その39:「なぜ」と考える普段の力 |
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この欄の読者の皆さんには、バリバリのビジネスマンをはじめ、職種も多方面にわたり産業界から教育関係、そして一般の社会人の方たちまでおられるようで、走り書き程度でもいいから設問自身の分野だけに限らず、当欄その31の「今風の地頭とは」の解説にあるような心の知能指数・EQなどのほか、一般にも役立つ内容の話があれば、もっと知りたいという要望が十数件寄せられております。
直接寄せられている声がこれだけあるということは、潜在件数もかなりあるやとも考えられることから、前2回の設問37、38に載せたタイトル「行き詰ったら発想の転換を」に関連して、今回、「考え方の転換」という観点から人生上お役に立つと思われる稲盛和夫氏の「生き様」を、氏の言葉も交えながらご紹介したいと思います。 「松下幸之助氏は21歳までに両親と7人の兄・姉のすべてを病気で失っていて、実業界への出発点は、親類がない、金もない、学歴もない、おまけに病弱という状態で、ゼロからの出発というよりも、むしろ大きなハンディを負ってのマイナスからのスタートという、もともと弱点だらけの人だった」とは、幸之助氏の傍らで働いてきた松下電工元会長の故・丹羽正治氏の言葉ですが、稲盛氏の少年・青年時代は、これでもかと襲う不遇の時代でした。 まずは小学校6年のときで、その担任の「裕福な家への、えこひいき家庭訪問」を端に発し、日頃、先生の不公平をよしと思っていなかったグループを率いていた稲盛少年は担任からにらまれます。 しかし自分より成績の悪かった悪童たちが全員合格しているのに内心憤慨し、一層の勉学をして翌年、再度の挑戦をします。ところが、その準備万端整った受験日寸前に発熱してしまうのです。肺せんカタルという結核の前兆です。無理を押して高熱でもうろうとした頭のままでの受験は、当然、2度目の失敗をもたらします。 “高校生活も残り1年だという頃、新校舎の増築で、生徒のモッコ担ぎ作業に、私も駆り出された。経済上の理由で、どうなるかわからなかったが、その頃私は一応大学受験にそなえ勉強をはじめているさなかだったので、「面倒」だと思いながらも出ていった。 この頃から、「なんで自分だけが・・・」の思いが、頭をもたげ始めるのです。そして大学受験の時期。自分も患った同じ結核で二人の叔父を亡くしている氏は、いい薬を開発して難病に苦しむ患者達を治したいという夢から、薬学部を希望、大阪大学の医学部を受験します。が、またもや失敗。 “タイミングの悪さ。大学入学頃は、朝鮮動乱による特需景気のまっただ中だったが、4年後好景気も去り、私の就職はたいへん厳しい時代に遭遇してしまった。さらに当時は学校指定があり、私が卒業した地方の大学は、採用枠にも入れてもらえなかった。
もし私が本当に仁侠の世界に身を投じていたなら、私本来の負けん気の強さから、今ごろ恐らく九州ではちょっとは名の売れた任侠一家をつくっていたと思う”と。 2度にわたる中学校受験の失敗や高校での出来事に加え、志望大学、そしてタイミングの悪さも重なった志望企業と、すべてが失敗で、ヤクザ入りまで考えた氏には、ますます「なんで自分だけが・・・」の思いが加速していきます。 それでは今号の設問の解説に移ります。 |
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論理思考、いわゆる解いていく過程で、数学やあるいは物理学などが核となるような設問をこれまで多く見てきましたが、この設問39は少々それらとは趣きを異にしているもので、強いて言えばその過程というよりも設計やデザインという観点から数学なり物理学なりの視点を問うものです。 その見出しのタイトルは「どんなものにも理由がある」でしたが、そのコラムを読まれた方たちの中には、普段、何の疑問もいだかないで見過ごしていたマンホールの蓋について、「なるほど」とうなづかれた方たちも多かったのではないかと思います。 今となってはこの設問の内容を知り、またそこに載っているビール缶の写真までご覧になってしまった皆さんですが、まずはビール缶についてこれまで、どの程度認識されていたか、もしもあなたがこの設問のことを知る前に「日常、目にするビール缶の形をここに描いてみてください」と問われたとしたら、どんな缶を思い描いたと思いますか。 日頃アルコール類などとは縁がなく、また果汁や野菜ジュース派、あるいはコーヒー党やお茶派の方たち、ならびに、缶として昔なじみの缶詰などにそのイメージが強く残っている年配の方たちは、上から下まで円筒形の図を描くというケースが多いのではないかと思われます。 それは、強度とコストに関係しているということです。昔のビール缶は、縦断面がほぼ長方形、つまり円筒形で、その中に圧力をかけて炭酸を閉じ込めておくため、相当厚みのある頑丈なスチールでできていました。 そして近年になって、そのコスト削減や環境問題がさらに強く意識されるようになり、従来のスチール製を薄くて軽いアルミ製の缶に変えることが検討されるに至ったのです。 この薄くて軽いという大きなメリットのあるアルミ缶ですが、当然、強度という観点からは頑丈なスチール缶に劣ります。そこでアルミ缶には何か仕掛けが必要になったのです。 そこでヒントをくれたのが卵でした。コロンブスの卵ではありませんが、上下に加わる力に対して、薄い殻の卵でも縦にしたときの強度は抜群に強いことから、あの形をヒントに考えたのです。もちろん卵型そのままでは、何層にも積めなくなってしまいますから、何らかの工夫、解決策が必要でした。 では、なぜそうなのか、もう少し詳しく見てみます。 こうして上部をすぼめた缶ができあがりますが、このような缶を倉庫や運搬時に何層にも積み上げることができるよう、今度は缶の底もすぼめて、すでにすぼまっている上部にすっぽりと低部が収まるようにしたわけです。実際のビール缶で試していただければ、隙間なく上下がしっかりと収まるそのぴったり感を実感していただけると思います。(下の写真参照) 余談になりますが、あの薄いコピー用紙を十数枚円筒形にして丸め、それらを縦にして並べたその上に板を敷き、その上に人間が乗ったとしてもつぶれません。それくらい円筒形だけでも上下方向の圧力には強いのですが、卵型を模して上下にすぼみを入れ、さらに波打ちデザインまでを入れたビール缶は、上下方向の力に対してたいへん強いことがわかります。 また、実際に飲むときを考えていただければわかりますが、もしもビール缶が円筒形そのものであったなら、蓋と側面とが直角になっている淵のところに歯をガツンとぶつけてしまう恐れがありますが、人間工学上の配慮としてこのようなすぼみを作っておけばそのような恐れも回避できるということです。 では、底面が中側に少しへこんでいるのはなぜなのでしょうか。 さて、「つまみ」を引っ張って開けたときの飲み口が、ほとんど同じサイズに統一されているのはなぜなのでしょうか。 ビールの入っているびんや缶を激しく振った後で、その栓を抜くと中から液が勢いよく噴出してきますが、たとえば長い道のりをトラックの中で揺られながら運ばれている途中、その振動のために、いっせいにビール缶の「つまみ」のところが裂けるようなことになれば、爆発現象が起こります。 「つまみ」を引っ張って開口する切れ込みの部分、つまりそこの切断線のことをスコアと言うそうですが、開口部である飲み口の穴を小さくすればするほどその切断線の長さも短くなって、それだけ裂ける確率も少なくなります。
ビールメーカーは、ゴクンと飲んだときに口の中で受ける一番うまいと感じる多くの人の感性データを取っていて、このデータおよび酸化をしないほどよい開口部の大きさ、そして衝撃や振動から守る力学的に裂けにくい切断線の長さ、これら3者の合意点として今の飲み口のサイズに至ったということです。ビールメーカーによってほんの少しの製缶仕様に違いはあるようですが、開口部、つまり穴の面積は350〜380mm2ということです。
では、正解です。 |
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それでは、次のビル・ゲイツの問題をやってみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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