その18:思考プロセスの重要性 |
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異質玉の問題は、最初簡単にわかった、という人が多かったと思いますが、実は、それは正解とは違った落とし穴のほうの解答だった、ということではないでしょうか。 |
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真顔のビル・ゲイツから、目の前でこのような面接試験の問題を出されたら、あなたはとっさにどういう反応を示しますか? そんなのわかるわけがないという思いに近い反応か、あるいは、とんち問答のような解を求めていると思うか、または何か落とし穴があるのではと疑念を抱くか、それともその背景へと思いを馳せるか? そんなのわかるわけがないと思うのが、まずおおかたの反応ではないでしょうか。この設問を、たとえ「日本に何人くらい」というように、国を特定するとともに、おおよその数を問う問題へと変えたとしても、日本ピアノ調律師協会に所属しているメンバーでもないかぎり、皆目、見当もつかない問題で、ましてやそれが世界の調律師の数ということであれば、そのメンバーでさえお手上げのはずです。さらにアフリカとかくわしい統計などを取っていない国まで含めた全世界のピアノ調律師ということを考えれば、そんな統計数値などあり得ようがないわけです。 しかし、「わかりません」という答えを聞くためなら、何のための設問かまったく意味をなさず、あるいは「えぃやっ、で当てろ」というのなら、理詰めとはまったくかけ離れた偶然だけを期待する愚問ということになり、わざわざビル・ゲイツがこんな設問を用意するはずがありません。 では、その背景と何か。そんな統計数値があるはずもないのに、数を訊いているということは、とにかく数を出せ!ということです。ならばどうやってということになります。そうです、実はこのどうやってが、設問の背景なのです。つまり数を出すその推定プロセス、思考過程を見ようとしているわけで、数値自身を問題としているわけではないのです。 それではこの方法で、まず日本を考えてみます。そこでのピアノ設置台数ですが、設置場所として学校、ホール、団体施設、スタジオ、その他考えられますが、なんといってもその大半は一般の家庭であるとの見方には誰も反論がないと思います。すると世帯数に関係してきます。 そこでまずどうしても知っていなければならない常識の数字が必要となります。それは日本の人口です。1億2千万人とします。1世帯あたり1人のところもあれば4人以上のとこもあります。平均2.5人として4800万世帯。この中でピアノの設置家庭は何割くらいか、ここでは正確な数値を求められているわけではなく、あくまでもどのようにして解いていくかという思考過程を重視していること、それを念頭において考えれば、常識はずれの数字でないかぎり何割でもいいのです。近所の家庭、友人や親戚の家庭、あるいはあまり余裕のない家庭や僻地のことなどに思い巡らしながら自分の思う数字を使えばいいです。 第二ステップ、そのうちどれくらいの台数がどれくらいの頻度で調律を必要とするかですが、頻繁に使用し、また音に厳しい家庭なら年に2回くらい、それ以外なら2〜3年に1回くらいか。ならば500万台全部を考えて、1台平均2年に1回くらいとすれば250万台が年1回で、隔年調律対象となります。 日本の数が出たところで次は世界ですが、ここでもやはり世界の人口、特にピアノの設置が多いだろうと考えられる北米やヨーロッパの人口です。北米3億人、ヨーロッパ4億人として、そこでの設置率を日本とほぼ同じと考えれば、日本との人口比約6倍ですから、5200x6=31200人と出ます。日本との合計は36400人。 あとは世界の残りの地域における設置台数ですが、国の経済状況を端的に表す国内総生産GDPで考えれば、それを日本と同じくらいに見て5200人、したがって全世界の調律師は36400+5200=41600人、きりのいいところで42000人という推定人数が出てきます。 それでは、あなたが日本で面接を受けた場合の模範解答です。 |
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実際、社団法人日本ピアノ調律師協会のホームページによれば、国内で稼動中のピアノは、少なく見積もっても500万台、調律師の数は6,000人ぐらいと出ていますから、かなりよい推定値です。また、アメリカ労働統計局や貿易統計のデータから推定している原書は、世界の調律師の数を40000人くらいと推定しています。 それでは次の設問はどうでしょうか。やはりその背景を考えながらやってみてください。 |
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ちょうどよい機会なので、ピアノの調律に関して2、3補足しておきます。次の質問に対して、あなたはどのように答えますか。 他の楽器にはいないのに、なぜピアノには調律師がいるのか 精密金属部品の集合権化体ともいえるフルートやクラリネットでも、あるいはバイオリンやパープ、ギターや琴といった同じ弦楽器でも、たしかにピアノのような調律師がいません。 まず、鍵盤が88もあって、音源に関係する弦に至ってはなんと230本もあり、それら長さも太さも違う弦の張力バランスを整えねばならないのです。これら弦には、常に一本当り90kg、ピアノ1台当り20トンもの強い力がかかっているそうで、だから時間がたつにつれて少しづつ緩みでてくるわけですが、その強い張力の微妙な調整が必要になるわけですから、調律作業というものがいかに難しく時間のかかる仕事かがよくわかります。 まず、材料の主役は木ということで、丸太の切り出しから始りますが、コンサートグランドピアノなどではよい反響や音色を出すために、その木材を10年以上も天然乾燥させてから使うそうです。さらに各部位と部品などが10000点揃った段階で、支柱や側板といった土台の上に響板を貼り込んで順次組み立てていくわけで、それが終わったところで今度は、振動と音というもっとも微妙な世界の調整が必要になり、組み立てを終えたそれ以降の工程だけでも3ヶ月以上かかるそうです。最初から最後まで、車の組み立てのような流れ作業とはいかない、まったく別世界であることがわかります。 ピアノの調律師には、なぜ国家検定試験のようなものがないのか このような質問にしますと、意図的に試験をなくしているかのように聞こえますが、本当のところは素人の筆者にもわかりません。ただ、仕事の本質を考えればそれでうまく機能していくだろうということはわかりますし、事実、何の混乱も起きていません。 これら調律学校卒業時では自動車教習所でいう「仮免許」の段階でり、卒業してはじめて「路上」に出るわけです。教習所の所内では子供の飛び出しも急な割り込みも暴走車もありませんが、路上では常に様々なことを予測して運転しなければならなく、経験豊富な教官の適切なアドバイスを受けながら勉強していくわけです。 本編に掲載の写真は、本場パリで活躍されている岡安明子さんのホームページ |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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