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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その19:先入観を捨て、視点を変えて見る
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エンリコ・フェルミ
エンリコ・フェルミ

 前回の設問は、これまで見てきたのものとはずいぶんと違っているという印象を持たれた方も多いと思いますが、1938年にノーベル物理学賞を受賞したイタリア人・エンリコ・フェルミ(Enrico Fermi)が亡命先のアメリカで、シカゴ大学の学生らに出した問題、「シカゴにいるピアノの調律師は何人いるか?」が原点となっています。
  彼はこの他に「カラスは止まらずにどれくらい飛べるか?」や「砂浜に砂は何粒くらいあるか?」といった何も調べないでその量を推定させる、秀才たちといえども答えにくい難問を数々出していました。このような問題はその名にちなんでフェルミ推定あるいはフェルミ問題と言われていて、ビル・ゲイツの出す面接試験問題にはこの種のものがしばしば登場します。
 フェルミ問題はまだ一部の物理学の授業で出されているそうですが、今日ではマイクロソフトやコンサルタント会社などの面接で多く使われているほうが有名です。ピアノ調律師の問題のように、フェルミ問題はそれをいくつかの要素に分解して、順次その中身を推定しながら最終結論にもっていくという方法を取るため、分解した中身の数や量について常識的な範囲での知識が求められることになります。また推定を繰り返していくため、結果的には1桁2桁程度の誤差が出てしまうのは否めません。
 しかしこの設問背景として前号でもコメントしましたが、マイクロソフトなどその業務の特性上、最終結論を導くまでのプロセス、思考過程に重きを置いているということです。
 ここでついでにエンリコ・フェルミについて申せば、彼は世界ではじめて天然ウラン−黒鉛型原子炉を完成させた人で、また原爆開発のプロジェクトであるマンハッタン計画に参画し、プロジェクトの主柱となった人です。そして亡命の直接な引き金となったナチスドイツに対しては積極的な原爆使用推進派でもあった人ですが、日本への投下には否定的な意見の持ち主でした。

 さて、今回は等分する設問ですが、その背景は何なのでしょうか。では解説に移ります。


問題 設問19

長方形のケーキがある。そのケーキの中を誰かがすでに長方形にすっぽりと切り取っている。次に切れるのはまっすぐに1回だけで、この残されたケーキを二等分するにはどう切ればいいか。ただし切り取られたケーキの大きさや向きはどうであってもよいものとする。

 異質玉の入っている箱を当てる前々回の設問17と同様、この問題でもおそらくすぐにわかったという人が多いのではないでしょうか。いかがですか。すぐわかったという皆さんは最終的な解答を見て、今度は以外なところに人間の盲点があることに気づかされると思います。やはりすぐにわかるような設問に対しては、何かあるのではないかと疑って取り掛かる必要がありそうです。それでは長方形の形をしているケーキの代表としてカステラでも思い浮かべながら次に進んでください。

 まず、すぐわかったと思われる解答についての解説です。

図1

 この設問は、ケーキを真上から見た場合、図1のようにその一部が無作為に長方形状に切り取られている状態を意味しています。そして課題は、包丁を一直線に入れてこの残されている色付きの部分を二等分せよ、ということです。
 これは2つのカステラ、つまり中を切り取られているカステラと、空洞部分を占めていたカステラの2つが重なりあっていると考え、一直線に切ってその2つを同時に二分する方法を考えよ、と言っていることと同じである、というふうに置き換えて考えればいいわけです。
 そこで、1つの長方形について考えます。まずここでは二分する手段が一本の直線ということであって、曲線とか折れ線ではないことです。したがって、同様に面積が同じになるといっても各々の形が違うものに二分されることはなく、それらは相似形になるということです。すると中心を外した直線では2つの相似形が作れないことから、この直線は必ず長方形の中心を通ることになります。
 これがわかればあとは簡単です。その中心とは対角線の交点です。そして、別個にそれぞれの長方形の中心を通る直線は無限にありますが、共通して通る直線は、図2の赤線ようにお互いの中心を通る1本しかありません。これが簡単に解けたという人たちの解答のはずです。

図2

 ここまできて、これ以外に解答があるのか?、との声が聞こえてきそうですが、ここで設問17の解説を思い出してください。システム設計やプログラミングに関連した仕事に従事している方たちに望まれるのは、最短時間で処理できるような最少のステップで済む設計やプログラミングで、さらに簡易で確実な方法があるのなら、ビル・ゲイツはそれらの解答を望んでいるということです。実はこの問題を違う方法で9歳の少年、つまり普通の小学生が解いてしまったという点に注目です。

 それでは続けます。ヒントは設問が単なる長方形の問題ではなく、ケーキということにあります。つまり平面ではなく、立体物の二分という点です。すると密度のあるものの二分になります。そこで蒸留水の氷などのように、密度が均一なものならばまだしも、対象は密度などはバラバラのケーキです。このようにバラツキのあるケーキを二等分することなどはますます難しくなるだけで、小学生がどうして解けるのか疑問が増してくるだけです。

 しかしバラツキのある密度のものでも、もしもその重心がわかったなら、そこを通る任意の平面で切ることにより重量において二分することはできます。が、今度はどうやってそのケーキの重心を見つけるのかが問題です。最新のあらゆる現代技術や機器を駆使したとしても、現実にバラツキのあるケーキの中の重心位置を特定することは、さすがにまだ無理のようです。さらにたとえその位置がわかったとしても、どうやってそこに基準点の印をつけて切り目を入れるのか、ここまで考えると小学生はおろか、もはや大人といえどもお手上げです。ビル・ゲイツといえどもそこまでは考えていないはずです。
 そこで、一応ケーキの密度は均一できれいな直方体をしていると仮定すれば、前述の図2のように切り目を入れることにより体積も重量も二分できます。しかしケーキというそのボリュームが争点となる二等分ですから、普通に体積の設問だと考えて問題ないはずです。が、しかしたとえ体積にしても、この外に小学生でも解けるような解答があるのか。

 この設問を前にしたとき、すぐわかったという皆さんはビル・ゲイツが出す問題だからという先入観が入っていませんでしたか。この先入観があるとどうしても幾何学的な発想とともに難しく考えてしまいがちになるものです。角度を変え素直な見方をすればもう一つの解答に至ります。つまり平面の問題ならば、まさに図2が100%の正解です。が、しかし問題はわざわざケーキ、立体物としていることです。幾何学的な発想で物を見るとどうしても平面から先に入ってしまい、幅があるという点を見逃してしまうのです。

図3

 そうです。図3の赤線のように切り目を入れれば、まさに二分できます。答を知って、な〜んだということになると思いますが、このことを「そんなことだったら」と軽く考えないことです。
 2人の子供がケーキを目の前にして、わけへだてなく早く分けて欲しいと泣き叫んでいる最中、あなたなら図2と図3のどちらの方法を選びますか? 答を知れば「コロンブスのたまご」ですが、図3のほうが断然簡便で、子供にもすぐに納得させることのできるわかり易い方法だということは誰もが認めるところです。このような見方の重要性は「現実の場面を想定すること」により、ずっとはっきりとしてくるということです。

 冒頭に解説した解答が不正解ということではありませんが、この出題背景として、先入観が邪魔をしたり、おうおうにして、いろんな知識があると難しく考えすぎてしまいがちになるところを、現実に即して、ときには白紙に戻ってあるいは初心に帰って考えることを忘れてはいけない、があるのです。さらに、一つの方法だけで満足せず、他にもないか視点を変え、常に注意深く見ることの必要性もまた示唆しているわけです。
 それでは解答です。


正解 正解19 図3のように水平に切り目を入れる。または図2のようにそれぞれ長方形の中心点を結んだ線に沿って切り目を入れる。

 実際、この2つとも解答をした応募者が合格だったようです。
さて、図形に切り目を入れる設問がでたところで、次の問題を考えてみてください。


問題 設問20 図4のような切り目を入れ、正方形をA、B、C、Dの4片に分ける。それらを新たに図5、図6のように組み合せると、面積が違ってくるのはなぜか。
図4
図5
図6

 余裕のあるかたは、次の設問もどうぞ。


問題 設問21 アイスホッケーのリンクにある氷の重さは全部でいくらでしょう。

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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