常日頃から注意深く物事を見ているか、先入観にとらわれずあらゆる可能性を追求しようとしているか、また想定外のことにも細心の注意を払う注意力の持ち主か、正解はなくともそれ相応の説得力がある回答が出来るか、どのような創造的発想をするかなどなど、考え方の幅広さ、柔軟性、枠にとらわれない思考に沿って、その論理的な思考過程や創造的問題解決能力、さらには問題への取組姿勢から「やる気や行動力」あるいは「あきらめないねばり強い忍耐力」までをも見ようと、次々と出題されているアメリカ最先端企業の面接試験問題。
それにならって、日本の将来を担う若い人たちにもその資質や、未知・未体験の世界での問題解決のための思考力及び新たな創造力、いわゆる自ら考える頭脳・地頭力を培ってもらおうと始めた当連載も、前号で130回を迎え、その間、大学入試改革に多少なりともお手伝いができ、それなりの役目を果たせたと思っています。
充分に任務を果たすことのできたこの130回目を節目に、当連載を終了しようと考えていたのですが、愛読者の皆さんから参考までにと届けられた価値のある問題も残っており、それを紹介しないまま済ましていいものかどうかとの考えもあって再考、もう少しだけ延ばすことにしました。
さて、アメリカの面接試験にはビジネスケースの問題も出題されます。このビジネスケースは、きっちりと解答がある論理思考問題と違い、文字通りビジネスの課題を面接官とのやり取りを通して分析しながら進める形式が主であるため、当連載の設問と解答という形ではまとめあげづらく、したがって取り上げませんでした。
しかし、出題されているということは現実であり、したがってそのさわりだけでも紹介しておければとの観点から、前号の巻頭でアメリカ大手のコンサルタント会社・アクセンチュアの事例を紹介しました。
おかれた状況から課題の解決に向けて、どのような観点から分析を進めていけばいいのか、ヒントのようなものをつかめたかと思います。
では、次にマッキンゼー・アンド・カンパニーが出題したビジネスケースを紹介します。
「あなたのクライアントはA社です。そのA社の主な業務は、企業の年次株主総会の委任状のとりまとめです。年次株主総会の開催は、法律ですべての株式公開企業に義務づけられていて、総会に来場できない株主には、委任状を送ってもらうことになっています。
全州から何百万と郵送されてくる委任状を集計し、一覧にまとめて企業に報告します。その結果を企業が公表するのです。
このA社は企業合併ブームに伴って急成長しました。最初はシカゴ郊外に事務所を構えていましたが、ニューヨークのウオール街をはじめとする国内の大都市中心部10ヵ所に支店を構えるほどになりました。
ところが企業合併ブームが去ったとたん、業績は悪化の一途をたどるようになりました。
そんなA社から、コスト削減のアドバイスを求められています。この課題に対し、あなたはどう取り組みますか? どんな情報を必要としますか? どんな分析手段を使いますか? どんな仮説を最初に立てますか?」
という問題です。
これに対してアメリカの友人はこんなコメントをしています。
「課題は売上ではなくコスト削減としている。A社の業務内容からすると、労働集約的な事務作業が主であることから、最も経費がかかると思われるのは“人件費と家賃の2大コスト”という仮説を立てる。
そこで基本的に、顧客と顔を合わせることなく業務を行えるようなA社は、顧客にサービスを提供するような場所を必要とする会社とは違い、街の中心部に事務所を構える必要性はそれほど高くないと思われ、したがって業績にマイナスの影響を与えない範囲で、A社の事務所を家賃やオフィス代が安くすむ郊外や地方への移転が考えられる。
これには顧客調査を実施して、顧客が重視する購買要因(価格、サービスの質、信頼性など)を確認し、立地が事業の運営にはそれほど重要ではないという想定を検証する必要がある。
さらに本社にもっと機能を集中させて各支店の数や人数を減らし、また支店の統合によるサポートサービスの共有で諸経費を切りつめ、コスト削減を図ることも考えられる。
実際、各支店ごとの収支データを通して、その利益率を見ることによりこれら仮説を検証することができる。
さらにA社の業績を同業他社との比較を通して、利益の落ち込みが業界全体のものなのか、それともA社に限ったことなのかもその利益率から判断できる。
調査結果から、A社のような業界を顧客のニーズに基づいて細分化できるのでその区分ごとのデータから市場規模と成長率も見極めることができる。
これら分析データがあれば、区分ごとにA社の強みと弱みがわかり、どこに力を入れていけば収支が改善されるかも見えてくることになる。」
といった内容で面接官とやり取りしていけばいいのではないかというもので、これによりビジネスケースの内容やその進め方の一端が読み取れるのではないでしょうか。
それでは今号の設問に入ります。
この設問を見て、すぐに学校で学んだ順列・階乗の授業を思い出された方も多かったものと思います。
7つのものを1列にして並べると、その並べ方、順列は7の階乗=7!、つまり、7 x 6 x 5 x 4 x 3 x 2 x 1 =5040通りにもなり、少々気後れしそうになりそうですが、しかし、この問題は規則性に注目してまとめていけば、さほどでもないことがわかります。
さて、設問は「いずれとも隣り合わないケース」で出題されていますが、通常の見方として、どちらかというと「いずれかと隣り合うケース」を考えたほうがわかり易いのではないかと思います。
その結果、確率の余事象というものが使えるということです。
確率の世界で「該当するもの以外」のことを「余事象」と言っていますが、この余事象の確率のほうを簡単に出すことができれば、1からその確率を引くことにより、該当するものの確率も簡単に出せるわけです。
つまり該当する確率を(1−余事象)で計算する方法です。
この余事象については、すでに設問その47の「トランプ」、その55の「電話帳」、その112の「同じ誕生日」でやっていましたから、当連載の愛読者の皆さんも親近感を持たれるのではないかと思います。
本設問の場合、
(AがB、Cのいずれとも隣り合わない確率)=1ー(AがB、Cのいずれかと隣り合う確率)=1ー(AがB、Cのいずれかと隣り合う順列の数)/(すべての組合せ順列数)・・・(1)
ということになります。
では(AがB、Cのいずれかと隣り合う順列の数)の算出に入りますが、当連載の愛読者の中には10代前半の皆さんも混じっておられるようなので、わかり易いやり方で図表を使い、丁寧・詳細な説明を致しますゆえ、少々まどろっこしいと感じられるかもしれませんが、ご理解のほどお願いします。
まず文字の位置として左より1から7までの番号を付け、そこにA、B 、C・・を当てはめていく表を作ります。
表1の@の上段は、Aの右隣にBが来る場合の組合せ順列数の計算です。
例えば位置1にAがきて、位置2にBがきている場合、3〜7の位置に残りの5文字C、D、E、F、Gのいずれかを当てはめる組合せは、3の位置には5文字可能、次に4の位置には4文字可能という具合になり、したがってこの場合の組合せ順列数は合計、5 x 4 x 3 x 2 x 1 =5!(階乗)となります。
その表1で、このAとBの隣り合う位置を、さらに右へと順繰りに移動していきますと6回の移動が可能で、そのそれぞれの回の順列数は5!ですから、合計6 x 5!= 6! になります。
以上はA の右隣にBの組合せでしたが、今度はAの左隣にBの場合を考えると、同様な方法でその組合せ順列数も6!となり、以上Aの隣りにBがくる順列数は、合計2 x 6!となるわけです。
設問ではAに隣り合う文字はBだけでなくCにも言及していますので、表1のAのように前述Bの場合と同様、AとCの隣り合わせの組合せ順列数は、合計2 x 6!です。
したがって、AがB、Cのいずれかと隣り合う順列数は2 x 2 x 6!= 4 x 6!
となります。ところがこのままだと、まんまと落とし穴にはまってしまうのです。
つまり、この合計数4 x 6!の中には、文字の順番組合せとしてBAC、CABがもちろん入っているわけですが、これらが表1における@とAの両方にあることからダブルカウントされているということなのです。
したがってその中にBAC、CABの組合せ順列数がどれだけあるかを計算して、そのダブルカウント分だけを引いてやらなければならないということです。
その計算方法は前述のやり方を用いればよいので、その結果は表2のBのごとく2 x 5!と出ます。
したがって、(AがB、Cのいずれかと隣り合う組合せ順列数)= 4 x 6!ー 2 x 5!となり、設問の(AがB、Cのいずれとも隣り合わない確率)の答えは、(1)式から 1ー(4 x 6!ー 2 x 5!)/7! = 1ー(4 x 6ー 2)x 5!/7! =10/21となるのです。
この他に最初からスマートに解く方法もあります。
以下、(AがB、Cのいずれとも隣り合わない確率)を念頭に進めます。
まず、Aが位置1の場合、そこにAがくる確率は1/7。その隣にB、C以外のD、E、F、Gがくる確率は4/6。したがってAが位置1にきてその隣にB、C以外のD、E、F、Gがくる確率は1/7 x 4/6。
Aが位置7にくる場合もこれと同様で1/7 x 4/6。
ではAの位置が1、7以外の場合、まずその残りの5ポジションにAがくる確率は5/7。
次にAの左隣にD、E、F、Gのいずれかがくる確率は4/6で、さらにAの右隣に5文字のうちの残る3文字がくる確率は3/5なので、この場合5/7 x 4/6 x 3/5。
したがって(AがB、Cのいずれとも隣り合わない確率)は、これらの合計として、1/7 x 4/6 x 2 + 5/7 x 4/6 x 3/5 = 10/21となるわけです。
この設問の背景として、前半の解き方では、地道さと見落としがないかのチェック、後半の解き方ではスマートさとスピードを見ようとしているものではないかと思われます。
それでは設問131の解答です。
次は愛読者が知らせてくれた問題です。考えさせる良い問題だと思いますのでやってみてください。