その72 |
直感を惑わす問題をどう見抜くか |
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皆さんの夏休み期間をいただいて、特殊相対性理論や一般相対性理論の主要部分を誰もが易しく理解していただけるような形で出題したのが、その70とその71の前2問でした。
これをさらに証明したのは、観測精度の高いハッブル宇宙望遠鏡です。
このような天体のことや特殊相対性理論、あるいはそれも含めた一般相対性理論のことなどをお話しますと、そんなことはわれわれの日常生活と何の関係もないと思われる方も多いかもしれんません。 その地図情報を得るのに人工衛星を使っている、ということはおそらくどなたもご存知だと思います。つまりGPS(Global Positioning System、全地球測位システム)衛星です。そこでカーナビでは、3次元の現在位置座標と受信側の車の時計補正値を求めるために、最低4つのGPS衛星を利用しています。これら4つの未知数を出すための4次元方程式を解くためです。 その現在位置を出すには、まず衛星までの距離の算出が必要です。その距離は、図1のように3つの衛星を中心に円を描き、車までの交点を求めて、それぞれその位置がわかっている3つの衛星から電波が車に届くまでにかかった時間と電波速度(光速と同じ)を掛け合わせれば、3次元の各面における距離が出ます。 1日に百万分の7.11秒などとは、まったくの誤差範囲ではないかと思われるかもしれませんが、光のスピードが関係する世界では、それだけで2kmも違ってくるのです。 その進みは1日当り45.69マイクロ秒ほどで、結局、移動によって生じる7.11マイクロ秒の遅れと、重力によって生じる45.69マイクロ秒の進みと、両者の差引きで1日当り38.58マイクロ秒ほど、衛星の時間は地上の時間より速く進むことになるのです。 現行のGPSの測位誤差が10m程度なのに対し、昨年の9月に打ち上げられ、今年、2011年の6月に測位信号の提供を始めた日本の衛星「みちびき」の測位誤差は数cmだそうで、このレベルの衛星が4機も揃うならば、まさにピンポイントの指定が実現できるということになります。 いかがでしょうか。相対性理論というと、別世界のことと思われているかもしれませんが、もしもこの相対性理論がなかったら、正確な位置把握などはまったく不可能なことになり、われわれが利用しているカーナビや携帯サービスも存在しないことになります。 さて、前置きが長くなりましたが、それでは次の設問に移ります。
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さて、この問題を解けた人は多いかとも思いますが、でも安心はできません。本当の問題はちょっと別のところにあると言ったら、えっ、と言われるかもしれません。 これまでに見た時間と距離の問題といえば、設問27の「追いつく犬」や設問28の「列車と鳥」、また設問41の「ボートと鬼」や設問61の「てんとう虫」、さらに設問64の「自動車耐久走行テスト」や設問68の「同じ場所を同じ時刻に通る確率」、そして設問69の「自転車競争」や設問70の「ロケット爆発」などなどで、出題71問中の実に1割以上です。 さて、多くの方が設問の中身を見られた瞬間、「往復で速度が相殺されるのではないか」との直感がひらめいたものと思われます。あくまで一瞬の直感です。しかし、すでにこれまでの連載をこなしてきた方たちならば、「直感はおうおうにして間違うことが多い論理問題」として、注意しながら取り掛かられたはずです。 そこにあった解説を見ますと、“設問をよく読めば、2つの車は「同時に着くか、同時でなければどちらが先か」という、ただそれだけの回答を求めています。ということは、「同時に着くかどうか」をチェックすれば、同時でなかった場合には自ずとどちらが先に着くかもわかるはずで、この「同時に着くかどうか」だけをチェックする一番手っ取り早い方法といえば、具体的な値を当てはめてみればすぐわかるはずです”と、載っています。 まさにこの設問64が、そっくりそのままお手本となる手がかりとなるようです。やはり、数ある問題をたくさんこなしていれば、そこに福音がもたらされるといういい例です。 ところが計算が必要とされる設問なら、普通であればどんな問題でもその中に必ず何らかの数値が入っているものなのですが、本問の中には数値らしき数値が何一つ示されていません。 そこで簡単で計算のしやすい値として、例えば片道の距離を30km、飛行機の一定時速を10km、偏西風の一定時速を5kmにしてやってみます。これは前々問の光速の世界ではないので、通常の考え方で解くことができます。 結果、6時間対8時間で、「偏西風の中で往復に要する時間は、無風の中で要する時間と比べて長くなる」と、ごく短時間に回答できるわけです。 片道の距離をdkm、飛行機の一定時速をpkm、偏西風の一定時速をwkmとすると、無風の場合は、片道d/pで、往復2d/p時間。一方、真後ろからの追い風を受ける場合の片道はd/(p+w)時間、逆風を受ける場合の片道はd/(p−w)時間で、合計d/(p+w) + d/(p−w)=2pd/(p²−w²)時間となります。 さて、問題はちょっと別のところにあると最初に申し上げましたが、ここまできておわかりになったでしょうか。そうです。どれだけの時間で解けたか、というところがポイントということです。 そこで勝手に作った数値を使うことに異議をとなえる面接官だったら、問題の本質は変わらないことをコメントすればよく、もしも、それでも不服そうにしていたら、ペンと紙を借りて、そこで最後に解説した一般式を展開して説明すれば、もう完璧です。 さて、もうおわかりだと思いますが、当設問の背景は、直感を惑わす意図を持った問題であることを素早く見抜き、いかに早く解答できるか、そんな応募者の能力を見ようとしているものです。 それでは解答です。 |
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では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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