その28:シンプルな考え方の中学生であるほど解ける |
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正方形の四隅にいる犬が、それぞれ隣の犬に向って時計回りに追いかけるという前問では、その追いかける軌跡の距離をどうやって出すかがネックでした。そこでギブアップした方も多かったのではないでしょうか。 もし、この問題が筆記試験の場で出されたならば、数学や物理などを得意とする理論的な頭脳を持つ人ほど、その8〜9割くらいの方たちは微積分の世界に入って解こうとされたのではないかと思います。図にして描けば、まさに微積分をほうふつとさせる問題だからです。しかし視点を少し変えて、この問題は面接試験の場で出されたもの、との認識に立ちますと、そこで初めてもしや微積分などは使わなくても済む方法があるのでは? という観点が出てくるわけです。 犬の追いかけるこのような軌跡、つまり螺旋形を描くその長さが、最終的には当初の正方形の一辺の長さに等しくなる、ということを今回、初めて知ったという皆さんも多いかもしれません。アインシュタインのE=mc2という方程式にも見られるように、自然界を支配している原理はおしなべてシンプルですっきりした結果になることが多いようです。
この「あなたはビル・ゲイツの試験に受かるか」欄をご覧になっているような皆さんの中には、フォン・ノイマンという名前を知っている人も多いと思います。6歳で8桁の割り算を行い、8歳ですでに微分積分までもものにしていた天才少年は、その後、数学者、物理学者、経済学者として数々の功績を残しました。 特に彼は「コンピューターの父」とも呼ばれ、プログラムをハードウェアから独立させてデータとして外部から与え、汎用のハードウェアでこれを実行させるという方式を発表しました。このとき初めて、ソフトウェア(プログラム)という概念が誕生したのです。 結果、今、世界中で使われているコンピューターは、すべてこの方式に基づく「ノイマン型コンピューター」と呼ばれているもので、このように数学や物理学で抜きん出ている彼に、ある人がこの設問と同じ種の問題を出したところ、すぐに正解を出したそうです。 そこですかさず、その人は「ああ、タネがわかったのですね」と彼に尋ねると、ノイマンは答えたそうです。そのときノイマンが何と答えたか、皆さんわかりますか? その内容は、今回の設問とも関係しますので、まずは設問28の解説したあとでご披露したいと思います。 |
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これは鳥の飛んだ距離を出す問題ですが、まず内容を見て、ずいぶんと速度の遅い列車だと気づかれた方もいるかもしれません。マラソンですら時速20kmです。実は設問のオリジナルはkmではなく、マイルで出されています。しかし距離の単位は出題の本質を変えるものではないことから、日本では馴染みの薄いマイルに代えてkmを使いました。
そこで、一般に次の2つのタイプ、XとYに分かれるのではないでしょうか。Xは見通し派として図3のようなイメージから入るタイプ。Yは実行派として、まず計算を始めるタイプです。
西海岸からニューヨーク行きの列車を東行き、東海岸からサンフランシスコ行きの列車を西行きと呼ぶことにしますと、Yタイプの計算実行派は、鳥が最初に西行きに出会うところの算出から始めることになります。 そこで気づきます。当設問は距離を出す問題なのに、肝心のサンフランシスコとニューヨーク間の距離については何も語られていないということに。実際、この距離は基礎となるデータであり、これがないことには前に進めません。そこでこの2都市間の距離をL kmとします。鳥が西行きと出会うときはいつになるかを考えると、両者の相対速度が時速25+20=45kmですから、L/45時間後となり、したがってそこまで鳥が飛んだ距離は、それに鳥の速度を掛けて、L/45 x 25 km、つまり5L/9kmと出ます。図2のaに当たる部分です。 この時点で両列車は両海岸から、西行きと東行きそれぞれL/45x 20 km=4L/9km、L/45 x15 km=3L/9km進んでいることになり、したがって両列車間の距離もL−4L/9−3L/9=2L/9kmと出ます(図4)。
次に求めるのは、図2でいうところのbですが、今度は鳥と東行き列車の相対速度が時速25+15=40kmですから、鳥が東行きと出会うまでの時間は2L/9km÷40km=L/180時間、したがってそこまで飛ぶ距離bはL/180x25=5L/36kmと出ます。
同様な方法で図2の距離cを求め、順次、鳥が折り返しては飛ぶ距離を出していって・・・と考えてくると、実際この方法を続けていって面接時間内に解答が出せるのか、という疑問が湧いてくるわけです。そしてここで3つのグループに分かれます。 さて、この設問が解けた人の大部分は、前設問27の正解を見てすぐにこの設問28に挑戦した人たちか、または無限級数などという専門知識とはまったく無縁の算数の世界にいる少年少女たちではないかと思われます。現に13歳の中学生がいとも簡単に解いています。 前者は設問27の経験から、ビル・ゲイツが微積分などの面倒な計算をさせる問題を面接の場などでは出さない、との確証を得ているため、正解に至る簡単な方法があるはずだとの観点から、最終的に13歳の中学生の解き方を発見する人たちです。 おそらくこの前者の人たちも、設問27のような問題をまったく体験しないまま、いきなり設問28に遭遇したら、そのおおかたの人たちは第Iグループか、第IIグループの中に入ってしまうのではないかと思います。 したがってこの設問の出題背景も、前設問27におけると同様、数学や物理など専門知識を持っている者ほど複雑に考えてしまいがちなため、先入観に邪魔されたり専門知識におぼれることなく、白紙に戻って考えることを忘れてはいけない、とするものです。 さて、巻頭で述べた話、フォン・ノイマンは何と答えたと思いますか。彼はこう答えたそうです。「タネって何?、無限級数の和を求めただけですよ」と。彼ほどの天才だったら複雑な計算もその場でできるということなのかもしれませんが、一方、シンプルに考える中学生にはかなわなかったということです。 |
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では、その出題背景を考えながら、次の設問に挑戦してみてください。富士山自身も、まさかこのような形でビル・ゲイツの面接試験に出されるとは思っていなかったのではないでしょうか。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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