その34:地頭力の意味と意義 |
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面接で出題者側が応募者の何を見ようとしているのか、それぞれの設問には意図したその出題背景があること、さらにはまた、たとえ知能分野が優れていても粘り強い実行力や行動力に欠けると判断されるような応募者は選別しなければならない、とする大きな意味での資質面接でもあることを設問23で解説しましたが、それにしても前問の天秤のケースを例にとれば、「単に異質のものを選び出す回数を当てたからと言って、実社会上なんぼのものよ」との印象を持たれる方もあるかもしれません。 一般に見られるパズルの解答編では、正解と正解そのものの解説だけで終わってしまうのが普通です。したがってその結果は、「あぁ、そうなのか」で終わりです。前回、天秤の設問33の説明で言えば、「したがって9枚を3枚、3枚、3枚の組に分けて測れば2回で済むことになります」というところまでで完結してしまうのが、通常に見られる解説です。 そこで未知の分野を考えるという「今風の地頭」を意識し、「この論理思考を延長して10枚以上ではどうなるか、その一般化を考えてみます」と一歩踏み込んでみたのが前問の解説でした。しかし、それでも皆さんの今風地頭がそのときどこまで働いたのか、あとで振り返って見ていただくために、そのあとに続く解説「そこでこの9枚が出てきた機会に、9枚、9枚、9枚の3組で合計27枚を考えてみますと、最初の9枚同士のバランスを見ることにより、結局3枚の法則で合計3回の計測で済むことがわかります。・・・(中略)・・・つまり28枚よりどんなに多くの枚数でも、当初の枚数を27枚より少なくなるまで3分の1にしていき、そこに至るまでの回数に3を加えたもの、それが答えになります」の部分で、あえて伏せた形にしてお伝えするのを意図的に控えたところがあります。 それは一般化・普遍化の意味と表現についてです。皆さんの中には、こんな疑問を持った方はいませんでしたか。「なぜ特別に、27枚や28枚という枚数のところを取り上げているのか」と。この疑問を持った人は、少なくとも今風地頭に必要な一端をお持ちになっている方とみていいかもしれません。つまりこの設問の解答を導く過程を、もう少し深く考えていくと、「もっと一般化・普遍化する表現があるのに!」との思いに至るからです。 前号の解説のとおり、枚数を3つずつに分けていく過程でわかったことは、「1、1、1」の3枚、「3、3、3」の9枚、「9、9、9」の27枚が最低必要な計測回数の区切り枚数で、その計測回数はそれぞれ1、2、3回ということでした。 つまり、27枚の次の区切りは「27、27、27」の81枚で、その最低必要な計測回数は4回、その次が「81、81、81」の243枚で5回・・・となって行き、最低必要な計測回数をnとすれば、そのときの枚数は3nであることがわかってきます。したがって、もし最初に与えられた枚数がX枚だとすると、3n-1<X ≦3nから、n 回がすぐ出てくるということなのです。 このように考えておけば、どんなに大きな枚数でも、その解答にはほとんど時間がかからず、つまりスピードや簡便さという視点から、現代社会に求められるビジネス要件の一端を満たす一つの例として見ることができます。この設問を解く過程で、あるいはその解説を見たあとで、ここまで考えを進めることができたかどうか、皆さんの場合はどうでしたか。未知の先まで考える地頭力をこんな形で発揮できるというサンプルです。しかしここまでは、論理思考によるスピードという観点からは、これまでも解説してきている個々の設問背景とさして変わりはありません。しかし、見方を変えれば次のような重要なメッセージを含んでいると見ることができるのです。 この一般化・普遍化という作業は、いわば与えられた現状から「先を読む」ことに相当するものでした。一方、見方を変えるならば、先から今を見ることによって、当面の問題など非常に簡単に解けるということがわかります。つまり、先に相当する3nという一般化・普遍化した大きな数をつかんでおけば、そこから設問のような出発点ともいうべき8枚や9枚などという小さな枚数に遭遇しても、もはや易しいかぎりだということです。当然ですね。 このことはビジネス界においても真であるということを、その言動から実証している人がいます。それはビル・ゲイツの友人でもあるソフトバンクの孫正義氏です。 デジタルという言葉は今日でこそ一般化していますが、氏は今から20年以上も前の1980年代の後半に「デジタル情報革命を推進するためのインフラを提供することを志・使命とする」と、革命という言葉まで使った宣言をしています。 竜馬を見習って、我々は現代の世界で新たな事業を興し、時代の一大革命を起こすべきだと思いますし、私もその一端をになって、たった一度しかない人生を竜馬のように痛快に生きられたらと思っています。これからはこのデジタル情報革命の核の部分、インターネットに資源すべてを集中し、あまり小さなことにこだわらず、大仕掛けなことをやっていきたいと思います。 この事業を推進することで人間の能力をより高め、人々が幸せに一歩でも近づくことができるようにする、というのが我々の経営理念で、それは、国や地域、そして会社や私個人のエゴといった次元をはるかに超えた『道』です。そのためインフラ代を限りなく廉価にすることもぼくらの仕事の中の1つなんです」 と、インターネットへの資源集中を宣言しています。 「川の上に浮いて流れている葉っぱは、右に左に、ときには石や岩にぶつかって逆流したり渦を巻いたり、激流であればあるほどとてもまっすぐ流れているようには見えない。でも、それは近くで見ているからであって、1キロ、2キロ離れたところから見れば一直線なんです。川上から川下へ。物事はシンプルなんです。大きな絵で見れば。 つまり、これだけ変化が激しい、海で言えば、波高く荒れているときに、3メートル先を見ておったら海の景色がこんなに揺れて、船酔いを起こしてしまわけです。 だからこそぼくは逆に、あえて100キロ先、300キロ先の遠くを見てみる。そうすると、景色はほとんどぶれずおだやかなんです。そのような静かな海にぴたっと照準を合わせる。 そう言うと、よく人が言うんです。これだけ変化の激しい時代に、そんな何年も先を見ていて、わかるかと。多くの人は、現実が大事だ、先を見てどうするんだと言う。 それは言葉づかいが正確ではない。先を見るのではない。先から今を見てくる。変化が激しい時だからこそ、できるだけ遠くに目を配り、遠くからバッと見返す。そういうイメージってビジネスにとってものすごく大事だと思うんです。 未来から現在を見返す目、その先というのは何かと言ったら、仮に海で言えば、ほとんど安定してしまった、なぎている海。なぎているそこから今を見ると、今の嵐なんてたいしたことはないとなるわけです。 海全体から見れば、荒れているところは局所的なほんのごく一部ということで、孫氏は大局から今を見ることを重要なポイントとして指摘しているわけですが、前述、設問33の地頭力を働かせ、一般化した枚数3nは、文字どおり普遍化した大局に相当するもので、8枚や9枚という小さな枚数は今直面している足元の問題ということです。 ビル・ゲイツは深く考えよ、と言っています。「それが、なんぼのものよ」で終わるかどうかは、その見方次第なのです。未知の先まで考える地頭力もあれば、またその先から今の足元をみようという発想をすること自体もまた地頭力のなせる技です。前回の設問を1つとっても、その見方を変えて深く考えれば、地頭力を試す論理思考という観点からだけではなく、経営やビジネス、あるいは人生という観点からも、普遍にして示唆に富む深遠な意味を含んでいることもおわかりいただけることと思います。 それではこの辺で、今号の設問の解説に移りたいと思います。 |
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当連載の設問をその1からずっとご覧になっている方の中には、この設問を見て「あぁ、前にもどこかにあった設問に似ているな」と、思い当たる人もおありかと思います。 今回はビル・ゲイツ家のブラインドという指定ではないため、一般の家庭やオフィスを対象に考えてもいいと思いますが、「発想の豊かさ、奇抜さ、斬新さ」は、やはり解答のキーポイントになるはずです。 次に注意が必要なのは設計の対象です。このような設問に接しますと、ブラインドとリモコンなど何もかも一緒になって考えてしまいがちですが、回答を求められているのはリモコンのほうです。 しかし、デザインなどは別としても、機能という観点からは切り離せません。リモコンの本来の役目は機能をコントロールすることだからです。 そこで現在利用しているブラインドの機能を見ますと、1つは開閉用、もう1つは羽の角度を変えるもの、この2つです。その役目はといえば、直射日光によるまぶしさや室温に影響している入射光の調整から、室内のものの色あせ防御や外から室内が見えにくくするため調整など多々あります。 次に考え付きそうなのが、タイマー。ところが、朝6時半にブラインドの羽の角度を全開にし、正午から夕方5時までは60度にして、そのあと午後7時20分までは30度、それ以降は閉じる、といった予約をしておくということなど、実生活を考えますとほとんど意味をなしません。 しかし、ここであきらめたら、応募者の資質を見ようという出題者側の思う壺で、“そこまで考えたのに、惜しい!”ということになるのですが、ここで踏ん張って、もう少しねばり強く考える人を彼らは望んでいるのです。 今、人が近づくと電灯が灯るようになっている施設を見かけた皆さんも多いことと思いますが、あれは人間の放つ赤外線に反応するセンサーが活躍しているもので、太陽光に反応するセンサーをブラインドに取り付けておけば、このセンサーが光量の度合いを感知してくれます。 しかし、せっかくここまでのアイデアを思いついたら、「もっと地頭力を働かせて考えてほしい」というのが、ソフトウエア開発の総本山、マイクロソフトを率いてきたビル・ゲイツです。 |
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話は変わりますが、日本には古来から伝わる「すだれ」というブラインドがあります。洋式のブラインドと比べ、光量の調節といった機能では劣るかもしれませんが、それでも自然そのものを生かした「すだれ」は、見た目の優美さ、情緒、安らぎ、という感覚に訴える点で、あるいはまた地球環境に優しいという点では、断然、優れています。 では、またその背景を考えながら、次の問題をやってみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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