久しぶりのフェルミ問題です。このような設問を初めて体験される方は、荒唐無稽な問題として必ず“そんなのわかるわけがない”との第一印象を口にするのが常で、本連載の長い愛読者の皆さんも、その一番初めの体験ではそうだったはずです。
もうご存知のように、フェルミ問題には正確な数値の解答があるわけではありません。したがってその数値自身を問題としているわけではなく、どのようにしてその概算値を推定していくか、その思考過程、プロセスを見ようとしているものです。
これまで見てきたこのフェルミ問題には、連載その18のピアノ調律師の数、その21のスケートリンクの氷の重さ、その29の富士山を動かすのにかかる時間、その42のミシシッピー川の流水量、その58のガソリンスタンドの数、その65の理髪店の数などがありましたが、いずれも解答に至るまでに展開される考え方、そのプロセスである思考過程を見ようとするものでした。
このことを前提にして、本問に入ることにします。
まず本問を見て、最初に頭に浮かんだことはどんなことでしたでしょうか。おそらくは、お手持ちのいろんなカードのことを思い浮かべた皆さんも多かったのではないかと思われます。
そのときずばり、VISAカードなどが頭に浮かんだ方もあれば、巷に溢れている他の類似カード、つまりキャッシュカードやプリペイカード、ポイントカードやデビットカード等々を思い浮かべた皆さんもあったかと思います。
そしてそれらをごっちゃに考えて、ますます“そんなのわかるわけがない”との思いに拍車がかかった皆さんもあったかもしれませんが、そこで
ごっちゃに考えた人は、この時点で面接試験はアウトになります。
なぜなら、この問題はクレジットカードと言っていますので、そのクレジットカード自身をよく知らないということになるからです。
では本問を正しく理解し、また間違った見方で進まないためにもちょうどいい機会なので、ここでそれらの違いを簡単に見てみます。
キャッシュカード キャッシュカードは銀行や郵貯などの金融機関などで口座を開設した際に発行されるカードで、キャッシュという名のとおり、ATMでの預貯金の入金・引き出し等に使えることから、預金者の誰もが持っているカードです。 別名、預金の現金入出金用カードとでも言えます。
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プリペイカード 携帯電話の普及によって、今はあまり使われなくなってきていますが、以前、誰もが持っていたテレホンカードを連想していただくと分かり易いと思います。 このカードは、事前に一定額のお金を支払って購入するもので、プリペイの名のとおり、前払いが前提となるカードです。
近年では交通機関のSUICAカードやPASMOカードがプリペイカードです。最初の購入はテレホンカードと同じですが、それと違うところは使い捨てではなく、残額がなくなったら、券売機に現金を入れてチャージし、再び使用できる点です。それらはすべて前払いということです。
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ポイントカード 以前、店の顔なじみの客には割引やおまけといったサービスが行われていましたが、それを定量化、システム化した形態と言えば分かり易いかもしれません。 買い物などの際に、一定金額ごとにポイントが付くカードで、そのポイントをのちの買い物の値引きに使用したり、特典に交換したりできるものです。 お客の購買状況が詳細に記録に残るので、店側の商品発注や商品開発・企画にも重要な情報源としての役割を果たすことにもなります。
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デビットカード 商品の購入やサービスを受けた際に決済する手段の一つで、口座から即座に代金が引落される「即時決済型」のカードで、また0.5%のキャッシュバックなどが付きます。
しかしこのカードは、預金残高の範囲内でしか買い物ができません。でも、それも一長一短で、使い過ぎを避けることができます。
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クレジットカード
商品の購入やサービスを受けた際に決済する手段の一つであるところは、デビットカードと同じですが、即時決済型と違って、後払い、つけ払いができるとろが大きな特徴です。 またCreditの意味する信用・信頼が示すとおり、このカードの発行に際しては、身元がしっかりしていて収入があることが前提で、金融機関のローンや他社クレジットカードの利用履歴・返済情報・延滞の記録、金融事故情報などを含めた総合審査があります。
VISAなどは長い歴史があることから世界的に廣く普及し、そのため各国の金融機関の多くがVISA、Master Card、JCB、American Express、Diners Clubなどの国際ブランドカード会社と提携し、その決済をこれらブランドにゆだねています。 VISAはもちろんのこと、多くの皆さんは日常どこかで、下のようなそれらのロゴを目にされているはずです。
以上、問題を解いていく上で、必要上、各種カードの簡単な違いとともに、クレジットカードの特性を見ていただきましたが、これらのことを念頭において面接官と会話するだけでも、その理解度の観点から彼らによい心証を与えることは確かです。
ときにはこのようなやりとりも役に立つことを覚えておいたほうがいいでしょう。
それでは本題に入ります。
過去の設問のピアノ調律師の数や理髪店の数もそうであったように、
この設問の一番のベースとなるのは、人口です。
したがって出発点として、おおよその世界の人口数を把握していないとアウトです。フェルミ問題には人口がベースになるものが多くありますから、少なくとも6大陸の数値や代表的な国の、おおまかな人口くらいは知っておくことが大切です。
では、世界の人口を約70億人とします。 次にカードを持つ人ということで、この人口を絞っていくわけですが、その大きな区分けとして、地域と年齢が考えられます。
買い物やサービスの支払いにクレジットカードを使える加盟店がないと、カードを持っている意味がありませんから、国の市場や経済、そして政情の安定性も考慮しなければなりません。
そこでアフリカや中近東の政情不安定地区やアジアや南米の農村・遊牧地区、さらに世界の貧困層を除いて、資本経済の進んでいる国や地域の人口を約4割とすると、70x0.4=28億人が、まず最初の絞り込み人口です。
次に年齢の区分けです。収入がないとカード発行の審査をパスできませんから、お年寄りの年金も含め、18歳以上をその対象としますと、この28億人の中のおおよそ4分の3、つまり28x3/4=21億人を有資格者と仮定します。
この21億人はあくまでも対象になる仮定数であり、その中にはクレジットカードを持たない人もいれば、信用などで持てない人もいて、それらの人が3分の1いるとすると、7億人がカードを所持していないことになります。
つまり全世界でクレジットカードを持っていると思われる人口は、21-7=14億人と出ます。
ただし、これで終わったらアウトです。1人で銘柄の違うクレジットカードを複数枚持っている人が多いからです。
1人でカードを10枚持っている人もいれば、1枚だけの人もいます。平均して1人あたり3枚のカードをもっていると仮定すると、世界にクレジットカードは14x3=42億枚。きりのいいところで、約40億枚ほどあると想定できます。
そこで検証です。月刊 消費者信用(2011年9月号)や日経情報ストラテジー(2011年10月19日)によれば、5年前の2010年末現在の会員数は、
VISAカード |
180,800万人 |
Mastersカード |
97,500万人 |
JCBカード |
6,926万人 |
American Expressカード |
9,100万人 |
Discoverカード |
5,000万人 |
銀聯クレジットカード |
21,000万人 |
となっており、合計 320,326万人ほどで、この2010年末時点で約32億枚のカードが所持されていたことになります。
この中のDiscoverカードというのは、アメリカの百貨店・Searsが、保険会社・証券会社・信託銀行などを傘下に入れ、金融サービス事業を開始したもので、その後、世界的な金融機関グループであるモルガン・スタンレーの傘下に入っています。
また銀聯クレジットカードとは、中国の中央銀行である中国人民銀行が中心となり政府主導で設立された銀行間決済ネットワーク用のカードで、同国の銀行の多くが加盟しているものです。
上記の統計から5年経った2015年のカード枚数を推定しますと、新規加入者の自然増や、また経済成長が著しく人口が14億人もいる中国の銀聯クレジットカードは、さらに増加していると予見できることなどから、40億枚という数字はいい線をいっているのではないかと思われます。
この設問はフェルミ問題ですから、正確な数値そのものを出すことを求めているわけではなく、あくまでも結果を算出するまでの思考プロセス、算定道筋、どのような考え方で進めていくか、その思考過程・プロセスが理にかなっているかどうかを見ようとするものです。
したがってその出題背景は、概算値を出すために必要なデータや情報を最初からしっかりと持っていて、「こうだからこう考えた」という説得力のあるロジックを冷静で、かつきっちりと展開していける資質の持ち主かどうかを見ようとしているものです。
それでは設問109の解答です。
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