その124 |
忘れ易い条件 その2 |
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明日なにが起こるかわからないグローバル社会のため、地頭力がますます必要不可欠になってきているそんな時代に呼応して、大学入試の内容も大きく変わってくることになり、「考える力 必要な時代」、「考えるプロセスを問う」「中学入試もその傾向を反映」といった新聞記事などを頻繁に目にすることが多くなりましたが、日本の大企業シャープが新興国企業の軍門にくだるという出来事は、まさに今日この時代を反映しており、前号ではその中身である「国際的な潮流」と「考える力」との関連を説明しました。 つまり、従来の製造業などにおいては、ハードウエア部分の価値が非常に高かったものの、今や研究や企画、設計や開発などの川上工程とマーケティングやアフターサービスなどの川下工程といったソフトウエア部分の価値のほうが高くなり、その中間工程である組立などのハードウエア部分の価値が下ってきていることに、その出来事は起因していました。 ご存知のとおり、シャープは世界で初めて第一番に液晶の実用化に成功した唯一の会社です。 ときは1969年に遡ります。壁掛けテレビの開発を模索していたシャープが、液晶の研究開発で最先端にいた米RCA社のディスプレイ発表のニュースを見て、すぐにアメリカに飛び、他社ブランドの製品を製造するというOEM供給を頼んだものの、「液晶は反応がにぶい。時計盤がせいぜいで、商品化は無理だ」との冷たい返事でした。 当時の液晶は、その混合液で直流電流を流すと、透明色がボア〜っと白く変わるが、2分後にはアワ吹いて消えてしまうというしろものだったのです。 液晶の商品化には、短い寿命と遅い応答速度という解決すべき2大課題がありました。普段は透明で、電圧をかけると光を通さない液晶は、自然界の素材も含めて1万種類もあり、その膨大な組合せの中から、課題を解決しなければならなかったのです。 この無限とも思える組合せの実験作業に、さすがのRCAも途中で開発を断念してしまうのですが、当時、シャープでその実験を任されたのは、なんと新入社員の船田文明青年でした。 その1つが直流を交流に変えてみること。すると応答速度が速く、その上、1 週間後も液晶は作動した。不純物が混ざると、2つの課題が解決に向かう。こうしたいわば失敗の産物、これが光明をもたらした原点だったのです。 失敗がノーベル賞をもたらす 我々が日常重宝に利用しているポストイットは、よくくっつく糊を試作している途中でできた「くっつかない糊」の大失敗作でした。 「私が大学4年生のときに、7人中ただ1人ジャンケンで負けて、希望していた物質を合成する研究室に入れず、物性の研究室に入ることになったのですが、そんな脇道が後々役立ったんです。 粉末状の物性の測定は非常に難しいのですが、フィルム状態の高分子なら数多くいろんな試験が可能になります。そんな中で少しの不純物を加えてやってみると、電気を通すことを示す針が壊れそうになるほど、銅やアルミニウムに匹敵する動きをしたのです。これが導電性ポリマーの発見でした。 不純物混合が新特性をもたらしたところは液晶の場合とまったく同じで、このように失敗がノーベル賞に結びついた例はいくつもあります。例えば、
等々、これらは偶然の産物のように映りますが、その背後には数知れないトライandエラーがあり、やはり準備されたところだけに幸運の女神は微笑むということです。 以上、科学分野の例だけを挙げましたが、失敗の大小には関係なく、広くビジネス分野でもまったく同じだと、ユニクロの柳井正社長が代表してこんなことを訴えています。 「私は、零細企業から一歩一歩上ってここまでやってきましたので、事業をすることは失敗を重ねながら少しずつ進んでいくことだと身をもって知っています。失敗は、して当たりまえ、むしろ成功のために必要なことだというのが私の考えです。 「一勝九敗」という本にも書いたとおり、今でも失敗をしています。新しいことをやらなければ前に進まない。新しいことをやったら、当初、失敗して当然。1勝9負でもいいほうです。1勝するために9回失敗するということです。 私はかってビジネス界、文芸界、スポーツ界で活躍し名を挙げている多数の人たちが成功するために主張している言葉を集め分析、それを拙著「企業進化論、正・続編」にまとめておりますが、データ収集の当初、失敗というキーワードに関しては「失敗はするな」という言葉が多く出てくるとばかり思っていたのです。 ところが、当初のもくろみはまったく裏切られました。なんと「失敗をしなさい」という失敗礼賛の言葉がやたらと多く出てきていたのです。 この分析で「失敗は仕事をしている証拠、成功者ほど、多く失敗をしている」ことがわかりました。そして失敗はそこで止めたら、結果は敗北で終わるだけ。どんな失敗も前向きで行う限り無駄なものは1つもなく、それは成功への1ステップになると言っているのです。 さて、少々スペースを取ってしまいましたが、それでは今号の設問に入ります。
考えさせることに焦点を置いて大学入試の内容が大きく変わるということに関連して、前号の設問は過去に出題された学習院大学の入試問題でしたが、この機会にもう1つ、今号も大学入試の問題を取り上げてみました。 さて、5回に1回忘れるということを単純に考えれば、その3軒のそれぞれで忘れる確率は1/5。だから最初に回るAの確率は1/5です。・・・(1) このことは1軒目のAで忘れないことが前提になるということですから、B での忘れる確率は、その1軒目Aで忘れない確率4/5と、それに続くB で忘れる確率1/5を掛けて、4/5x1/5=4/25です。・・・(2) したがって当設問に対して、B で忘れる確率は(2)の4/25である、とする解答者もいるかもしれませんが、これだと前回の学習院大学の解説と同様、大学入試としては易し過ぎます。 そこで確率の問題を取り扱う場合、重要なこととして常に頭に入れておいていただきたいこと、それはすべてのケースの確率を合計すると1になるということです。
それはこの合計を出したときの条件以外のときの確率で、これら3軒のどこにも帽子を忘れないという確率です。つまり4/5x4/5x4/5=64/125。 ここで皆さんの中には、当設問を最初に見て「3軒の内の1軒に忘れる確率だから、何回年始回りをしようが、その確率はそれぞれ1/3ではないのか」と、咄嗟に思った方もいるかもしれませんが、もうおわかりのように、それは回る順番などを無視して、しかも必ずどこかに忘れてくるとした場合です。 以上のような背景から重要になってくるのが条件付き確率というもので、そこでベイズの定理が脳裏にちらつく人もいるかもしれませんが、当連載の愛読者の中にはお便りからもわかる中学受験者や中高生も交じっていること、さらにもっと重要視している思考プロセスの育成支援なので、当初から申しあげているように、解答だけとか公式をそのまま使う機械的な手法は、敢えて避けています。 では確率の問題で、「すべてのケースの確率合計は1になることを常に念頭においておくこと」がなぜ重要なのか。 さて前問も同様なのですが、本問の設問文をよく読めば「帽子を忘れてきたことに気がつきました」と、すでに事象が起こったあとでの問題となっていることです。 ここまでくれば、あとは算数の問題で、(4)の合計値61/125を1にすることを考えればいいわけです。つまり(4)式を125/61倍してやればいいことになります。 それを計算すると25/61+20/61+16/61=1となって、A、B、Cそれぞれの割合、つまり帽子を忘れてくる確率が順に25/61、20/61、16/61と出てきます。 そこで思い出したことがあります。それは設問53の宝石箱の問題を掲載したすぐあとに、愛読者から問題文不手際の指摘をいただき、そのすぐあとの設問54号で読者の皆さんにその不備をお詫びするとともに、詳しい訂正内容を掲載したのですが、それから3年半後、3人の愛読者の方から、ある人のブログに「モンティ・ホール問題の"なんじゃそりゃ"解説」という欄が載っているとして、最終的に次のような内容のメールが私の手元まで届きました。(以下、メールの前後を省いた原文のまま) 「すでに不備だったことがわかっていて、その訂正がなされているのに、何でいまごろ? しかも新しく学べるというところもなく、内容は二番煎じ」 さて、この設問の背景は前問同様、これから起こると予想される確率ではなく、すでにある行為が行われた後で、その起因となる確率が求められているという、この設問の本意をしっかりと理解できるかどうか、また要点さえわかっていれば素早く計算できる問題であることから、その回答スピードも見ようというものでしょう。 それでは設問124の解答です。
次の設問は愛読者が知らせてくれた問題ですが、考えさせるなかなか良い問題だと思います。やってみてください。
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
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連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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