その35:隠れている絶対条件 |
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以前の設問で、「富士山を動かすのに、どれだけ時間がかかるか」という問題を取り上げましたが、過日、このマイクロソフトの設問をタイトルにして、NHKのクローズアップ現代の放映がありました。 この今風の地頭の由来や地頭力の意味するところについては、当連載のその31やその34などの中で詳しく説明してきていますが、一見、純粋な数学の世界の問題にしか見えないような設問でも、深く考えればビジネスや人生にも大いに関係して考えられることなど、たとえば設問33の天秤の設問を1つ取っても、「その根底には経営やビジネス、あるいは人生という観点からも示唆することが多くある」ことがわかると、前回の解説でお伝えしました。 またこれら数学の世界の問題とは違って、前回の設問34はリモコンの設計という問題でした。これは設問24のビル・ゲイツの浴室の設計とともに、その出題背景は応募者の「発想の豊かさ、奇抜さ、斬新さ」を見ようとする問題で、これらはもはや誰が見てもそのものずばり、ビジネスに直結する設問です。 「すべての偉大な事業は、はじめは不可能と言われた」というカーライルの言葉などを持ち出さなくても、これらの案はそれこそ手短なところで解決できそうなものばかりです。すでにその開発に着手されている業界もあるかもしれませんが、もしもまだそんなニーズに気付かず考えてもいないということであれば、スピードと利便性がいっそう要求される昨今のビジネス界において、さらに未知の世界に対する問題解決能力である地頭力を存分に発揮・チャレンジできる分野ではないでしょうか。 さて、それでは今号の設問に取り掛かります。かなり手ごわいとの印象を受けるかもしれませんが、その解説に移る前に、まずは次の問題を解いてみてください。制限時間5分。 |
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次の設問35を解くのに参考となる重要なカギがあるため、少なくとも5分は考えてください。 …どうですか。解けましたか。この問題は、実に今からさかのぼること1200年も前の、日本で言えば奈良時代という大昔にアルクインというイギリスの修道士(Alquin 735〜804年)が考えたものです。 さて、この問題では、キャベツと羊、羊と狼のペアを一緒しておかないためにどのような方法があるかが解決への糸口を与えますが、その最も重要なカギと言えば、設問25のアルファベットと数字の書いてあるカードの問題や、設問31の果物を食べることのできる保育園児の問題のときと同じく、そこには書かれていないもの、目に見えていないもの、つまり隠れている条件を見つけることです。そこに気付き、それさえわかればあとは早いのです。 そこで対岸に羊を降ろし、1人で引き返してきます。そして今度は何を運ぶか。キャベツにしろ狼にしろ、次に対岸へ運べば、羊とキャベツか、羊と狼かのペアができることになり、食うか食われるかの世界になってしまいます。 そこで今度、たとえばキャベツを対岸に運ぶとしたら、そこに狼がいるような方法がないかを考えればいいということになります。そうなるためには、キャベツのかごを降ろしたのち、すでにそこにいる羊を持ち帰ってこちらの岸に降ろし、そこで次に狼を対岸に運べば、対岸にはキャベツと狼のペアができることがわかります。あとは1人で戻ってから、羊をもう一度対岸に運べばよいわけです。 そして解答は2通りあることになります。図示したように羊を運んだあと、2回目にキャベツではなく狼を運んだとしても、同様にして羊を持ち帰り、3回目にキャベツを運べばよいだけです。いずれにしろ対岸には4回渡ることになりますが、この問題で制限時間さえ設けなければ、「お受験の生徒」さんにも解ける内容かもしれません。 さて、冒頭から古いパズルを持ち出しましたが、このような問題が1200年のときを経て今日のような姿に変わった中の1つが、ビル・ゲイツの出す次の設問35です。そこでなぜこの古いパズルを持ち出したのか、その理由はのちほど説明します。 |
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まずこの問題の制約はといえば、橋の上には2人まで、懐中電灯は1個でそれなくして渡れない、したがって橋を渡れるのは1人または2人一緒、残っている人がいたら必ず引き返して懐中電灯を手渡さねばならない、各自が渡るに要する時間は決まっている、渡り始めから全員が渡り終えるまでの制限時間がある、などです。 そこで誰でも最初に思いつくことは、一番早い人を引き返す人に選ぶことで、その人が一番遅い人から順に送っていく方法です。わかりやすくするために、ここから春男=A(1分)、夏男=B(2分)、秋男=C(5分)、冬男=D(10分)と表記して説明しますと、まずAとDで渡り(10分)、Aが戻り(1分)、次にAとCで渡り(5分)、Aが戻り(1分)、最後にAとBが渡る(2分)というもので、合計10+1+5+1+2=19分となります。 そこで次に考えつくことは、遅い2人を一緒に渡らせるという方法です。この場合、そのうちの1人の時間は一番遅い人の時間で相殺される、つまりCとDとが一緒に渡れば、5分かかるCの時間はDの時間内に飲み込まれてしまうことから、この2人はDの10分で済みます。しかし、順番が一番最後に渡らない限り、1人は懐中電灯を持って帰ってこなければなりません。この場合、早い方のCが戻ることになりますが、戻った時点で、もはや15分。いずれまたCも渡らなければならず、とても17分内では収まりません。・・・(2) そこで考えられるのは、一番最後にこの遅いCとDの2人が戻る必要がなく、渡っておしまいという手です。しかしこうなるためにはどうしても、その前のステップでCが1人で懐中電灯を持って帰ってきている必要があります。これではCとDが一緒に渡る前に、Cが1往復していることになり、すでにこれだけで10分使っていることになります。うまくいきません。・・・(3) 実は事前に、私の友人、知人の9人にこの問題をやってもらったのですが、皆さんはここまで同じステップを踏んだようです。そこで彼らの間から出てきたのが、次のような苦肉の回答でした。 (I) 先に渡る2人の足元を、残っている2人がこちらの岸から懐中電灯で照らしてあげ、先の2人が渡り切ったところで、残った2人が渡るという案。これなら17分もかからずに最短時間の12分で済みます。 それではということで出てきた残りの回答とは、 そして遂にこの9人の中には、時間とか何か設定が間違っているのではないか、と設問10で見たトムとジムの所持金のように、出題のロジックに疑問を抱く友人も出てきました。このあと、時間をかけてやっと解いた人が3人いましたが、残念ながらここまで9人は全滅でした。 それでは、正解の解説に移ります。 戻るということになれば、最終的に対岸へ落ち着くまでには、片道4回分が必要となり、Dなら40分、Cでも20分を使ってしまいますから、とうてい17分以内に収まることはなく、したがってCとDは絶対に戻ってはならないのです。 この絶対条件、キーポイントがわかれば、次にCとDは誰と一緒に渡るかですが、そこで「CとDは一緒に渡らねばならない」につながってきます。別々に渡るとすれば、一番最初のほうで見た、Aに送り迎えをさせる方法が一番早く、それでも19分はかかってしまいます。 ということは、このペアは途中で渡る方法しかありません。自分たちが渡るために誰かが電灯を持ってきてくれ、またペアが渡ったあと誰かが残っている人に電灯を届ける方法です。ここまでくれば、もはや答が出たも同然です。誰かとはAかBしかありませんが、1人だけで往復するのはナンセンスで、AとBのペアで渡った後のどちらかになります。 ではやってみます。最初にAとBのペアが渡ります(2分)、そして早いほうのAが懐中電灯を持って戻り(1分)、次にCとDのペアが渡ります(10分)。今度はすでに渡っているBが懐中電灯を持って戻り(2分)、最後に先に戻っていたAと一緒にBが渡る(2分)。これで合計2+1+10+2+2=17分となり、正解に辿り着くことができます。 演習問題のときと同じように、これにも正解は2つあります。一番最初に渡ったAとBのペアのうち、最初に懐中電灯を持って戻るのはAでもBでもかまわないということです。結果はどちらの場合も17分で済むことがわかります。 このような形で論理的な思考をした人だけが正解に至れるわけで、隠れている、つまり未知の分野に思考をこらす地頭力によるところが、非常に大きいことがわかります。たまたまではなく、このような論理思考で解いた方は、りっぱな今風の地頭力を持った人ということになり、ビル・ゲイツはこんな人を探しているわけです。 しかしこの問題が解けなかったとしても、少しもがっかりする必要はありません。というのも、この設問を事前に試していただいた9人は、東大、京大他、名だたる大学卒であったり、あるいはまたIT会社やコンサルタント会社で頭脳明晰・秀才と呼ばれ、現役でバリバリ活躍している諸氏たちだったからです。 これだけ多くの人が解けなかった背景は何か、それを検証してみる価値がありますので、ここで少し振り返ってその見えない原因を考えてみたいと思います。
では、正解です。 |
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それではその背景を考えながら、次の問題をやってみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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