その21:安全意識とコスト経済意識 |
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単に視覚上の盲点を突くといっただけの試験問題を、はたしてビル・ゲイツが出すのか、前回の設問ではそんな疑問が、ふっと脳裏に浮かんだ読者の皆さんも多かったのではないでしょうか。実際は彼の出題ではなかったわけですが、一つは、前々回のケーキカットの設問同様、先入観には注意しながら何事にも常に疑問を持って取り組んでいただきたいこと、そしてさらに、新しい世界へのきっかけとすべく常に視点・見方を変えてみることも試みてほしいこと、そんな皆さんへの願いを込めていくつかの例とともに掲載したのが前回の設問でした。 それでは今号の解説に移りますが、これはれっきとしたビル・ゲイツの設問です。 |
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さらにリンクの大きさをある程度まで答えられるとすると、それはスケート連盟の専門スタッフかあるいはその選手くらいのはずで、それが正確にということになれば、そのまたごく一部の人に限られてしまいます。 その他諸々も含めていろいろ思案していきますと、設問14のように、これはどうやら普段馴染みの薄いものに対する「感覚とのずれ」を見ようとしているのではないか、というところに行き着きそうです。しかしキーポイントはあるのです。 ここまで考えた方もそうでない方も、いずれにしろ皆さんは専門スタッフでもなければ選手でもないという方が大部分のはずですから、それはそれで自分なりにリンクの大きさを予測されたことと思います。その際、頭の中には冬季オリンピックなどにおけるアイスホッケーの試合光景が浮かんだのではないでしょうか。しかしそれでもアイスホッケーの様子など日本ではスポット的にニュースで流される程度で、会場の大きさをイメージできるまでの長時間放映は皆無ですから、なかなか予測するのも困難です。 さて、皆さんそれぞれが予測した数字と、次の国際スケート連盟が規定している数字と比べていかがでしょうか。まず広さですが、国際スケート連盟がアイスホッケーリンクの標準として正式に規定している縦の長さは200フィート(=60.96m≒61m)、横の幅は98.5フィート(=30.0228m≒30m)、四隅の半径は28フィート(=8.5344m≒8.5m)です。これが標準ですが、縦の長さが56m〜61m、横の幅が26m〜30mの範囲にあるリンクならば公式戦が行える、となっています。 次に「高さ」、つまり氷の厚さですが、これには規定を設けていません。勝敗に関係するのは当然競技場の広さであり、氷の厚さ自身は直接影響を与えるものではないからです。 水1 cm3の重さは1gですから、これが水の体積であれば約88トンです。しかし水は氷になると体積が9%増えていますから、実際に水の量で換算しますと88÷1.09 ≒ 80トン、つまりリンクの氷の重さは80トンと出ます。ちなみに氷の厚さが7cmならば、約110トン、4cmなら約65トン。 公式戦で許される最小リンクとして、縦の長さ56m、横の幅26m及び 最薄の氷の厚さ4cmでやってみますと、四隅外側を除いた面積は (5600cm x 2600cm)−621350 cm2 = 13938650cm2。氷の厚さ4cmを掛けて55,754,600cm3になります。上記同様、氷の比重を考慮して56÷1.09 ≒ 50トン。 リンクの大きさなど、皆さんの感覚はいかがでしたか。この設問の背景には、実際とは大きく感覚がずれてきてしまわないよう、日常、物事を注意深くみているかどうか、ということとともに、実は氷の厚さのところで本人の安全意識とコスト経済意識がどの程度のものか、その反映を面接の過程で見ようとしているものです。 |
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それでは次の設問を考えてください。 |
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余裕のある方は、次の設問をどうぞ。 |
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さて、スケートの題材が出てきたこの機会に2、3付け加えておきます。 1.違う分野のスケート靴を履くと、選手も転んでしまう。 これはテレビでの実験ですが、フィギャスケートの女性選手にスピードスケートの靴を履かせて、初めてすべらすとたちまち転んでしまうのです。フィギャスケートの靴はコンパクトにできていて、しかも刃に厚みがあって安定
しばらく試みたあとでこの両者とも、なんとかすべることができるようにはなったものの、その様子はぎこちなく、まったくの初心者でした。 また、この番組でアイスホッケーの選手は出ていませんでしたが、初めてフィギャスケートの靴を履けば同様の光景を展開するであろうことは、容易に想像できました。
2.フィギャスケートの選手は高速スピン回転をしても目が回らないのはなぜか。 彼女らがスピン回転のあとでも平然としていられるのは、訓練の賜物だということです。 また、スケートリンクは左回りの設計になっているため、スピンもジャンプも左回転の選手が圧倒的に多いそうです。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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