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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その37:行き詰ったら発想の転換を
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 緊張する面接試験の会場で、突然、「鏡が上下でなく左右を逆転させるのはなぜか」などと断定的な形で質問されれば、事前によほどそれに近い疑問を持ったことや、あるいはまた鏡が物を映し出す原理なり実態なりについて深く考えたことなどがないかぎり、その質問自体の誤りを指摘したり、あるいは反論したりすることは難しいものと思われます。
 このような状況を前提に、応募者が面接官を納得させるような明快な説明ができるかどうか、そのあたりを見ようというのが前回設問36の背景でした。

 その解説で敢えて意図的に説明を控えたところがあります。それは皆さんの先を読んだり先を考えたりする地頭力が、どのように働き、どのように結論づけられたかを、時間を置いて振り返っていただきたかったからです。
 前回の解説では盲点という具体的な例をあげながら「このようなことは、脳が気を利かすために起こる錯覚で、左右が著しく非対称な文字などではあり得ないことが、ほとんど左右対称に見える体を持つ人間になると、しかもそれが動いているとなると、あたかも鏡の奥にその人の実像があるがごとく、脳が気を利かしてフライイングを犯してしまうもので、それは不自然に見えるようなところや欠けているところを一生懸命に補正し、正しく理解しようと努力している脳のなせる技だ」として、それ以上踏み込んだ説明のないまま、そこで終えています。

 そこまでの解説だけで地頭力が働いた方は、その説明を頭の中で整理され、もう一歩進んだ次のような形で理解されたか、あるいはまた、正解に至るまでの説明に何かもう少し不足しているものがあるのでないかと感じられたか、そのどちらかだと思います。
 その説明を控えたところというのは、「左右は反転しているように見えるのに、なぜ上下は反転しているように見えないのか」の詳細です。

 

 では、鏡に映っている自分の姿の捉え方というキーポイントを図にして説明したいと思います。実は脳には常日頃の習慣がそのベースに刷り込まれています。そのため自分の鏡像の見方は、図Aのように自分が水平に地面に沿って横から鏡の向こう裏側に回り込み、こちらを見ている姿という形で捉えるのです。
 つまりその鏡像として点線人物図のような旗の持ち方を想定するわけです。ところが実際の鏡像は、実線人物図のように映っているため、あたかも左手で旗を持っているように感じてしまうわけです。
 脳が、決して垂直方向から回り込む発想をしないのは、人間が日常地面に立っているという固定観念に基づいているからで、もしも脳が垂直方向、つまり上または下から鏡の向こう裏側に回り込んだ姿を発想するならば、それは図Bの点線人物図のようになり、このような発想の場合、今度は実際の鏡像を見て、それは上下逆転している、と感ずることになるわけです。

 いずれにしましても、左右が逆転しているように見える錯覚は脳が気を利かすために起こるものであり、あくまでも実際に鏡によって起こされる逆転というのは、前回、説明しましたように上下左右ではなく、鏡に向っての前後だけということです。

 では次の設問37の解説に移ります。


問題 設問37 正面に2つの扉があり、一方は面接室で、もう一方は出口になっている。
扉の脇に相談をできる人がいるが、この人は当社の人間か、競合会社の人かわからない。当社の者なら必ず本当のことを言うが、他社の人なら必ず嘘を言う。
どちらが面接室に向う扉かを判断するために、この相談役に、1回だけ質問してもかまわない。何と尋ねればいいか。

 

 この設問を見て、ああ、以前どこかでこれと似た問題を見た、あるいは聞いたことがあるな、と思われる方も多いかもしれませんが、そんな方たちも含めて、ただ単にあれこれやってみるのではなく、まず、その解答に至る突破口、糸口は何かを考えてみたかどうか、それを念頭に以下見てください。

 設問の中には載っていませんが、尋ねる質問に対して相談された人の返事は、本当のことを言う、あるいは嘘を言うということですが、その返事が長い文章の返事であろうがなかろうが、結果的には肯定的な「はい、そうです」か、または「いいえ、違います」という回答に集約されますので、最終的に尋ねたことに対して「はい」「いいえ」だけの簡単な2つの返事が返ってくるものとして先に進みます。

 この問題を複雑にしているものは何かといえば、表1を見ていただくとわかるように、質問の対象となるものが2つ(面接室と出口)で、また質問に答える人も2人(当社の人、他社の人)、その上さらに返事にも2通りあり(はい、いいえ)、真実のことを答える人か嘘を言う人なのか見分けがつかぬ中で、そのどちらかの人にたった1つの質問を1回するだけで、面接室を当てなければならないということです。

 このような条件の中で、たった1つの質問でどうやって見分けをつけることができるのか。たとえば、この表にある1つの質問で、1回尋ねてみても、尋ねられた2人の相談役は「はい」か、または「いいえ」の返事を返すだけですから、実際、相談役が真実のことを言う人か嘘を言う人か、質問するときにあらかじめどちらの人なのかわかっていない以上、対象を絞ることはできません。しかし、この表はあくまでも出発点として必要な原点です。

 さて、 ビルゲイツはいつも「よ〜く深く考えよ」と言っていますが、ここでよ〜く考えてみますと、1回尋ねて異なった2つの返事が返ってくる可能性があるが故に、対象の判別ができなくなる・・・ということは、言い換えれば1つの質問で2つの回答、つまり「はい」と「いいえ」の両方があってはならないという、いわゆる発想の転換をしてみることです。そのことによって重要なヒントにつながることが多々あります。
 つまり同じ1つの返事を得ることができるならば、本当のことを言う人の返事もそうなっているはずですから、そこで真実がわかるということです。
 1つの質問で同じ回答となるような質問の仕方という、当初、思いもよらない発想ですが、これが必然的な突破口、糸口になる
ということも、これでおわかりになるかと思います。

 しかし、同じ1つの質問なら、必ず一方は真実に正直な「はい」になり、他方は嘘で「いいえ」になるはずだから、同じ回答になることなどありえない、ということや、また同じ1つの質問で同じ1つの回答だったら、どちらがどちらなのか区別などできるわけがないと、当初考えてしまうのも無理はありません。
 しかしです、何度もこの連載で述べているように、隠れたもの・隠れた条件、つまりそこに気づくための発想の転換ということが非常に重要なわけで、また「よ〜く考えよ」ということなのです。

 そこで念のためもう一度、設問をよ〜く読み直してみますと、「真実の返事」と「嘘の返事」があり、「何と尋ねればいいか」と出ています。そこでこの「何と尋ねればいいか」が暗示するもの・・・「質問をよ〜く工夫しなさい。そういう発想の転換をする人であれば、同じ1つの質問で同じ1つの回答が得られるようになりますよ」と、教えてくれているようなものだと、ハッと気がつくのではないでしょうか。
 そうです、嘘の嘘は2つの逆が打ち消し合って真実になり、この嘘を言う人の返事・「嘘の嘘=真実の返事」が、常に本当のことを言う人の返事・「真実の返事」と同じになるということ、つまり、この質問方法でもってすれば、前述のように真実のことがどちらの人に聞いてもわかるということです。

 したがって嘘を言う人が2度の嘘をつかなければならないような質問内容にすればいいわけです。それにはその質問構成を二重にして、前半で一度嘘1をつかせ、後半でその嘘1を打ち消すような、つまり嘘2をつかせるように仕向ければいいことになります。それには後半の質問として「嘘1の内容は正しいか」のような形にして尋ねることです。
 嘘1 は嘘ですから、それが「正しいか」と尋ねられれば「いいえ、正しくない」というのが正答ですが、ここでまた嘘2をつくので、「はい、正しい」という答えになって返ってくることになります。

 こうしますと、前半の内容が「真」であれば、嘘を言う人の最終返答は「はい」になり、もちろん本当のことを言う人の最終返答も「はい」になります。また、前半の内容が「偽」であれば、嘘を言う人の最終返答は「いいえ」になり、もちろん本当のことを言う人の最終返答も「いいえ」になることもわかると思います。

 1つ具体的な質問でやってみます。
 面接室の扉を指し、“あなたは「この扉が面接室入口か」と訊かれたら、「はい、そうです」と答えますか?”と尋ねたとします。
 当社の人は、常に本当のことを答えますから、最終返答は「はい、そうです」になります。
また他社の人ならば、前半の「この扉が面接室入口か」と訊かれれば、嘘1として「いいえ」と答えることになるのですが、そこで後半、その答えに対して「はい、そうですと答えますか」と、それが正しいかどうか尋ねられれば「いいえ、正しくない」というのが正答であるところを、ここでまた嘘2をつきますので、「はい、そうです」との最終返答になり、いずれの場合もそれが、実際の面接室の扉であることがわかります。

 では、出口の扉を指して同じ質問をしたとします。当社の人の最終返答は「いいえ」ですが、他社の人は前半の「この扉が面接室入口か」で「はい、そうです」と嘘1をつき、後半で「はい、そうですと答えますか」と、それが正しいかどうか尋ねられれば「はい、正しい」というのが正答ですが、ここでまた嘘2をつきますので、「いいえ、違います」との最終返答になります。したがって、当社の人も他社の人も、その扉は面接室のものではなく、出口の扉であることがわかります。このことは、前半の質問を出口としても、同様に真の扉がわかるということです。

 これらのことから、指さす扉はどちらでもいいこともわかりますので、どちらかの扉を指さして、“あなたは・・・と答えますか”と尋ねるだけでよいわけです。そして前半の質問の「この扉が面接室入口か」を「この扉は出口か」に代えても、また後半の部分の「はい、そうですと答えますか」を「いいえ、違いますと答えますか」に代えても、同様にして結果は真の扉が判明するということです。

 さて、当設問の背景は何でしょうか。もちろん論理思考が一番のベースにありますが、発想の転換ができるかどうか、またそのスピードはどうか、という点もまた見ようという狙いも、重要な1つの背景としてあるということです。

 それでは正解です。上に見たように、正解の質問を構成する中身のコンポーネントは4つありますが、ここではそのうちの1つを挙げておきます。


正解 正解37 “あなたは「この扉が面接室入口か」と訊かれたら、「はい、そうです」と答えますか?”と尋ねる。 扉の脇にいる人が、当社の人であれ他社の人であれ、その返事が「はい、そうです」ならば、それが面接室。「いいえ」ならば出口。

 それでは、この問題の延長として、次の問題をやってみてください。

問題 設問38 道が二手に分かれている。片方は天国へ、他方は地獄に通じている。
分岐点にはチャーチルとヒトラーとスターリンがいて、見掛け上誰が誰だか3人の区別はつかない。 チャーチルは常に本当のことを言うが、ヒトラーは常に嘘をつく。スターリンは、本当のことを言うこともあれば嘘をつくこともある。 質問は2回まで許される。天国への道を見つけよ。



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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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