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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その20:視点を変えて見ることの重要性
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 前回の設問では以外なところに人間の盲点があることに気づかされたのではないでしょうか。小学生が簡単に解いてしまったということから、先入観やいろんな知識があると、おうおうにしてそれらに捕らわれてしまいがちになるということがはっきりとわかった例だと思います。白紙、あるいは初心に帰って考えることや、視点を変えて見ることの大切さを教えてくれました。
 それではまず図1 を見て、ここに並ぶマヤ遺跡から発見されたような記号らしき模様の解読に挑戦してから、次に進んでください。

図1

 では、今回の設問はどうなんでしょうか。


問題 設問20 図2のような切り目を入れ、正方形をA、B、C、Dの4片に分ける。それらを 新たに図3、図4のように組み合せると、面積が違ってくるのはなぜか。
図2
図3
図4

 図形に切り目を入れてカットする前回の設問19に関連して、これも同じく切り目を入れた問題ですが、この設問はほとんどの皆さんがすぐに解けたのではないでしょうか。そして同時に、これまでの設問と同様、そこに何か落とし穴があるのでは、との思いに至った皆さんも多いことと思います。どうでしょうか。

 同じ一つの図形を分解し、それをまた組み換えて形を変えるだけで面積が違ってくるなどということがあれば、前回のケーキカットの問題もその切れ目次第で絶対量を増やすこともできますから、子供たちも大喜びですが、、、。

 では解説です。図5において、長さが3ブロックである断片Aの紫色部分と断片Cの青色部分をくっつけ、同様に断片Bの赤色部分と断片Dの緑色の部分を合わせれば、図6で見るところのそれぞれAとCを合わせた橙色三角形と、BとDを合わせた空色三角形としての上半分、下半分の形ができあがり、たしかに元々の面積64から1増えて65になっています。

図5
図6

 でも本当にそうか。まず視覚でそれが間違っていることに気づけば、かなり視力のよい方です。なぜかというと、そこに目の錯覚を誘導する仕掛けがなされているため、問題点に気づきにくくなっているからです。その仕掛けとは、意図的に太く入れてある切れ目の線で、これにより各断片の境界があいまいになってしまっているということです。そこでこの切れ目の線をかぎりなく細くしてやれば境界が鮮明・明確になり、その間違いがはっきりとしてきます。

 もう一つは視覚にたよることなく、論理的な解き方です。つまり勾配からです。たとえば図6のBとDを合わせた空色部分が完全な三角形になるためには、図7の三角形bとdが相似形にならなければなりません。そのbとdにおいて、直角部分の辺の比はそれぞれ5:2と8:3であるため、もうこれは相似形でないことがわかります。

図7

 したがって、図6のような並べ方にしようとすると勾配が違うため、図8-1に見られるように、本来の三角形と台形で占める領域だけでなく、中ほどにあるような隙間部分ができます。この余計にできた隙間がちょうど升目1個分の面積に相当するため、合計65となるわけで、実は太い線によってこの隙間が隠されてしまっているということです。

図8−1

 同様に4つの断片を図4のような並べ方で配置すれば図8-2のようになり、この僅かにはみ出た部分及び重なり合っている部分によって、図8-1でみた隙間とまったく同じ図形ができます。それは升目1個分の面積でしたが、今度は図4においてそこがカットされてしまっているわけです。

図8−2

 この視覚による方法と論理的な方法、いずれにしろ少し考えればあまりにも容易に解けてしまう問題であるため、そこに何か落とし穴でもあるのではとの疑問がちらっと脳裏をかすめた方も多いと思います。しかし、もはや面積の違いが出てくる理由がこのようにはっきりとしている以上、外に理由などあり得ようがないことから、落とし穴の類はちょっと考えられません。 
 そうなるとこの設問は単に視覚上の盲点を突くといっただけの問題となり、そこで、はたしてビル・ゲイツがこのような設問を出すのだろうか、との思いに至るわけで、そう考えた方も多いのではないでしょうか。

 これが第一の疑問とすると、もう一歩進んで第二の疑問を持たれた方はいませんでしたか。それは設問の内容そのものからくる疑問ではなく、面接という形態からくる疑問です。ご存知のように当欄で取り上げているビル・ゲイツの設問は、すべて面接試験で出された問題です。つまり口頭による問題であって、筆記試験の問題ではありません。
 ところが当設問20は、前回のケーキの設問とは違い、特にペーパーに描かれた図形を見ないと解けない類の問題です。適性試験などを含めた筆記試験は別として、口頭だけによる面接試験でどうしてこのような問題を出せるのか、という疑問です。

ルイス・キャロル
ルイス・キャロル

 ここまで気づかれた方は視点の置き所、見方がなかなか鋭いと言えます。そうです。実はこれはビル・ゲイツの出した問題ではありません。前号でも前置きしましたように、図形に切り目を入れる設問19に関連して取り上げたもので、実は図形のパラドックスとして「不思議の国のアリス」の作者、ルイス・キャロルが作った問題です。
 その著書のほうがあまりにも有名になったためにすっかり霞んでしまっていますが、彼はオックスフォード大学で26年間も数学の教鞭をとったれっきとした数学者であり、また論理学者でもありました。ですから、設問のようなパラドックスを考えた人としても、別段、不思議ではありません。

 この視点・見方ということに関連してもう一つ、図9を見てください。一度はこの絵を見た人も多いと思いますが、これはマウリッツ・エッシャーの作品です。この絵を、右下赤丸印の中のハシゴを登りつつある人物から順に上へと見ていきますと、中ほどの階段模様が凹型をしたアーチとして見えると思います。ところが、左上赤丸印の中のカゴを持った白いドレス姿の女性から順に下へと見て行きますと、すぐ下の階段や先ほど見たアーチもジュータンを敷いた凸型の階段に見えると思います。

図9

 これは人間の脳が何に優先順位をつけて対象を見ているかによって、見え方が決まるといういい例です。そこで冒頭に出した不思議な模様の問題に戻りますと、その優先順位は自然と中に浮き出て見える模様を選んでいるはずです。結果、どうしても解読不能に陥ってしまうのです。
 そこでこの優先順位をちょっと変えて、バックの黒を基調にして見てみてください。するとものすごくはっきりとした文字が見えてくるはずです。いかがですか。それでもわからない方は巻末の図をみれば納得します。

 システム設計やソフト開発に限らず日常ビジネス全般においても、行き詰ったときに視点・見方を変えることにより意外な世界が開け、すんなりと解決策がみつかるという事例がたくさんありますが、そんなことをさりげなく教えてくれる一般例としてこれらを取り上げました。
 
 それでは本題の正解です。


正解 正解20 台形A及びBの斜め線と、三角形C及びDの斜め線とでは勾配が違う。したがってそれらを実際に組み合わせた場合より、図3はふくらんだ形、図4は重なった形となって表現されているため、面積が違ってくる。

 それでは次の設問をやってみてください。これはれっきとしたビル・ゲイツの問題です。


問題 設問21 アイスホッケーのリンクにある氷の重さは全部でいくらでしょう。

 余裕のある方は、次の設問も考えてみてください。


問題 設問22 その上に何も置いてない長方形のテーブルがある。10円玉を何個でも使えるものとして、そのテーブル上の好きなところに2人で順次交互に10円玉を置いて行くゲームを考える。ただ1つの規則として、自分の10円玉が、テーブル上にある他の10円玉に触れてはいけないという条件で、2人が順番に10円玉を置いていき、テーブルが10円玉でいっぱいになるまで続けるものとする。すでにテーブルにある10円玉に触れないで、新たに置くことができなくなった方が負けになるとすると、自分が先手の場合、どんな戦略をとるか。


 さて、巻頭の模様の問題がどうしてもわからなかった方は、上と下の黒色帯を少しずらした図10で、はっきりとした文字が読取れるはずです。

図10


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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