異質玉の入っている箱を当てる前々回の設問17と同様、この問題でもおそらくすぐにわかったという人が多いのではないでしょうか。いかがですか。すぐわかったという皆さんは最終的な解答を見て、今度は以外なところに人間の盲点があることに気づかされると思います。やはりすぐにわかるような設問に対しては、何かあるのではないかと疑って取り掛かる必要がありそうです。それでは長方形の形をしているケーキの代表としてカステラでも思い浮かべながら次に進んでください。
まず、すぐわかったと思われる解答についての解説です。
この設問は、ケーキを真上から見た場合、図1のようにその一部が無作為に長方形状に切り取られている状態を意味しています。そして課題は、包丁を一直線に入れてこの残されている色付きの部分を二等分せよ、ということです。
これは2つのカステラ、つまり中を切り取られているカステラと、空洞部分を占めていたカステラの2つが重なりあっていると考え、一直線に切ってその2つを同時に二分する方法を考えよ、と言っていることと同じである、というふうに置き換えて考えればいいわけです。
そこで、1つの長方形について考えます。まずここでは二分する手段が一本の直線ということであって、曲線とか折れ線ではないことです。したがって、同様に面積が同じになるといっても各々の形が違うものに二分されることはなく、それらは相似形になるということです。すると中心を外した直線では2つの相似形が作れないことから、この直線は必ず長方形の中心を通ることになります。
これがわかればあとは簡単です。その中心とは対角線の交点です。そして、別個にそれぞれの長方形の中心を通る直線は無限にありますが、共通して通る直線は、図2の赤線ようにお互いの中心を通る1本しかありません。これが簡単に解けたという人たちの解答のはずです。

ここまできて、これ以外に解答があるのか?、との声が聞こえてきそうですが、ここで設問17の解説を思い出してください。システム設計やプログラミングに関連した仕事に従事している方たちに望まれるのは、最短時間で処理できるような最少のステップで済む設計やプログラミングで、さらに簡易で確実な方法があるのなら、ビル・ゲイツはそれらの解答を望んでいるということです。実はこの問題を違う方法で9歳の少年、つまり普通の小学生が解いてしまったという点に注目です。
それでは続けます。ヒントは設問が単なる長方形の問題ではなく、ケーキということにあります。つまり平面ではなく、立体物の二分という点です。すると密度のあるものの二分になります。そこで蒸留水の氷などのように、密度が均一なものならばまだしも、対象は密度などはバラバラのケーキです。このようにバラツキのあるケーキを二等分することなどはますます難しくなるだけで、小学生がどうして解けるのか疑問が増してくるだけです。
しかしバラツキのある密度のものでも、もしもその重心がわかったなら、そこを通る任意の平面で切ることにより重量において二分することはできます。が、今度はどうやってそのケーキの重心を見つけるのかが問題です。最新のあらゆる現代技術や機器を駆使したとしても、現実にバラツキのあるケーキの中の重心位置を特定することは、さすがにまだ無理のようです。さらにたとえその位置がわかったとしても、どうやってそこに基準点の印をつけて切り目を入れるのか、ここまで考えると小学生はおろか、もはや大人といえどもお手上げです。ビル・ゲイツといえどもそこまでは考えていないはずです。
そこで、一応ケーキの密度は均一できれいな直方体をしていると仮定すれば、前述の図2のように切り目を入れることにより体積も重量も二分できます。しかしケーキというそのボリュームが争点となる二等分ですから、普通に体積の設問だと考えて問題ないはずです。が、しかしたとえ体積にしても、この外に小学生でも解けるような解答があるのか。
この設問を前にしたとき、すぐわかったという皆さんはビル・ゲイツが出す問題だからという先入観が入っていませんでしたか。この先入観があるとどうしても幾何学的な発想とともに難しく考えてしまいがちになるものです。角度を変え素直な見方をすればもう一つの解答に至ります。つまり平面の問題ならば、まさに図2が100%の正解です。が、しかし問題はわざわざケーキ、立体物としていることです。幾何学的な発想で物を見るとどうしても平面から先に入ってしまい、幅があるという点を見逃してしまうのです。
そうです。図3の赤線のように切り目を入れれば、まさに二分できます。答を知って、な〜んだということになると思いますが、このことを「そんなことだったら」と軽く考えないことです。
2人の子供がケーキを目の前にして、わけへだてなく早く分けて欲しいと泣き叫んでいる最中、あなたなら図2と図3のどちらの方法を選びますか?
答を知れば「コロンブスのたまご」ですが、図3のほうが断然簡便で、子供にもすぐに納得させることのできるわかり易い方法だということは誰もが認めるところです。このような見方の重要性は「現実の場面を想定すること」により、ずっとはっきりとしてくるということです。
冒頭に解説した解答が不正解ということではありませんが、この出題背景として、先入観が邪魔をしたり、おうおうにして、いろんな知識があると難しく考えすぎてしまいがちになるところを、現実に即して、ときには白紙に戻ってあるいは初心に帰って考えることを忘れてはいけない、があるのです。さらに、一つの方法だけで満足せず、他にもないか視点を変え、常に注意深く見ることの必要性もまた示唆しているわけです。
それでは解答です。 |