その126 |
日頃のなぜの心を試す |
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「考える力・地頭力」に関連して、前号の巻頭でスマイル曲線上におけるソフトバンクのARM社買収をコメントしましたが、買収といえば数百億から数千億単位が普通のところ、それが3.3兆円もの巨額買収でした。 そんな多額資金を出した買収の狙いについては、そこで説明しましたが、一方、社会人の読者の皆さんの中で、<その資金をどうやって工面したのか>という疑問を持たれた方もおられたのではないかと思います。 坂本竜馬を人生の師としているソフトバンクの孫社長の考え方や行動には、竜馬と同様に 痛快なことが多く、この資金調達を紐解いていきますと、2016年世界億万長者ランキングで中国の億万長者No.2となったジャック・マーを早い段階で掘り当てた経緯や、また同時に落第生・劣等生だったそのマーの身の上話などがわかり、その内容は興味深くまた参考になると思われることが多々あることから、ここで少々スペースをいただいて見てもらうことにします。 この買収は全額現金決済で、しかもその30%がローンですが、残りの70%は自己資金だというから驚きです。
そして2014年、このアリババ株がニューヨーク証券取引所に上場。この時点で孫さんの保有株の時価は、なんと8兆円近くだったのです。今回、32%のうち4%を売って1兆円。このような背景があるからこそ、今回の資金調達ができたことになります。 それにしても、創業の翌年でまだ赤字だったアリババの成長を見抜いた孫さんの眼力はどこからくるのか。そこで孫さんが語るその出資を決めた次のような経緯を知ると、これまたびっくりです。 「2000年に中国を訪れ、現地のベンチャー企業約20社のトップと面談しました。持ち時間は1社10分。その中で1社だけ即断即決で投資を決めたのが、まだ赤字会社だったアリババでした。ビジネスプランも作ったことのない会社で、だから数字をみせてもらったわけでも、プレゼンテーション資料があったわけでもなく、創業者・馬雲(ジャック・マー、当時34歳)との<言葉>と<目>のやり取りだけ。しかし、彼の目つきは動物的臭いがして、20人の中で圧倒的に伸びる予感を与えてくれました。 アリババに決めたあと、彼が“出資は1億か2億円でいいです”と言うのに対して、私は“まあ、そうは言わずに、20億円は受け取ってほしい。お金は邪魔にならないだろう”と言って別れた」と。
たったの10分で、しかも先方がせいぜい2億円でいいと言うのに対して、20億円もの出資を決めた孫さんです。
今日、ジャック・マーは前述のようにアメリカフォーブス誌発表の2016年世界億万長者ランキングで、中国No.2になっている のです。そこで、孫さんとの面談から15年後、ジャック・マーが世界経済フォーラム2015で語った次のような身の上話や信条などに触れると、そこにはどなたにも興味深く参考になるものが見えてきます。 「私は人生の節目の進学試験で何度も失敗しています。小学校での大事な試験に2回、ミドル
スクールの入試には3回落ちました。全国大学への統一入試で、数学の成績は1度目が1点、2度目が31点で、当然2回ともはねられました。そこで大学進学をあきらめ、就職活動をするのですが、そこでも30回落とされたんです。警察の試験もケンタッキーフライドチキン(KFC)にすらも落とされたんです。
このことから彼は成績のいい天才とはまったくかけ離れた人間だったことがわかります。では何がどうなっていったのか。彼の成長していくきっかけと彼の資質の一端を次の言葉の中に見ることができます。 「13歳くらいの頃、英語に興味を持ったのですが、当時は英語教材の本すらなく、英語を教えてくれる場所はなかった。だから私は朝早くから自転車で近くのシャングリラホテルに9年間通い詰め、毎日たくさんやってくる外国人観光客のフリーガイドツアーのようなことをやって、彼らの話す生の英語を聴いて英語を学んでいったのです。終わりのころは、観光客から「どうしてそんなネイティブのような話し方ができるんですか?」と訊かれるまでになりました。西洋的なオープンマインドな考え方を含め、この9年間が私を変えてくれたのです」と。 13歳と言えば1977年で、まだ近代化に踏み出すずっと前の貧しい中国だったはずです。上海近くの杭州市に生まれ育った少年は学校の試験には幾度も失敗するものの、彼にとって豊かな文明国からやってくる観光客への羨望が糧となり、こんなに長期間も英語を学び続けることができたものと思われます。 ここに彼の一途さが見とれます。また運転手になってからは、観光客を乗せて案内しながら生きた英語を貪欲に学んでいたことも想像できます。そしてその間に<人生>という本に出会ったことから、再度大学進学を志し、そして杭州師範大学の英語科に進学しているのです。
劣等生・落第生だった彼が、9年間もいわゆる独学で英語を学び、また本を読み、大学に進む過程を見ますと、彼の一途さとともに旺盛な向学心も読み取ることができます。
そして次は政府にその英語力と貿易の知識を買われて、1995年と1998年と2度に亘って、国のプロジェクトをサポートするためアメリカに派遣されるのです。
「1998年、派遣先シアトルの友人が、コンピューターを前に置いて、僕にこう言ったんです。“ジャック、見ろよ、これがインターネットだ”“インターネット? 何それ?”“これがあればなんでもできるんだぜ、入力して何か検索してみれば”と。
インターネットも電子メールもまったく知らなかったジャック・マーでした。しかし彼がそこですごく面白いと直感していることに加え、長距離でも双方向で瞬時にやり取りのできるその機能から、広大な土地に住む13億人の潜在マーケットに想いを馳せた
としても不思議ではありません。
「私のように30回以上も人から拒否された経験を持つ人間なんて、そうはいないでしょう。そんなときは落ち込みます。でも映画のフォレストガンプを観て、感銘を受けました。主人公は人から何と言われようと、どう思われようと、一途に自分の信じた道を一生懸命貫き通す。私はそこから<決して諦めない>ことの大切さを教わりました。絶対に諦めない。文句を言わない。上手く行かなかった原因を人のせいにしたり、不平不満を言い始めたら、その人に将来性はありません。以来、私の座右の銘は<永遠不放棄(絶対に諦めない)>なのです。それからビジネスで得たお金に対する考え方ですが、もしも収益が100万ドルだったら、それはあなたが使っていいお金。もしも1000万ドルであったら、インフレの心配をしたり、そのお金をどこに保管しようか考えたり、ちょっとしたパニックに陥り始めます。でも10億ドルという大金だったら、それはもはやあなたのものではありません。それは、世の中の人々や社会が、あなたなら世の中を良くすることができると信じ、期待して投資してくれたあなたに与えられた「信用」だからです。人々からの「信用」で得たお金は、社会のために使うべきもので、個人的な私利私欲を満たすためのものではないのです。だからいつか私は教育の場に戻って、アリババで稼いだお金を若い人々を育てる社会貢献につながる資金源にしたいと思っています」と。
どん底の体験によるハングリー精神と、それから成功で得たお金の使い道を語る彼の想いの中に、ひときわしっかりとした考え方を見る思いがしますが、孫さんは10分間の面談の中で、これから始まる中国での電子商取引というビッグなビジネスポテンシャルとともに、それをやり遂げるだろうという人物の片鱗、つまり動物的な臭いを見て取ったのでしょう。
「1995年、ウインドウズ95を新発売した直後のビル・ゲイツとゴルフをしたとき 、ゲイツの口から出てくる言葉は“今後はすべての経営資源をインターネットに投入していく”と、インターネット一色でした。そこで私は“インターネットの分野で、この一社だけは外してはいけないという会社に投資したいから提案してくれ”とM&Aしたばかりのジフ・デービス社に頼みました。そこはコンピューター関係の雑誌出版を専門としている会社で3,000人ものテクノロジー・アナリストを抱えているところでした。だからIT業界でどこへ向かえばいいのか、何をおさえればいいのかというピンポイント情報を集める能力が世界一の会社です。すぐによい案件があると持ってきたのが、スタンフォード大学の学生の2人が現役で立ち上げたばかりの事業ということでした。 さっそくジフ・デービスの社員と一緒に“ヤッホー?ヤフー? なんや、変な社名だね”などと話ながら、スタンフォード大学に出かけました。設立から半年ほどで、月の売上げがまだ千何百万円に対して赤字はその倍ほどの事業。が、話を聞いているうちに、これはという感触を得たのです。すぐに2億円の投資で5%のヤフー株を、そして2ヵ月後、合計100億円の出資で全株の1/3を持つ筆頭株主になりました」と。
創業したばかりの無名の事業といい、面会における<これはという感触>という嗅覚といい、また短時間での決断といい、さらにその筆頭株主となる出資比率といい、そしてその後の会社の猛成長といい、アリババ投資の原点をこのヤフー投資に見ることができます。
そして孫さんの資質もありますが、その陰で忘れてはならない大きな力として働いているもの、それは英語力です。当初iPhoneの日本での独占的な発売ができたのも、アップルのジョブズとの直接交渉によるものであり、アメリカ携帯電話のスプリント社買収、ARM社買収、アリババ投資、さらに今回のファンド設立でもサウジアラビアの副皇太子との直接交渉がなせるもので、大きな商談ではトップ同士での会話が即決即断としてスムーズに実を結ぶことになります。 孫さんの英語力はアメリカ大学時代に培ったものだと思いますが、それはグローバル化の中で、ますます日本の各社トップには必要不可欠な力となるはずで、それはビジネスに携わっているすべての人にも利する力を持っています。 さて、少々スペースを取ってしまいましたが、それでは今号の設問に入ります
この設問は数学の問題ではなく、物理の問題なのか、それとも単なる理科に属するような問題なのか。 しかしマイクロソフトで、以前しばしば出題された問題だということです。では一体、入社応募者の何を見ようとしているのでしょうか。
当設問はホテルのお湯がテーマなので、その場所は洗面所という観点でみていきます。
アメリカはもちろん、今は日本のどこの家庭でも大なり小なり給湯器のような機器や設備が設置されているので、この設問からは、まずその設備を連想できます。
そこで考えてみますと、前者の場合、瞬間式と言ってもお湯沸かし器という名の通りお湯を沸かす時間が必要になるということであり、後者の場合、貯湯タンクから蛇口、いわゆるカランまでの配管の間にたまっている水を排出する時間が必要だということです。
各家庭で使うような湯沸かし器をホテルの各部屋の洗面所に1つ1つ設置しているところなどあるのかといえば皆無で、したがってこの前者で考えることは除きます。
この後者で問題となるのは、タンクとカランまでの間にある水ですが、大きなタンクを洗面所の中には置けません。またすぐ外側にといってもやはり手元ではないので配管内のカランまでの水が依然問題です。
それをするにはどうするか。そうです。お湯を循環させておけばいいということになります。各家庭では特別なケースを除いて、ランニングコストの面からそこまでやるところはないでしょうが、たくさんの部屋を持つホテルでは、お風呂も含めてサービスという点からしても、このやり方で充分ペイするということです。
実際、ホテルではこの方式をとっており、ポンプで送水管の中のお湯をゆっくりと循環させているので、いつどの部屋のカランをひねっても、瞬時にお湯が出る状態が保たれているわけです。
ところで最近は各家庭でも洗面台の下などに設置して、手軽に使える即湯器なるものが販売されているそうで、その仕組みとは、湯沸かし器とは別に小型の魔法瓶装置を備えているものです。
さて、この設問の背景について、事情を知っているアメリカの友人の言葉、「面接試験で、もし、こうした問題が出されたとしても、それがホテルのメンテナンス業者などの専門家でない限り、正しいかどうかにはあまりこだわらなくてもいい。こうした問題で最も重要視されていることは、自分の似たような体験を参照しつつ柔軟に考える力があり、初歩的な物理の基礎知識をもとに独自の答えを導き出し、新たな解決策を類推する能力があるかどうか。日常生活の中のちょっとした疑問に対し、身近なことから類推し、豊かな発想力を駆使して妥当な結論を出す習慣を持つことが、今日のビジネス界で最も必要とされている。」が、出題者側の意図を的確に表現していると思います。これはフェルミ問題にも通じる背景で、やはり「考える力・地頭力」が試されているということです。 それでは設問126の解答です。
では、次の設問をやってみてください。
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
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連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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