その5:どんなものにも理由がある |
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大西洋、アジア地区の太平洋、そしてインド洋で発生する熱帯性低気圧を、それぞれハリケーン、台風、サイクロンと呼んでいますが、近年、規模の大きいものが発生しやすくなったとされる背景として、海水温度の異常上昇があげられています。 熱帯性低気圧はその名が示すとおり、熱帯地域の海水の温度が非常に上がった地点で、水蒸気を多く含んだ空気も一緒に温められ急上昇することに起因するわけですが、この海水温度の異常上昇は地球の温暖化が影響しているとの説があります。 ここで「なぜ本文冒頭から、設問とは何の関係もない台風の話をするのか」との疑問をいだかれた読者の方も多いと思いますが、本編の設問2で解説した「氷山と水位と地球環境」の話を思い出していただくとわかります。 しかし、恵みの雨をもたらしてくれる台風もあれば、またこんなことをして延々と続いてきた自然体系を壊してしまうこともあるわけで、そうなっては元も子もありません。海流が変わるだけでも、あきらかに地球上の気象地図は塗り替えられ、今日の生物界のバランスを崩してしまいます。 その意味から一時的にと言ったわけですが、このように1つの設問でも、そこから派生する問題に各自思いを巡らせていっていただければと思います。 それでは前回の設問の解答に移ります。 |
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この問題は、日常よく目にする身近なものでありながら、多くの人々がおおよそそんなことまで考えたこともないというその意外性にあり、マイクロソフトの出題の中でも最もよく引合いに出される設問でもあります。 この意外性こそが出題側の意図している背景で、つまり、作られているものには必ずそれなりの理由があり、普段見過ごしてしまいがちなことにも、常に注意を払って見ているかどうかをみようというものです。 プログラミングは100点万点でなければ、コンピューターは通してくれませし、また、たとえ通してくれても、構築された中の誤ったロジックを一部見過ごしてしまいますと、銀行のオンラインプログラムなどで発生したような、あとで社会に多大な迷惑をかける事態が多々起こるわけです。 さて、道路や歩道の下に埋め込まれている下水道溝、汚水溝、雨水溝、電気や電話線の収納溝へ、点検や修理のために人が入っていく穴という意味で、マンホール、Man(人)Hole(穴)と名づけられていますが、ただその穴を塞ぐフタということであれば、形は三角でも四角でも、あるいは楕円形であってもいいわけです。しかし普段、何事にも注意を払って見ている応募者は、この問題に答られるということです。
もし、世の中にある膨大な量の下水溝など汚水溝のフタが、この深い溝にあちこちで落ちるようなことがあったならどうなるか。底の深い暗闇の中で汚物に埋もれたフタを探し出すこともたいへんなら、そこから重いフタを地上へと取り上げ、また清掃するのもたいへんなわけです。 また、フタがずれたり、はずれてすっぽりと穴があいたままの状態が、昼間はともかく夜に生じたらどうでしょうか。車道では大事故、歩道でも確実に人命にかかわってくる問題です。そのため、フタが簡単にずれたりはずれたりしないよう、それは重く作られており、下水道溝のフタは平均44キロほどもある重さです。 設問のポイントは常日頃の行動で、そういうことまで考えたことがあるかどうか、その注意深さをみようとした問題なのです。 ここまでくると、もう正解は見えてきます。フタが三角や四角や楕円だったりすると、それがタテや斜めになったときに穴の一番長い径から下に落ちてしまうということです。円の場合はどこをとっても直径であり、フタを縦にしようが、横や斜めにしようが、どのような角度にしても落ちません。 それでは正解です。 |
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この他に、人間の胴は丸く作られていますので、作業のためには丸い穴のほうが自然体で出入りがし易いということ、また工事という観点を考慮して、丸い穴のほうが四角い穴よりも掘り易い、あるいは重いフタを移動しなければならないとき、丸いほうが転がし易いといった、作業のし易さや労力節減という視点から出された答には、その内容に妥当性がある分だけ、配点の裁量はなされたそうです。
* - * - * - * - * この機会に、丸い形以外に下に落ちない形はないのか、また普段はなかなか気付かないデザインなどについて、2、3付け加えておきます。 下に落ちない形
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図 1 |
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20ペンス硬貨 (40円相当) |
50ペンス硬貨 (100円相当) |
マンホールのフタには、取っ手になる部分の穴以外に、写真に見られるような小さな穴がたくさんあいています。せっかく穴をふさぐためのフタなのに、これでは逆にゴミや砂などが入り込んでしまって、あとで中の掃除などたいへんな作業になることは一目瞭然です。しかし、本号のタイトルである「どんなものにも理由がある」のとおり、この穴も意図的にあけてあります。
それは、この穴がなかったがために起こった悲しい事故が、過去、幾つもあったことに起因しています。日本では気象上、集中豪雨にみまわれる地域がたくさんありますが、この集中豪雨が襲ったとき、行き場を失った水がドット下水溝に流入して、ウォーターハンマーとかエアーハンマーと呼ばれる現象を起こすのです。
つまり、この穴は一種のガス抜き用のもので、この一時的に起こる水圧と空気圧によって、44キロもあるフタでさえも持ち上げられてしまい、その移動の結果、泥水で足元の見えない中での転落死が相次いで生じたのです。
したがって、下水道用のフタには必ずこのような穴があいています。もしも穴のあけられていてないフタがあったとすれば、それは底の浅い電線電話線溝や消火栓用のものであるか、集中豪雨の心配がない北の地方か、または下水溝の途中で別途特別なガス抜き溝が配備されているか、あるいは集中豪雨があってもなんらか他の措置がとられているということで、そのようなフタは不要だとされる地点に設置されているものです。
日本グラウンド マンホール工業会によりますと、フタのデザインには規制があって
などがあるそうですが、この最後にあるデザインの耐久性とは何か、不思議に思って詳細をみますと、「長い間に模様は磨滅していくので、磨滅による味わいが出るようなデザイン」とあったのには、う〜んと、うなってしまいました。
この規制のリストに地域特性とありますように、市町村や時代によってマンホールのフタの図柄は千差万別です。特別注意してみてみると、そこには幾何学模様はもちろんのこと、その土地土地の動植物草花や特産品、観光名所をあしらったもの、あるいはアメンボの住める綺麗な水を!といった願い込めたものまであります。
マンホール友の会というのがあって、全国1500ヵ所ちかくにおよぶ地域のデザインが掲載されています。http://www6.airnet.ne.jp/manhole/index.htmlの中のマンホール図鑑にあるいくつかのサンプルをここに参照してみますが、カラフルなものから重厚感溢れるものまで、その土地土地の思いや特徴が出ていて、実によくまとめてあります。
今日からでも、外出や旅行のときに注意してみていただくと、また一段と楽しめるのではないでしょうか。
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それでは、ビル・ゲイツの意図するその出題背景も考えながら、次の設問をやってみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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