その113 |
影響するファクターを考慮する |
|
||||||
任意の23人集まれば、その中には50%の確率で同じ誕生日のペアがいる。また任意の252人いる集団の中には、自分と同じ誕生日の人がいる確率は50%というのは、とても日常的な感覚では信じがたい確率ですが、それが前問で見た設問でした。 とてもそんなことは信じがたいとして、それを実際にシミュレーションした人がいますが、確かに結果はそうなったそうです。
前置きが長くなりましたが、それでは今号の設問に入ります。 |
|
これはアメリカの大手コンサルタント企業、マッキンゼー社、およびボストン・コンサルティング社が「問題解決力や目標達成力を持ち、チームワークやリーダーシップを発揮して働くことができる人材を求めています」として、大学の企業説明会で出題したものです。
|
おなじみのフェルミ問題ですが、この種の問題に初めて接する方は、必ず「そんなの、わかるはずがない」と、咄嗟に反応してしまうものです。
本連載ではこれまで、設問18のピアノ調律師の数、設問21のスケートリンクの氷の重さ、設問29の富士山を動かすのにかかる時間、設問42のミシシッピー川の流水量、設問58のガソリンスタンドの数、設問65の理髪店の数、設問109のクレジットカード枚数などの例がありました。 フェルミ問題の出題者側は、あくまでも正確な数値を求めているものではなく、どのような考え方でもって最終的な数値を導くのか、そのプロセス過程を見ようというのが主旨ですから、深い読みと、そこでの論理的なプロセスをしっかりと示せばいいわけです。 したがって解答までのプロセスの中で、どのようなファクターを取り入れているかを注意深く見るはずですから、その辺をしっかりと考慮に入れておくことが大切です。 |
今日のホテルに備え付けられているシャンプーやコンディショナーと言えば、ボディソープやリンスインシャンプーなどと共に、皆さんは図のようなかなり大きめの容器やプッシュドロップ式のものが頭に浮かぶのではないでしょうか。 ここからまず、さしあたり必要になるのは、ホテルの数やミニボトルの容量です。それに従って次に必要となってくるファクターは、ホテルのツインやシングルの客室数などでしょう。 そしてここから先が、深い読みに関係するものとして、客室の稼働率、さらに使用頻度に関係する1泊か連泊か、男性客と女性客の比率や彼らのシャンプーとコンディショナーの使用比率などといったところが、あげられるのではないでしょうか。 ここで改めて、そんなのわかるか!と思ってしまっては、出題者側の思う壺です。 では本題に入って、推定していきます。 ホテルの数と言えば、すぐに大都会や都市を思い浮かべますが、都市とは対局にある人口の少ないリゾート地にも多くあります。また発展途上国のリゾート地も忘れてはならないでしょう。 そこでまずは大つかみとして、世界の国の数をベースに、そこから都市やリゾート地の数へと進むという案が出てきます。 |
直近に開催された北京(2008年)やロンドン(2012年)大会の参加国数は、ともに同じで204の国と地域でした。地域とは、たとえば台湾や香港などで、国際的にも国として呼んでいないところです。 そこで本問では、概算値として200を国の数として使うことにします。 しかし各国にある都市やリゾート地の数は、一律ではありません。 |
そこでうまい考え方があります。先進国の数に対して、アフリカや中東、南米やオセアニアなどにある国の数は、2:3くらいの割合だとします。 そこで各国10都市で、1都市当たり20ホテルと考え、したがって国の平均ホテル数を200とします。 |
しかし日本を考えると、これはとんでもなく少ない数ですが、ほとんどホテルらしきホテルが0に近いアフリカには、国の数として世界の1/4以上の60ヵ国近くもありますから、相殺に耐え得る数字ではないかと思われます。 |
次にホテル当たりの年間ボトル消費量を算出しなければなりません。それには、ホテルの総客室数が必要になります。 |
しかしこの4,000,000室がいつも満室であるとは限りません。そこで世界の客室平均稼働率を50%とみます。 ここで宿泊客のタイプを考慮する必要はないのか。シングル客かツイン客か、男性客か女性客か、単泊か連泊かなどです。 この2人の利用率を全体の3割だとすると、730,000,000 x 0.3=219,000,000、約220,000,000室です。したがってミニボトル数はこの2倍で、年間4億4000万本。 次に男性客か女性客かですが、男性にしろ女性にしろ、1日で1人2本使う客はいないのではないか、したがって男女差はあまり考慮しなくてもいいのではないかということです。 皆さんも宿泊してシャンプーなど、まったく使わなかったという経験がないでしょうか。 次に1泊が多いか連泊なのかの検討ですが、連泊の場合、2日で1本という仮定も考えられないことはありません。 ここまでに求めてきた数はシャンプーのミニボトル数ですから、次にコンディショナーのボトル数も計算しなければなりません。 しかしここで当初の設問に戻りますと、「どれくらい製造されているか」と訊いています。ということは、この回答では万全ではないような気もしてきます。 |
ミニボトルの容量はどれくらいか。普段飲んでいる、普通サイズの缶ジュースや缶ビールなどの容量は350mlですが、ミニボトルはその1/10くらいでしょうか。 また目薬を使ったことのある方は、おそらくその容量がどれくらいのものかラベルを見て知っておられるかもしれませんが、だいたい10ml?15mlです。 この出題背景は、フェルミ問題の定番として、どのような考え方でもって最終的な数値を推測していくのか、その論理的なプロセス過程を見ようというもので、そのため日常、物事を注意深く見ているか、どんな状況に置かれても必要なデータや情報をしっかりと使って、「こうだからこう考えた」という説得力のある論理性や、その延長線上にある問題解決力、潜在的な創造力や洞察能力を持っているかどうか、その資質を見ようとするものです。 フェルミ問題には数字の正解値はありません。次はサンプル解答です。 |
|
|
|
前号へ | 次号へ |
ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
※この連載記事の著作権は、執筆者および株式会社あーぷに帰属しています。無断転載コピーはおやめください