その38:行き詰ったら発想の転換を(その2) |
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物理学、化学、生理学/医学、文学、平和、経済学の6つの分野からなるノーベル賞をこれまで受賞した日本人は、1949年の湯川秀樹博士以来、60年の間に12人ですが、本年の2008年だけでその3分の1に当たる4人もの人が選ばれたことは、これまでにないまことに喜ばしいことで、中でも物理学、化学、生理/医学の3部門における受賞は科学分野における最大級の栄誉といわれ、4人全員がこの中に入っていることは、特出すべき快挙といえます。 西欧に比べて満足のいく実験設備もなく、紙と鉛筆だけで勝負するしかなかった貧しかった日本。そんな中での湯川博士の中間子存在の予言による受賞を出発点として、物理学では朝永振一郎氏や実験分野も加えた江崎玲於奈氏、小柴昌俊氏らに続く今回の3人の受賞で、特に理論物理学分野は日本のお家芸のような伝統ができあがりつつあるように思われます。 理論物理学分野のすべての成果は、深い洞察と緻密な論理思考に基づくものです。当連載には、この論理思考を求める問題が多々ありますが、今回の設問もその1つに入ります。 それでは今号の解説に移ります。 |
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政治家には戦略的策略的なところがついてまわりますから、ときとして嘘もまた必要になるでしょうが、第二次世界大戦での経緯を辿ると、この「常に本当のことを言う、常に嘘をつく、本当のことを言うこともあれば嘘をつくこともある」は、チャーチル、ヒトラー、スターリンそれぞれの言動をかなりうまく言い当てているのではないかと思われます。 さて、今度の設問はビル・ゲイツの出した問題ではありません。30年以上も前の出典がわからないほど、かなり以前にあったものですが、その難易度といい、論理思考を必要とするその極意性といい、マイクロソフトやグーグルが今日の試験に思わず出題したくなるような内容ではないかと思われます。もしも、前回の設問37の問題を知らずに、この設問38をいきなり解けと言われたら、おそらく多くの人たちは解けないのではないでしょうか。 すべての設問で重要なのは、そのとっかかりの糸口をどう見つけるかなのですが、特にこのような問題では、ただやみくもにやっても時間ばかり浪費するだけです。 たとえば前問37の面接室を当てる設問の場合は、ビル・ゲイツが常に言っている「よ〜く深く考えよ」というところから、設問の「何と尋ねればいいか」という、そこにヒントを見出し、「1回尋ねて異なった2つの返事が返ってくる可能性があるが故に、対象の判別ができなくなる…ということは、言い換えれば1つの質問で2つの回答、つまり「はい」と「いいえ」の両方があってはならないという、いわゆる発想の転換をしてみる」ことが、解答への突破口でした。 では、今回の設問の糸口はどこにあるのか。まず、この設問を掲載する前稿を見ていただければわかりますが、「それでは、この問題の延長として、次の問題をやってみてください」とのコメントです。つまり「前問を大いに参考にして、解いてください」というヒントがここにあるということです。すなわち前問の質問構成が基本的なベースになるということを、暗にほのめかしています。 いや、前問とはまったく違う、前問では真実を言う人か、嘘を言う人かが、目の前にたったの1人いるだけだったのに対し、今度はそれに加えて真実も嘘も両方を言う人がさらに1人増えて合計3人もいる。複雑極まりない。との反論を受けるかもしれません。しかし、視点を凝らして見れば、同じ構成要素があるということなのです。 つまり、前問の面接室と出口への扉が、今回は天国と地獄への道に、とその対象が変わっただけで、本質的に何も変わっていませんし、また真実を言う人と嘘を言う人がいるところも変わっていません。ということは、真実も嘘も両方を言う人、つまり具体的に言えば、もしもこの場合、スターリンを除いてしまえば、前問と同じ内容の質問の仕方によってよって天国への道がわかるということです。 そこでまた地頭力の働く人であれば、この残された1回の質問、つまりこの場合、一番最初にスターリンを見分ける質問をするとして、この基本ベースの質問を利用できるのではないだろうかとの考えに至ると思います。 では、この基本パターンの質問でスターリンをどうやって特定するかですが、これまでと違うところは、スターリンはそのときによって回答がくるくると変わる、とんでもなくやっかいな、いわゆるデタラメ人間だということです。 では、この基本パターンの質問が利かない以上、どんな質問だったら特定できるか。そこで、これまで掲載されている特定ということに関連したいくつかの設問の中で参考にできるようなものがないか、とそれらを振り返ってみますと、設問その6のオン・オフ2つの情報量だけで3つの部屋のスイッチを特定する課題や、設問その8の赤ラベル箱、白ラベル箱、混合ラベル箱の3つの箱を赤白2つの情報だけで特定する課題がありました。 これまでも再三述べてきていますように、隠れたもの・隠れた条件、つまりそこに気づくことが非常に重要なのですが、今回のスターリンの特定となりますと、ここで見た2つの設問の持つ内容とは少々趣が違っているようです。 ビル・ゲイツがパズルを面接試験に出している背景は、競争の激しいソフトウエア会社にとって頭脳の労働力こそが最大の資産であるということから、日常突発するどんな難問・難題に遭遇しても、発想や論理的思考に優れた頭脳であきらめず常にハングリーでねばり強くそれに取り組んでいく気力・実行力・行動力のある人を求めることにありました。 当設問はデタラメなスターリンの存在が問題をややこしくしている元凶です。だから、そこにデタラメがいてもわかるような方法があるのではないか、ひいてはこの1人のデタラメを逆に利用できないか、という思いもよらない発想の転換です。つまり、チャーチルとヒトラーの答だけで正解がわかるような方法があれば、デタラメな何でもありの回答だからこそ、つまりどちらの回答になったとしても共通に利用できるようになるのではないか、という発想です。視点を変えれば、スターリンを「ないがしろにして無視する」といった発想です。 具体的にやったほうがわかりやすいので、ここにきてはじめて詳細に入り、それぞれ人物の組合せを変えたケースではどうなるか、まずは尋ね先のあなたに当たる人を焦点であるチャーチルまたはヒトラーにして、指さし先の○○○をいろいろ変えてやってみることにします。 まず指さし先の○○○をヒトラーにして、チャーチルに「あなたはこの人がスターリンかと訊かれたら、はい、そうですと答えますか?」と訊いた場合、また一方、指さし先の○○○をチャーチルにして同じ質問をヒトラーに投げかけた場合、どちらも「いいえ」の回答が返ってきます。これらのケースでは指さされた2人はデタラメのスターリンではないことから、2回目の質問にはいずれのケースもこの指さされた2人、つまりチャーチルかヒトラーに「あなたはこちらの道が天国への道かと訊かれたら、はい、そうですと答えますか?」と訊けば、その返事により正しい天国へ道がわかることになります。 これらのことから重要なことがわかります。指さし先の○○○がチャーチルかヒトラーのとき、焦点の2人の回答が「いいえ」であるかぎり、2回目の質問は常に指さされた人にすればよく、また指さし先の○○○がスターリンのとき、焦点の2人の回答が「はい、そうです」であるかぎり、2回目の質問は指をさされなかった残っている1人にすればいいということがわかります。下図参照。 ではこのことがなぜ重要なのか。そこでもしも尋ね先のあなたに当たる人が、前出の2人ではなくスターリンであった場合にはどうなるかをやってみれば、それがわかります。スターリンの回答が、「いいえ」であれ「はい、そうです」であれ、無視していいのです。というのもそこで指さされる人、指さされない人は、共に残るチャーチルかヒトラーですから、2回目の質問をこのどちらの人間に訊いても、正しい答が返ってくるからです。 ここまでくれば、前述した「これらの回答パターンを共通に使える」ということが、もうおわかりになると思います。そうです。最初の質問を3人の中の誰にしたとしても、またそのとき指さされる人が誰になっても、「いいえ」の返事ならば、2回目の質問を指さされた人に、一方、もしも「はい、そうです」ならば、指さされなかった残りの人に、2回目の質問をすればいいことになります。上図の質問者3人の全ケースで○が付いているところを整理したのが表1で、そのことがよくわかるはずです。 この設問はビル・ゲイツの出したものではありませんが、やはりこれまでの設問同様、解く人にチャレンジ精神や深く考えながら解きほぐしていく力、徹底した論理思考による問題解決力、つまり地頭力、そして発想の転換も含め、どこまでもあきらめないねばり強い資質などがあるかどうかを見ることができます。 |
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では、次の設問はどうでしょうか。やはり、出題の背景を考えながら解いてみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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