その101 |
見えないものに注目する |
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前号のグーグルの面接試験問題は、一見して面食らってしまうような、わけのわからない問題にみえましたが、その裏にはしっかりした背景、インターネットシステムそのものの仕組みが秘められていました。 そのときの様子と、今日を見事に予見している孫氏の先を見る嗅覚など面白い内容なので、それを巻末に掲載しておきます。 さて、今号の設問はどうでしょうか。それでは解説に移ります。
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この設問は、これまで多くみられた論理思考が要求されている問題でもなければ、思考過程や創造的問題解決能力を見ようとしている問題でもなく、また落とし穴が仕込まれているような問題とは無縁の、はっきりとした物理の問題のようです。 しかし試験問題に出されるくらいですから、単にステップを踏んで順々にやっていけば、解に辿り着けるといった単純な問題でもないはずで、問題の中のどこかに、大いなる工夫がなければ解けないような点が含まれているはずです。 磁石にはN極とS極があり、もしも両者とも磁石ならば、違う極同士はくっつき、同じ極同士ならば反発し合いますが、しかしこの設問のように、一方がただの鉄の場合は、極に関係なく、どちらか一方の筒棒の端をもう一方の筒棒の端に近づければ、必ずくっつくだけですから見分けることはできません。 では反発し合う点を考えて何かできないか・・・といっても、その場合何らかの方法で、ただの鉄を磁化しなければなりません。 さて、ここで名刑事のコロンボならば気付くはずです。 それは、違うものを見つけろ、と言っているその設問の設定の中で、一方は永久磁石で、もう一方は磁性をもたないただの鉄だと、すでにその違いに言及していることです。 では、この両者の違う部分だけを見ることにして、その違いは何か。ここに来て初めて、次のような大きな手がかりへと進むことができるということです。 そこで考えます。この両者で目に見えない違いとは何か。 たしかに道具も使わず目に見えないものを認知することはできません。認知できるのは、あくまでも目に見える形で出ている現象だけです。そこで設問の場合の現象とは何か。それはくっつくか、くっつかないかだけです。 そこはどこか。そうです。設問のような棒状の磁石ならば、そこは両極の力が打ち消し合う中央部で、そこでは磁力が発生しません。ここまでわかれば、あとはどちらか一方の円柱鉄の中央部に、もう一方の円柱鉄を近づけることによって、どちらが磁石でどちらがただの鉄かの判別が簡単にわかります。 日常生活で磁石や磁化したものを考えますと、方位計や壁などに留める紙留め用のマグネットのようなものをすぐ思い浮かべることができますが、実はその貢献分野にはものすごいものがあります。 さて、巻頭でコメントしました件ですが、1998年から2000年という、一般にはまだインターネットがそれほど普及して使われていなかったころ、ソフトバンク社長の孫氏がどんなことを言っていたか、次にご紹介します。 「今日(1999年)、マイクロソフトとかインテル、またデルやコンパックなど、すべてを入れたパソコン産業全体の時価総額400兆円に対して、インターネットのそれは10分の1の40兆円です。 パソコン業界は、今後10年間にその成長率は鈍るかもしれませんが、やはり伸びるでしょう。でもその伸びも含んだ上で、インターネット産業の方がさらに大きくなると私は確信しています。10年間で10倍以上になるということです。 しかし、これから10年間でコカコーラの飲まれる量が10倍に増えるのか。ディズニー映画の好きな人は今までの10倍見るのか、ひげを10倍剃るか。なかなかそうはいきません。インターネットの成長スピードに追いつくくらい、コカコーラを飲むというのは大変なことです。 しかし、そのパソコンをつないでフルに活用するインターネットは、人々の日常生活の隅々にまで入り込んでいって、さらに世の中を変えることは間違いありません。 それは電話やテレビや自動車がもたらしたインパクトを3つ全部足したものより大きな変化をもたらす産業になると、確信しています。と言いますのも、1日のうち電話でどのくらいの時間話をしているか、テレビを見ている時間はどのくらいか、車に乗っている時間はと考えると、近い将来インターネットに費やしている時間が最も長くなることに思い当るからです。 おそらく、朝起きてから夜寝るまで、家でもオフィスでも、生活のすべての場面にかかわってくるでしょう。このように生活に密着して欠かせないツールが成長しないわけがありません。 冷蔵庫は一度買ったら10年くらいは買い換えませんが、中に入れる食品は毎日買います。それと同じです。インターネットは現在の姿からは想像もつかないような大きな価値を持つようになるでしょう。 また、もうすぐインターネットはパンクすると言っている人もいましたが、専門家であっても、とんでもないことを言う人がいるものです。よくそんなことが言えるなと非常に驚きました。 彼らはある程度時間が経てば、「穴があったら入りたい」と思うようになるはずです。 従来は情報メディアと物の流通というのは完全に離れた世界だったわけですけど、その境界線が一気になくなってきているのです。 インターネット革命というのは、あらゆる境界線を取っ払っていく。時間、物理的な距離、人種、年齢、性別、業界など、従来、常識では境界線があったものに対し、もう一度ビジネスモデルそのものを考え直す、あるいは生活習慣そのものを考え直すことになるんじゃないかと思います。 そういう領域までもカバーしてしまうこと一つ取っても、インターネットが伸びないはずがありません。 だからインターネット革命というものが、あらゆる産業を根底から変えてしまう潜在力を持っており、インターネットの市場規模は間違いなく大きくなるはずなのです。 たとえば100億円の価値の物を1億円で売ってくれると言われても、ぼくの興味はゼロ。目先のおカネに興味なし。99億円のギャップがあってもぼくには興味ないのです。他に欲しい人がどうぞと。 ぼくの頭のほんの一部分もそこに取らないで欲しい。インターネット以外のことで利益を上げたとしても、そんなものはソフトバンクの戦略から見れば、誤差だと。要らないということなんです。 つまり、自分達の「志」とか、「ビジョン」「戦略」とかからずれたところへ行っても、大したリターンはない。そこが重要なんです。 行き当たりばったりの足し算で動くか、戦略で動くか。ぼくは戦略で動きたい。だから、少なくともこの10年間は、インターネットのこと以外は持ってこないでくれ、興味がない。こういうことなんです。 ですからインターネットがこけたら孫もソフトバンクも駄目になるという声は全く的を得ていますし、一切弁解するつもりはありません。 そのため、人からはただの大風呂敷といわれるのですが、見ようによっては、成長の予言を行なっていると考えられるかもしれません。 われわれは、依然としてデジタル情報産業を突き進んでいくということ、インフラ的なものを狙うということ、ナンバーワンになれることしかやらない、ということも当初から一切変わってはいないのです。」 どうです、いかがですか。今日になってみれば、ごく当たり前のこととして受け止められるインターネットについての内容ですが、当時はアナリストや専門家ですら、インターネットはガラスの洞窟だとか、何の価値もないと公言していたようです。 たしかに1996年〜1997年ころのパソコンには、インターネットの通信機能が常備されておらず、オプションとして初めて追加できる時代でしたが、日本の小学6年生の1/3もがスマートフォンで活用している今日を見て、公言した彼らアナリストや専門家たちは穴があったら入りたいでしょう。 氏は当時のインターネット産業全体の時価総額は40兆円だと言っていますが、今や(2014年5月末現在)グーグルの1社だけでも39兆円になっていますから、氏に対して反論などできる余地もないことがわかります。 さて、孫氏のインターネットコメントを見ていただいたところで、当設問に戻りますが、この設問の背景は、物理の原理を知っているだけではダメで、もう一歩も二歩も先を考えて、目に見えないものの問題であることに、いかに早く気づくか、さらにそこから解答に至るどのような工夫をこらすのか、などを見ようとしているものです。 それでは設問101の解答です。 |
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では、次の設問を考えてみてください。これはすでにどこかでやったかのような問題ですが、厳密な意味で違います。な〜んだ、すごく簡単ではないかと軽く見ると痛い目にあいそうです。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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