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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その102

単純な氷水の問題ではない

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 前号の磁石の問題は物理の原理を知っているだけではダメで、目に見えないものの問題であることにいかに早く気づくか、さらにそこからどんな工夫をして解答をみつけるかを、出題者側が見ようとしているものでしたが、今号の設問はどうでしょうか。

 それでは解説に移ります。

問題 設問102    コップに氷水がギリギリいっぱいに入っている。この氷が溶けたら、水面はどうなるか。水面が上がって水が溢れ出るか、あるいは水面は下がるか、それともまったく変わらないか。ただし水の蒸発や表面張力は無視する。

氷水のコップ

 このような氷に関連した水の量の問題は、かなりよく知られていると思われ、頻繁にパズルやクイズに挑戦されている方たちの中には、これまで当連載のすべての設問をこなしてきた方たちはもちろんのこと、そうではない人たちも含めて、なんで今頃になって、こんなに簡単な問題を?と思われた皆さんも多かったのではないかでしょうか。

 しかし、あなどってはダメなのです。そんなに簡単だったら、改めて難関会社の面接試験に出題されることはありません。
 だからこの点に注意して、さらに水に浮かぶ氷の基本原理や水の物理現象などをしっかり理解できている人だけが正解へと向かえることになります。

 この基本原理とは、当連載の一番最初に掲載した設問その1・「ボートから手荷物を船外に放り出したときの水位は?」の中に出てくる「水中の物体はそれ自身の重さと同じ重さの水を押しのけ、その水の重さ分だけ浮力を受ける」という、もちろん皆さんご存知の排水量と浮力の原理です。
 そしてまた、水は凍ると体積が増える、つまり密度が低くなるので、だから水に浮くという物理現象です。

 な〜んだ、簡単ではないか、と受け止めた方たちは、これらのことを元に考えた人たちで、水面より氷が顔を出していようがいまいが、氷の重さと同じ重さの水の量だけ排水するのだから、氷が溶けようが溶けまいが氷の重さが変わらないかぎり、水の排水量に変化はなく、だから氷が溶けても水面は変わらない、とする解答です。

 しかしそうは言っても、なかなか納得できない人もいるでしょう。
というのも、水面の上に顔を出している氷の体積に含まれている水が溶ければ、それだけの水の分だけ全体の水の量が増えることになるはずなのに、どうして水面が上がらないのか、という疑問です。
 これは、ただ見た目にはそのように考えられるだけの、いたって自然な疑問で、実は氷の密度が元に戻って、排水した同じ水の量に戻るだけだからです。

氷の比率=中の水の比率

 したがってこの排水の原理は、あくまでもこの氷がコップの中と同じ水で出来ている氷だと仮定しての話なのです。
 だから、その次にあった設問その2の「北極などの海に浮かぶ氷山が溶けたときの海面水位」の問題を充分理解しているならば、この設問102には注意しなければならないことに気づくはずです。
 つまり、氷の中身、あるいは水の中身によって、その答が違ってくるということだからです。
 したがって、コップの水と氷が同じ中身なのかどうかについて、この設問文は何も言及していないところに注意が必要になってくるわけです。

氷の比率<中の水の比率

 ここでこの連載のバックナンバーで、設問その2の解説を振り返っていただければわかりますが、つまり密度の違い、言い換えますと同じ体積当りの重さ・比重の違いによって事態が変わるということです。
 真水と真水から出来た氷とでは密度、つまり同じ重量でも体積が違うため、氷の体積の約1割ほどが水面上に顔を出しているわけですが、塩分を含んだ海水と真水から出来た氷山では、さらに密度、つまり比重が一層違うため、氷山の体積の約2割が海面から顔を出しているのです。

 つまり氷山の約2割分が溶けて水になった場合、その約1割は排水した同じ量だけ海水の中に戻り、水位は変わらないのですが、残りの1割が海水の中に入ることにより、結果、水が増え水位が上がることになるわけです。
 したがって、設問その2の解答は「氷山はみな真水でできているので、それが溶けたら海面の水位は上がる」でした。

氷の比率>中の水の比率

 では、この逆はどうでしょうか。もうおわかりだと思いますが、密度の薄い比重の小さい水の中に、密度の濃い比重の大きい液体を凍らせた氷体を入れた場合、この氷体の重さはその排水量の水の重さより重く浮力不足で、この氷体は水面上に顔を出すことなく、水中に漂うか沈みます。
 ということは、この水の中で、水で出来た氷よりも排水量の少ないこの氷体が溶けても、その排水量を補うことはできず、全体の水量は減ることになって、結果、水位は下がるわけです。

 これでおわかりのように、単純に氷水と言っても、その水と氷の中身によって答はまったく違ってくるのです。だから、よく目にする問題だと言っても、入社試験に出題されるような問題には心してかからなければならない、ということです。


雹が降ったときの画像その1
 氷と言えば、この6月に東京で轟音の雷とともに猛烈な雹(ヒョウ)が降りました。ヒョウという字がどんな漢字だったのかもわからないくらい疎遠になっている現象で、直径2〜3cm大の雹が短時間のうちに集中的に降ったのです。
 その様子は各局テレビですぐに放映され、またインターネットの動画サイトでも収録されたそのときの様子を見ることができます。
 この機会に、雹ができる仕組みや東京での実態を次に見てみることにします。  雹(ヒョウ)が出来る仕組み
 地表と上空の温度差が激しいとき、激しい上昇気流が生じて積乱雲ができ、その中で氷、あられ、雹などが生成される。直径が5ミリ以上の氷の粒を雹といい、5ミリ以下のものを霰(あられ)という。
 5月、6月には地表温度が30度にも達するときに、上空には夏とは違って寒気が流れ込み易く、そのため寒暖の差が70〜80度になることもあって、こんなときに強力な積乱雲が発生する。積乱雲の頂上は氷点30度とか40度のため、雲の成分である水蒸気は氷の粒となる。
雹が降ったときの画像その2
 氷の粒は、積乱雲の中で入り乱れている強い上昇気流と下降気流によって上下運動を繰り返し、この過程で周りに水の粒を付着させながら成長する。そして、ある程度の大きさになると、重さに耐えられなくなって地表面に降り落ちてくる。
 真夏は積乱雲が発生しても地上付近の気温が高いため、上空から降ってくる氷の粒が融けてしまうが、この時期の気温は雹を融かすことなく地上に到達する。だから、5月、6月は雹が降りやすい。
 雹の降る時間は数十分と短く、また範囲も、縦幅が数キロから数十キロメートル、横幅が10キロメートル以下と狭い地域で降る。
 写真は、この6月に東京の三鷹や調布を集中的に襲った雹。
雹が降ったときの画像その3

 さて、設問102の背景は、氷と水の密度、比重の違いを知っている上で、問題文を注意深く読んでいるかどうか、短絡的に問題を捉えていないか、問題文には氷や水の質について言及していないことに気づいたかどうか、あらゆるケースを注意深く考える資質を持っているかどうかなどを見ようとしているものです。

 それでは設問102の解答です。


正解 正解102  氷が中の水と同じ密度、つまり同じ比重ならば、コップの水は溢れも減りもせず水位は変わらない。しかし、氷の比重のほうが小さければ水面は上がり水が溢れ、逆に大きければ水面は下がる。

 では、その出題背景を考えながら次の設問を考えてみてください。


問題 設問103  次の3つの数列は、ある規則で並んでいる。それぞれ「?」に入る数字は何か。
その1  1、11、21、1211、111221、?
その2  1、11、21、1112、3112、211213、?
その3  1、2、3、21、32、213、3221、?

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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