その30:未知の世界へのアプローチ法 |
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これまでにパズル形式様の問題ばかりを多々紹介してきているため、皆さんの中にはそれらが面接試験で出される問題の全体像かと思われている方もあるかもしれません。そこでお断りしておかねばなりませんが、当紙面ではあまりにも専門分野の突っ込んだ話になるという理由からご紹介していないだけで、もちろんこれら以外にも面接の場でシステムやソフト開発能力を見るために、それぞれの部門ごとコンピューター言語を書かせたり、あるいはネットを含めて各専門分野におけるスキルレベルをチェックしたりしていることもあわせてお伝えしておきます。 しかし通常のパズル問題の中でも、世界にピアノの調律師は何人いるかという設問18をはじめ、スケートリンクの氷の重さはどれだけかを問う設問21、あるいはビル・ゲイツのバスルームを設計せよという設問24、そして前回の富士山の問題などは、最初からきっちりとした数値やすっきりした答えが出せそうもない設問でした。それらにはそれぞれちゃんとした個々の出題背景があるからこそ出題されており、また設問23のビル・ゲイツ クーロン人間の発掘のところでも詳しく説明しましたように、論理的な思考を求めるだけでなく、さらに大きな広い意味における厳然とした人材を選定するという背景もまたあるのです。 つまり実際のビジネスの現場では、解答がないような場面に遭遇することがそれこそ大半で、そのときにどのように考え、どのようなプロセスで結論を導き困難な問題を解決していくか、そしてまた、面接という緊張した中で難問を制限時間内に解かなければならない条件は、ストレスのかかる中で順次道順を追って仕事を納期や締切りに間に合うよう完成していかねばならない現実も含めて、このようなパズルを解いていく過程がまさにビジネス界のミニプロジェクトそのものであるとの認識に立っているからです。そこではあらゆるデータや情報を駆使して、自分なりの仮説を立てながら解決策を引き出していくという、まさに論理力だけでなく、ねばり強い思考探求力や実行力が試されるというわけです。 今では陳腐化しつつあると思いますが、「この会社を志望した動機は?」「この会社で何をしたいのか?」「あなたの得意分野は?」「あなたの売込みポイントは?」「最近読んだ本は?」「座右の銘は?」「尊敬する人は?」などなどは、日本における人事採用面接の定番となっていた非常に形式的な質問でした。少なくともこれらにうまく答えられたからといって、日常茶飯事に起こる不確定要素の多い突発的なビジネス課題がうまく解決できてしまう、などということはあり得ない話です。 したがって、マイクロソフト以外の外資系企業、特に急速で変化の激しいIT業界や、また豊富な情報とデータを使って多角的角度で分析・判断をしなければならないような名のあるコンサルタントや調査会社などの面接問題では、ビル・ゲイツの出すこのような類のものが頻繁に出題されるのです。たとえば、次の
はその一部で、これらはネット検索業界で先端を走っているグーグル社のものです。機会を見て、これらについても順次解説を試みていきたいと思いますが、やはり数式を解いたら、きっちりと答えが出るといった類の問題ではありません。
もちろん、グーグルの人材募集ともなりますと、深い数学の知識やプログラミングスキルを持っていないと、最初から応募の機会すら与えられないといったわかりやすい例もあります。 この中の { first 10-digit prime found in consecutive digits of e } とは、{ 自然対数eの中で連続した最初の10桁の数が素数である数 } という意味ですが、.comと付いていますので、その解である数を使い7427466391.comにアクセスしますと、「おめでとう。あなたはレベル2に達しました。それでは次の問題を解き、○○○○○のサイトでユーザーIDに△△△△△、パスワードに今解いた数を入れて、次に進んでください」と、また数学の問題が出てくるという手の込んだものです。(自然対数eの中身を見たいかたはhttp://antwrp.gsfc.nasa.gov/htmltest/gifcity/e.1milを参照) そして正解で次に進んだ応募者だけが、Google研究開発部門の人事採用ページ 創立初日から厳格な採用方法をとり続けているGoogleの共同設立者サージェリ・ブリンとラリー・ペイジは、設立当初の面接中に人材雇用に関するハウツー本を近くの机の上に9冊ほど置いていたそうですが、最近の採用情報によれば、グーグル人気は年ごとに上昇し続けていて、2006年度の入社試験応募者は110万人だったそうです。これだと土日もなく平均して毎日3000人が申し込んだことになり、その年は5000人もの人を採用したにもかかわらず、競争率は約220倍!というものです。 さて、面接試験問題の全体像という点でスペースを取ってしまいましたが、ここで今回の設問の解説に入ります。 |
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今回の設問も、何か漠然としていて、かいもく見当がつかない、あるいは取っ掛かりすらわからないという方も多いのではないかと思われます。しかし中には、何らかの方法が考えられるのではと、その方法というところに思いが至った方もおられるかもしれません。それらの方は、まずは解答への第一ステップをパスできた人たちです。 ところが、お店がだんだん大きくなり、フロアがいくつかに及ぶようなかなり大きな書店ともなりますと、あまりにも1つのジャンルにある本が多く並べてあるため、まずコーナー探しに苦労することになります。 一方、図書館に話をもどしますと、大きなところはもちろんのこと、どんな図書館であろうと司書はいなくても、事務方の人や案内人はいます。さらにまた、ジャンル別にコーナーを分け、標識を出しています。巨大な図書館ともなれば、それらのジャンルがどのへんにあるか、さらに番号やアルファベットなどの記号を使って、コーナーの物理的な位置を的確に割り出せるようにしています。 さて、困ったことにここでの設問は、まったく初めて行く大きな図書館で、そこにはジャンルを示すような標識も設置していなければ、尋ねて教えてくれる司書らもいないと仮定して、そんなところでどうやってお目当ての本を探し出すかという問題です。 たまに例外中の例外はあるようです。アメリカのウォーバーグ研究所では、意外なつながりが研究の刺激となるよう、意図的に異なるジャンルの本を隣り合わせて置いてあったそうです。しかしこれだと、はたして利用者側がジャンルの異なる本を意図して見るかという問題とともに、異なる本との組合せの仕方や配置の仕方などで、これまた準備する図書館側も大変です。ましてや蔵書が多くなってきたら、お手上げになります。この方式はそれを始めた研究所の創始者・ウォーバーグが、その後、精神病院に入れられるまで実施されていたとのことですが、このような例外を除けば、どの図書館も、当の事務職員や司書も含めて、本がどれだけでも簡単に整然と引き出せるよう、或る決まった方式で並べているはずです。 さて、この設問の裏には「効率よく探すには?」が暗に問われています。どれだけ時間がかかっても構わないというのであれば、端から順番に根気よく探していけばいいわけですから、改めて出す問題ではありません。「できるだけ無駄がなく早く」の意味が込められていることを念頭に置いておかねばなりません。無駄がなくの意味から、まずマクロをつかんでからミクロへ、というアプローチをすることです。そこで館内全体の書棚配置のスケッチをすることにします。そして特定の場所をチェックしていくことにより、その図書館の書籍配置方式を明かしていくことです。つまり、通常どの図書館にも備えられている見取り図を、自分で作っていく作業になります。 まずチェック場所ですが、小さな図書館ならば、最初に一方の端の区画でチェックしてから、次にはもう一方の端の区画に行ってチェックするという、その両端から攻めていく仕方を取ればいいですが、設問の大きな図書館では、移動時間の効率から考えて、最初の一方の端の次には、もう一方の端までの中間点、つまり真ん中でチェックします。数フロアにも及んでいる図書館なら物理上の論理的な中間点から真ん中を割り出します。 ここで言うチェックとは、本のサンプリングで、棚から何点か取り出して、それらが年代順か、またタイトルや著者名などがアルファベット順か、どのような規則で並べられているか、最大限にわかる範囲のルールを調べるとともに、大事なことはそのサンプリングした本の区画が目指している本とつながりのある領域か、あるいは異分野の領域かを判定することです。そこが何のジャンル領域かを見取り図に記入していくうちに、このつながりの関係から次にチェックすべき地点が次第にわかってくるということです。 たいていの図書館では、つながりのあるジャンルを物理的に近いところに置いていますから、その2ヵ所のサンプリング区画で、たとえば片方が芸術関係、もう片方が産業関係だったら、おそらく芸術関係の近くには文学や歴史、宗教などが、産業関係の近くには技術や工学、自然科学などのジャンルを設けていると思われ、その確率は、その逆よりも高いはずです。そしてお目当ての「地球環境」の本は、おそらくこの自然科学ジャンルの棚に並んでいるはずです。 こうしてこの2ヵ所の区画で判明したルールと目指す本とのつながり・近かさ加減から、次にチェックする地点はどのあたりにすべきかがわかってきます。それに沿って探索範囲を順次狭めていけばよいわけですが、万が一、推定が大きくはずれたら、進む方向が図書館の方式とは違っていることになります。たいていは数ヵ所のジャンルを見取り図に記入していくうちに、図書館側が定めている特有のつながり関係が明らかになってくるものです。それを見極めて範囲を狭めていきます。そしていずれの時点でも、自然科学関係の本が見つかれば、そこからさらにそこの区画内の棚でチェック範囲を同様のやり方でせばめて行き、気象とか環境分野が出てきたら、その辺を集中して探索していけばよいことになります。 しかし、「温暖化・地球環境」という内容は、自然科学だけでなく、政治や経営、あるいは医学や歴史、地理にも大いに関係する分野として、図書館によっては置き場所を違うところに置いているかもしれません。また新刊か古い本か、サイズが棚に入らない大判書か、児童のための書物か・・等々によっても別のコーナーを設けているかもしれませんが、新旧・大小判・大人用子供用などは事前に調べておけばよいわけです。 さて、おわかりのように、実際に大きな図書館で標識や案内板、また司書や事務職員がまったくいないなどということはあり得ませんが、敢えてこのような設問を設けることにより、未知の世界へどのような考え方とプロセスでアプローチし、そこに隠されているルールを紐解きながら効率よく目指すところに辿り着くどんな方法を提起できるか、またそれだけの根気やねばりを持っていそうかなど、応募者のそんな資質をみようというのがこの出題背景です。また、プログラミングの検索手法の問題と考えてもいいかもしれません。 したがって、アプローチ方法を見る設問であるため、これが唯一無二の解というものではありません。次はサンプル解答です。 |
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それでは次の設問を考えてみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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