アメリカの先進企業で盛んに出題されるパズル形式の奇妙な面接試験問題が、未知・未体験の問題を解決するための「考えるプロセス」を見ることができるとの主旨から出題されていることを知り、その内容が「指示待ち族」や「マニュアル族」が増えてきている日本でも同様に、将来を担う若い人たちの自ら考える力や新たな創造力や地頭力を培う手助けになるかもしれない、との思いから始めた当連載も大詰めの130回を迎えるに至りました。
その間、大学入試も従来の暗記方式や選択方式から記述式やプレゼン表現方式へと変わることになり、当連載その125でもお知らせしましたように、多少なりとも入試改革にお手伝いできたと思っています。
当連載では主に思考パズルを掲載してきましたが、実際にはこの他にビジネスケースの問題も出題されます。
そのケーススタディで取り上げられる内容は、経営や戦略、マーケティングや会計などの職種によって異なり、たとえば、コンサルティングに関するケースなら、「この企業は新たに必要な技術を開発するべきか、それとも、提携あるいはライセンス契約や企業買収で、その技術を買うべきか?」などという問題となって出されます。
ビジネスケースで重要なのはフェルミ問題と同様、数値なども含めて最終的な答えが合っているかどうかではなく、そのアプローチ方法です。
前身がアーサー・アンダーソンで世界最大級のコンサルタント会社アクセンチュアの人事担当者の言葉、「ケースに登場する業種についての深い知識を見せてもらおうとは思っていません。ただ、持てる知識を有効に活用し、良識に基づいて仮説を立ててもらいたいのです。信頼性の高いアプローチや解決策が複数あるので、論理的かつ順序立てて答えることがもっとも重要になります」と言っているように、重要視されているのは答えの数字ではなく、理にかなった体系的なアプローチをとっているかどうか、そこを見ようということです。
では、どんな問題が出されるのか。次はアメリカの友人が教えてくれたアクセンチュアで出題されたものです。
問題:「今、あなたのクライアントであるバイオテクノロジー企業が悩みを抱えています。市場に出している製品は1つで、売上は5億ドルです。現在、販売力の拡張に投資すべきかどうか迷っているのです。状況を踏まえて的確なアドバイスを与えてください」というもので、以下のような業界全体とクライアントの状況説明がなされています。
〈この業界の状況〉
- 新製品が成功するには、その分野のパイオニアとなることが極めて重要。
- 特許権の存続期間は17年で、研究開発と食品医薬品局の承認手続きにほとんどの期間が費やされる。
- がん製品は一般的に非常に高価であるが、保険に加入していれば、患者が自己負担した額のほとんどは戻ってくる。
- なかなか営業員に会ってくれないがんの専門医にがん製品を売るには、専門知識を備えた経験豊かな営業員が必須である。
- 営業の販売サイクル:営業が医師に製品を説明して回る→医師が患者に製品を勧める→患者が製品の使用を決め購入する→国の医療制度や保険会社から、購入費用が払い戻される。
- 新しい営業チームの人材の確保と訓練には、半年から1年ほどかかる。
〈クライアントの状況〉
- 現在の営業員は100人。そのほとんどが会社の設立と同時に入社。
- この5年、1製品しか販売していない。
- 既存製品は透析患者に使用されるもので、腎臓専門医がターゲット。
- 既存製品には強力なライバルが1社いる。
- この半年から1年のうちに、新製品を市場に導入する予定。
- 導入予定の新製品には少なくとも1年、競合相手は現れないと思われる。
- 新製品はがん患者に使用されるものなので、ターゲットはがん専門医。
- がん分野に導入する新製品が成功するには、販売力の強化に投資する必要があると思われる。
出題内容は書面で渡されることもあれば、簡単な場合は口頭のこともあるそうで、以下、面接官との質疑応答により解答までを進めていくことになります。面接ではつねに尋ねる姿勢が大事で、必ずクライアントに質問することから始まるコンサルタント業の場合は、特にここがチェックされるポイントでもあるとのことです。
この問題で面接官との応答事項には、
- 営業に回るがんの専門医の数
- がんの専門医を訪問する頻度
- 専門医1人あたりの訪問に要する時間
- がん患者の人数
- 患者が製品を使用する頻度
- 1回の使用の推奨量
- 営業員1人あたりにかかる年間コスト
- 新製品の導入とサポートのため新たに必要とされる営業員数
- 訪問販売の収益逓減点
- 新製品の単価の設定
- 新製品と現行製品の相乗効果
- 新製品に競合品が現れたときの対処法
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等々を交えた個々のデータから最終的に的確なアドバイスが与えられるようなアプローチを展開すればいいわけです。
この他のビジネスケースについても、次号の巻頭で載せますのでご参考にしてください。
それでは今号の設問に入ります。