その104 |
現象面に視点を置く |
|
||||||
通常の数列だったら、等差数列や等比数列のように一定数を足したり、掛けたりして、その中の規則性を比較的簡単に見つけ出すことがでるのですが、前号の設問の数列は異端とも言えるものでした。 さて、今号の設問はどうでしょうか。それでは解説に移ります。
|
まずこの設問を見て、設問自体にちょっとした疑問を持った人もあったかもしれません。 たとえば、普通毒といえば、その結果はすぐに現れるのに、どうして1ヵ月も後になるのか、あるいはまた、スパイが暗躍するようなところの暴君ならば、自分が意のままにできる大きな国の絶大権力者のはずだから、無理矢理にでも1000人の囚人を作って、全部の瓶を試せばいいじゃないか、といった疑問です。 しかし、毒の効き目がすぐに現れるようだったら、問題として成り立たないことがあるからこそ、また大勢の囚人を集めなくとも、少ない人数で毒入り瓶を見つけ出すことができる方法があるからこそ、この問題の意義が出てくるというわけで、それらを含めて、これから順次解説してまいります。 たしかに、毒の効き目がすぐに現れるなら、1人でどんどん毒味していくことにより、「できるだけ少ない囚人数」でという課題とともに、犠牲者も1人だけで済むというものです。 ところで1000人の囚人がいればいいではないかと、前述の疑問を持った方は、すでにそこで不合格になります。1000人までも必要ではなく、999人いれば1000個瓶の判別ができることはわかりますね。999個の瓶の結果がわかれば、自動的に1000個目もわかるからです。 この999人という方法は、犠牲者となる囚人を一番少なくするには何人の囚人がいればいいか?という問題であったならば、たしかにその解答になります。999人の囚人がそれぞれに試せば、犠牲者は0人か1人で済むからです。 そこで、当連載「その73」で解説した、問題の手がかりや糸口、あるいはその突破口となる例の対処法を参照してみることにしますと、1000という大きな数が出ているこの設問は「複雑に見える問題、数量が多い問題、読んだだけで気後れしてしまう問題、思考が発散してしまいそうな問題、長々とした文章の問題」の項目に該当しそうです。 そこで、さらにその中にある7つの対処法を見ますと、この設問はできるだけ少ない囚人数を求めていることから「小さな数字や量で単純化、シンプル化してやってみる」や「極端なケースに置き換えてみる」が該当すると思われますので、これでやってみることにします。 極端に小さな数は1です。つまり前述の1人の場合。 もちろんこの場合、一番最初の1瓶目で大当たりすることがあるかもしれません。しかしそれはたまたまのことであって、その確率は1/999ですから、これは首をはねられる類です。 では、順次人数を増やしていくとして、例えば10人なら、そのうちの9人がそれぞれ100個、1人が99個受け持つことになり、8年以上もかかります。 ではもう一度、設問をじっくりと見直して、その特徴はどこにあるのかと探りを入れてみますと、瓶の個数が1000という大きな数であるのに対して、要求されているのは、できるだけ少ない囚人数という小さな数であるということに気付きます。 そこで、7つの対処法の中にあるもう1つの項目「視点を変えたり、発想の転換をしてみる」に従い、ここで視点を変えてみることにします。 その現象とは、死か生かです。つまりオン、オフです。ここでIT関連の仕事に従事している方たちの中にはピンとくるものがあるのではないでしょうか。特にプログラマーの方たちならば、なおさらだと思います。 オン、オフ。つまり二進法です。この二進法と1000という数字と結びつけて、うまくこの設問を解けないものだろうか、ということです。 ということは、1000までの数字はこの10桁のオン・オフで表記できること、つまり10人いればその生死の状態で表現できるということです。 ここまでくれば、もう解けたも同然なのではないでしょうか。 そして例えば、囚人「A」は、10桁の二進法で表記された一番左の桁だけを受け持ち、そこが1となっている瓶だけを毒味をするわけです。 このような形で一番多く毒味をしなければならないのは、一番右の番号が1となっている500個もある瓶で、囚人「J」がこの任に当たるわけですが、「J」は毎日17瓶、つまり最低17粒のゼリービーンを毒味することにより、1ヵ月以内で任務が終ります。 1000個の瓶の中で毒入り瓶は1個しかありませんから、こうして1ヵ月後に死に至った囚人のアルファベットを見れば、どの瓶が毒入りだったか、すぐに判明するわけです。 この設問はIT企業が出題したもので、二進法で動くコンピューター業界を目指して面接にくる応募者たちが、少なくともこの二進法で解けるということに気付くかどうか、またそれに気付いて欲しいとの願いも込められた出題だということです。 それでは設問104の解答です。 |
|
では、その出題背景を考えながら次の設問を考えてみてください。 |
|
前号へ | 次号へ |
ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
※この連載記事の著作権は、執筆者および株式会社あーぷに帰属しています。無断転載コピーはおやめください