その24:奇抜で斬新な発想 |
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なぜビル・ゲイツはパズルによる面接をするのか。前設問でおわかりのように、それはパズルの内容によって、応募者の枠にとらわれない独特の創造的発想や緻密な論理的思考を見ることができるだけでなく、制限時間内に面接という緊張した中で難問を解かなければならない条件は、納期や締切りに間に合うようストレスのかかる中で順次道順を追って仕事を完成していかねばならないビジネス界のプロジェクトとまったく同じで、競争社会の中で勝負にこだわり、常に熱意とハングリー精神で日常突発する難題にねばり強く取り組んでいくやる気に満ちた資質といった、そこで必要な応募者の実行力・行動力があるかどうかをも見ることのできるからでした。 それでは今回の設問はどうでしょうか。 |
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あなたが面接でいきなりこんな設問を受けたとしたら、どんな反応をしますか。これまで23個の設問を見てきましたが、それらは数学的に、あるいは物理的に、または最初に何らかのとっかかりや手がかりがあって、それに基づき「問題を解いていけば解に至る」というものでした。
ところが今回の設問はそれらの内容とはまったく違って、まずはその表現自体から何かつかみどころのない漠然とした問いであるとの印象を受けます。さらにその回答を予想したときに、いろんな観点から見た各個人別の応答の仕方があると思われ、これが唯一の正解だと言えるようなものはないのではないかとの疑問がわいてきます。 しかし実を申しますと、まだ皆さんには紹介していないだけで、この類の設問は他にもたくさん出題されているのです。ですからおそらく戸惑われると思われるのは皆さんだけで、過去に出題されたあらゆる設問をそれなりに研究して面接に臨んでいる応募者たちは、そんなに驚くことはないということです。 以降、この類の設問を順次紹介していきますが、まずは設問の主旨をしっかりと理解する必要があります。とは言うものの、設問の日本語訳自身があいまいなのでは、と思っている方もいるかもしれませんので、ここで出題されたなまの英文をご紹介します。それは さて、この中にwillではなくwouldというワードが使われています。これは、もしもあなたが本職の設計業者・当事者の立場になって依頼されたとしたら、との強い仮定の意味が込められています。 さらに当の設計案として、「ビル・ゲイツが気に入るようなバスルーム」ということはもちろん重要な要件の一つですが、ここで見抜かねばならないのはマイクロソフト社のビジネスも考慮に入れた提案が、暗に期待されているのだろうということです。 バスルームについてはもちろんですが、それが防犯から快適な生活まで、家中がきめ細かく集中管理されているようなコンピュータ技術を駆使した案にまで考えがおよんでいるアイデアであったなら、それはそのままマイクロソフト社の大きなビジネスにもなり得る可能性があります。ですから、もしもこのような分野にまで思いが至っている案ならば、すでに合格圏内に入っていると言ってもいいわけです。 実は、この設問が出された時期は1990年代であり、昨今のビル・ゲイツの家では、すでにかなりの電子化が進んでいます。ですから今日、この設問を受けるとすると、さらにそれを上回るような斬新なアイデアを反映した設計案が求められることになります。 今から20年前の1988年、彼はシアトルにあるワシントン湖のほとりの土地を、当時200万ドル(約2億4千万円)という価格で購入し、7年かけた1995年に一応おおかたの建築を終え、完全に完成したのは1997年でした。 2005年度の土地と家の推定価格は1億2千500万ドル(約150億円)、年間の資産税は99万ドル(約1億2千万円)。そこには世界で唯一つしかない「レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿」が置いてあるはずです。そこで妻と3人の子供と4人で暮らしています。 ビル・ゲイツ家では、可能なかぎりの電子工学が駆使されています。 このマイクロチップには予め登録されている訪問客の好みのデーターなどが入っていて、そのチップからは常時シグナルが発信され、行くところどころで、換気をはじめ好みの室温や音楽など、訪問客に合わせた諸々の条件が家中で満たされるようになっています。 セキュリティの観点から、誰がいつどの部屋に入ったかわかるのは、このチップによってだけでなく、必要なときは、訪問客から見えないよう壁や庭木などいたるところに埋め込まれたカメラとマイクロソフト社の構内とつながっているモニターによってもわかるようになっています。また床に埋め込まれたセンサーによって、その足跡を追うこともできるようにもなっているようです。 ホームシアターとは別に、レセプションルームには壁一面に広がる大きな平面ディスプレイがあって、このディスプレイが数々の催し物の演出道具として使われています。 電子化されているこのような家の中に張り巡らされた通信用光ファイバーケーブルの長さは64km、敷地内の建物全体では総延長85kmにも及ぶようですが、ごちゃごちゃを嫌う彼はすべての配線を外から完全に見えないところに収納しています。また訪問客は電気のコンセントすらも見い出せないようで、床下か壁のどこかに収納されているものと思われます。 さて、バスルームに関係した電子化といえば、ゲイツが車から支持を送れば、好みの温度で浴槽に湯を張っておけるようになっています。日本でも携帯電話からお風呂沸かしの指示を出すことができるようになっていますが、ゲイツ家ではすでに2001年頃にできていたようです。 そこでバスルームの設計についてですが、いろいろな案が考えられます。バスルームとは家の中で唯一おおっぴらに裸になれる場所です。つまり自分の身体を存分にチェックでき、またリラックスできる空間でもあります。もちろん予算や納期を考慮に入れなければなりませんが、しかしそれがエコロジーと健康管理も考慮されているような奇抜で斬新なアイデアであったなら、ビル・ゲイツ個人を満足させるだけででなく、マイクロソフトの将来のビジネスポテンシャルにもつながるものとして、文句なしに試験をパスできるでしょう。 年齢や身長のデーターを入れて素足でハンドル付きの台の上に乗ると、体脂肪や内臓脂肪などのわかる器具がすでに市販されていますが、例えば器具とコンピュータとの組み合わせで、そのときの健康状態の主要項目を全部表示してくれるような総合健康管理システムの提案などが考えられます。 また、シャワー室や風呂場では水や水蒸気があるため、パソコンの操作は無理です。しかし、そんな中でも操作可能な音声稼動式ソフトによる、壁と一体となったミニコンピュターをハードメーカーとのタイアップで開発したシステムの提案も考えられます。 また、浴室そのものの案として、われわれにはありきたりでも先方にはない岩盤浴場の提案もあります。ただし、ジャグジーやジェットバスといった提案はポピュラーすぎて、たとえ露天にしたとしても却下されるでしょう。 いずれにしても、当設問の背景は「発想の豊かさ、奇抜さ、斬新さ」を見ようというものです。したがって、回答は千差万別になりますが、提案のどこかにこの「発想の豊かさ、奇抜さ、斬新さ」で光るものがあれば合格のようです。 それでは解答です。 |
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それでは、またその出題背景を考えながら、次の設問をやってみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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