでまず、この問題は知らなかったことにして、今いきなり1,999人でのトーナメントに変えた出題だったら、あなたはどうするでしょうか。やはり、第1回戦は1998÷2の999試合、2回戦はそれに不戦勝者を入れて1000÷2の500試合、3回戦は・・・という前述の形で進めていけば、解答には辿り着けますが、それなりの計算時間が必要になります。 先ほどの設問では、若者の回答は3秒とかからず、正解でした。彼はしっかりとしたロジックを持っていたからです。このロジックを知ってしまえば、対象が1,999人であろうが、999,999人であろうが、何千万人であろうが、誰がやったとしても正解に2秒とはかかりません。実は、このロジックの有無を見るのが背景だったのです。 この若者の即答にショックレーはムッとして聞いたそうです。「前に聞いたことがあったのですか? どうやって計算したのですか?」と。若者は答えました。「選手が1人敗退するのに1試合必要で、勝者が1人残るには126人が敗退しなければなりません。だから、126試合することになります」と。 ショックレーは、今度はずっと手ごわい次の問題を出しました。長く答を出せない若者の苦渋する顔を見て、ショックレーの顔は次第に穏やかになり、部屋の雰囲気がほぐれていったようです。 ところでこのトーナメントの人数設定ですが、もしも計算ロジックを見るのであれば、順次計算方式との時間差がその場ではっきりと出るように、なぜもっと人数を増やして出題しなかったのか、あるいはまた、単純計算のスピードを見るためなら、もう少し人数を減らしてもよかったかもしれないが、どうして127人だったのか。
さて、このロジカル思考の生活ということで、冒頭の写真に戻ります。彼女はこんなことを言っています。 「東海岸の家から離れたかったので、大学はスタンフォードを選んだ。私は面白そうな講座を片っ端から取った。化学、生物学、物理学、経済学、人類学、天文学、音楽・・・。新しい知識がどっと押し寄せてきて圧倒されたけど、楽しかった。自分がどんなに物知らずかを知って驚き、勉強が好きだとわかってうれしかった。(中略)倫理学で知ったのは、何が正しくて何が間違っているかの判断はそう簡単ではないこと。絡み合う要素を解きほぐすには厳密さが必要であることだ。これもビジネスに役立っている。特に顧客情報の扱いを巡って板ばさみの状況になったときがそうだった。
皆さんの中でIT業界に関係している方は、冒頭に掲げた写真を見て彼女が誰であるか、わかった方もいると思いますが、卒業後、不動産屋の受付嬢からついに大企業のトップにまで上り詰め、ヒューレット・パッカード社の会長兼CEOを5年半勤めたカーリー・フィオリーナです。 前号の連載その31で、今風の地頭とは、主として未知・未経験の分野に対する「論理的に対処・考える頭」、そして地頭力とはそこでの「問題解決能力」と解説しましたが、彼女もその地位と経験を通して、未知の分野に対する論理思考の大切さを力説していることがわかります。 5年目にはパワーポリティクスに足をすくわれて、彼女は退任することになるのですが、その回顧録「Tough Choices」、(日本語版は「私はこうして受付からCEOになった」)には、一介の不動産屋受付から、問題点を発見し困難なものを選んでチャレンジ、解決策をとことんまで追及、成果が出れば喜びと共にさらにチャレンジというサイクルで、なるべくしてトップになっていくその詳細な過程や、仕事への取り組み方及びマネジメント上の金言が満載されており、女性を含めたビジネス戦士あるいはリーダーにとっては一読の価値がある書籍です。論理思考の大切さということで、引用ご紹介いたしました。
それでは解答です。 |
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冒頭の説明同様、この解答を導きだすのも、勝者というよりも敗者という、つまり隠れているもの、あるいは隠れていくものに焦点を当てることによって、解くスピードがまったく違ってくることが実感できると思います。 では次の設問を考えてみてください。 |
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余裕のある方は、窓に付いているあのブラインドの問題を考えてください。 |
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テニスの説明文の途中、海を見下ろす円形コート上のプレー写真を見て、一体これは何だと思われた方、実は地上210mのヘリポートに作られた臨時のコートです。 プレー中の2人は、ウインブルドンでの男子シングルス優勝経験者 、アンドレ・アガシとロジャー・フェデラーで、2003年より栄冠が続いているフェデラーは2008年にまた優勝すれば、ビヨン・ボルグを抜いて、史上初の6連覇となります。 ヘリポートのある建物は321mというホテルとしては世界最高の高さを誇る超高級のバージュ・アル・アラブホテルで、場所は中東のドバイにあり、全202室がスイートルームを持つ2階構造、周りにフェンスがないこのヘリポートはタイガーウッズのエギジビションでも使われました。
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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