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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その55 行き詰ったら、出題意図を考えてみる
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 前問では、これまでの設問内容とはまったく異分野で毛色の違った税務に関する問題でしたが、そのベースには「Bがわかれば、Aがわかる」式のフェルミ推定も必要とされる、あくまでも論理的な思考が求められる問題でした。

 さて、今号の問題はどうでしょうか。それでは次の設問の解説に移ります。

問題 設問55 1000ページの電話帳で、ある特定の名前を見つけるには、平均して何回ページを開かねばならないか。

電話

 電話帳? ある程度の年配の方たちならこの言葉を聞いて、アイウエオ順に個人名が羅列してあるあのぶ厚い電話帳(例えば東京都版なら15cmほど)を思い出されたことと思いますが、携帯電話時代の今日、ごく若い世代ではそんなものを見たこともない人が多くなっているものと思います。
 簡便な104番の電話番号サービスもあれば、インターネットもあって、手軽に調べられます。
 以前なら固定電話加入の全家庭に配布されていた電話帳も、個人情報保護法施行により希望する家庭にしか届けられず、年配者といえどもその利用からは疎遠になってきているものと思います。

携帯電話

 ちなみに日本の2009年12月末時点における携帯電話契約数(除PHS)は、1億1062万件、人口普及率は86.7%で、この契約数は2008年10月の年齢別人口から単純に計算すると、11歳から81歳までのすべての人が1人1台の携帯を持っていることになります。
 しかしこの中の若年層や老年層のすべてが携帯を持っているとは限らないので、その中間層が1人で複数個を持っていることになります。
 このような状況下で、携帯もインターネットも、あるいは電話番号サービスも利用しないで、電話帳を使おうという人はごく限られてしまうわけです。

携帯電話契約数
携帯電話契約数(各年末)

 こんな状況下ではあるのですが、その個人別電話帳を頭に思い浮かべながらこの設問を見た方は、その瞬間、多分3つのグループに分かれたのではないでしょうか。
 1つは、どうしてこんなに簡単な問題をビル・ゲイツが出すのか? との印象を持たれたグループ。1つは、いや、そんなのわからないのではないか、としたグループ。そして最後は、ビル・ゲイツの出した問題なので、それなりの何らか解答があるはずだ、としたグループです。

 1000ページの電話帳なら見開きのページ数だけ、つまり半分の500回を順に開いていけば確実に特定の名前を見つけ出すことができますが、もちろんそのような解答を彼が望んでいるわけはありません。
 ビル・ゲイツがこれまでに出した問題で、特定のものを探し出すにはどうするか、といった設問を探していきますと、それは設問30にありました。尋ねたり手伝ったりしてくれたりする司書もいなく、その分類方式もわからない初めて行く大きな図書館で特定の本を探し出すには? という問題でした。
 そのときの解答は、まず最初に図書館の一方の端、およびもう一方の端までの中間点の2ヵ所で、それらの区画にある本をサンプリングし、そこでその図書館の図書配列ルールを調べ、順次、探索範囲を狭めていく、というやり方でした。

電話帳

 しかし今度は電話帳という、すでにその配列ルールがアルファベット順あるいはアイウエオ順とはっきりわかっている中での探索ですから、それよりもはるかに簡単なはずです。一番オーソドックスなやり方は二分探索、つまり探す範囲を配列ルールにしたがって半分ずつに分けてそれを繰り返していく方法です。
 最初の半分は500ページ目を開き、その次には特定の名前が含まれるほうの500ページの中でその半分の250ページ目を開き、・・・という具合に狭めていく方法です。
 これでいきますと、2n≧500となるnですから、9回開けば確実に特定の名前が載っている見開きページにたどり着けます。
 これが1番目のグループがひらめいたと思われる解答です。

 しかしこのやり方だといくつかの難点があります。たしかに電話帳にはページがふってありますから、その分ずつページを計算して順次開いていくことはできますが、その計算したページを毎回1回でピタリと当てて開くことなど、とてもできない技です。そのページ番号をチェックするために、開いていく時点で毎回、その近辺のページも開くことになりますから、とても9回では済まなくなりますし、その回数も不定です。  
 またその途中の9回以内で、特定の名前が載っているページにドンぴたりと当る場合もあります。

 さらにまたちょうど2分の1ずつという方法ではなく、特定の名前が載っていそうなページのところに当りをつけて、3分の1とか4分の1とかの割合でぐっと範囲を狭めた開き方をすれば、もっと効率よく求めるページにたどり着けるかもしれません。がしかし、特定の名前といっても同じ頭文字で始まる名前が数十ページに亘るものもあれば、1ページで収まっているものもありますから、狭めていったとしても求める名前によってもその回数に違いが出てきます。
 いずれにしろ特定の名前のあるページにたどり着くまでの開く回数ともなれば、バラバラに違ったものとなり、一定の解答などとはほど遠いことになってしまいます。
 これが、2番目のグループです。

 では、3番目のグループはどうか。ビル・ゲイツがそんな簡単な、あるいはあいまいで解答のないような問題を出すはずがないということで設問をよくみますと、「平均して何回ページを開かねばならないか」となっています。
 この「平均して」の意味をよく考えますと、バラバラになるのは当初から想定して、平均するとどうなるか、というふうに解釈してこの設問を考えるグループです。
 しかしこのグループといえども、それがバラバラである以上、その平均などというものが果たしてあるのかと、疑問だけが湧いてきたのではないでしょうか。
 このバラバラの事実は変えられません。そこに平均の回数などあり得ない、この設問はその思考過程を見ようとしているのではないかと、しばしウ〜ンとうなるだけです。

 そこで頭を切り替えてみます。思考過程を見ようというのであれば、前述の分割案は誰にでも思いつくあまりにも単純な思考です。いつも「よ〜く考えよ」と言っているビル・ゲイツのことです。この際このバラバラをいっそランダムに、つまり無作為にページを開いていった場合にはどうなるかと、彼を満足させるような一番難しいと思われる設定で問題を考えてみるのはどうかという発想です。

 といっても無作為である以上、1回で当ることもあれば何万、何千万回やっても当らない場合だってありますから、100%当るまでの平均回数とは?、とあれこれ考えてみてもいい解答となるような妙案が浮かんできそうにはありません。
 バラバラの平均?、100%の確率で当る平均回数?、平均と確率・・・と考えてきたとき、発想の転換です。つまり「無作為に電話帳を開いたときに、ある一定の信頼度で少なくとも1回、求めるページに当る」という確率で平均を出すというやり方です。

トランプ

 ここで思い出されるのは、設問47でやったトランプの確率計算です。52枚あるカードの中から、無作為に順次5枚のカードを抜き取り、その中にハートの「エース」かクラブの「エース」があれば賞金がもらえる、という問題でした。
 そこでは使ったのは「余事象」、つまり、該当するもの以外の確率のほうを簡単に出すことができれば、1からその確率を引くことにより、該当するものの確率も簡単に出せる、というものです。

ハートの「エース」かクラブの「エース」

 この余事象を考えてみますと、求めるページで第1回目にはずれる確率は499/500、2回目もはずれる確率は499/500 x 499/500、3回目は499/500 x 499/500 x 499/500、・・・、n回目は(499/500)n。したがってn回目に求めるページに当る確率は 1−(499/500)n
そこで100%の確率で当る回数は 1−(499/500)n が1になるnですから、それは∞無限大です。
しかし∞という解答は、解答らしき解答ではなく、どうもすっきりしません。そこで平均という点に注目してみますと、無作為と言ってもそんなに∞ではないのです。

 ちなみにExcelを使って計算しますと、n=3000で99.8%、n=4000で99.97%、n=5000で99.996%、n=10000で99.9999998%。そこで5000回開けば、もはや100%と言ってもいいでしょう。
 前述のように、この答は1000ページの配列ルールも何もないデタラメに名前が載っている電話帳を想定した場合と同じ状況下で、無作為に開くときの回数と確率です。それとは違い、発音順に並んでいるような実際の電話帳の場合には、めぼしい辺りに狙いをつけて開いていけばいい分だけ、はるかに少ない回数で求めるページにたどり着けます。しかし、その場合でも名前のばらつきに加え、探索方法次第で当る回数はバラバラになり、平均して何回という回数は出ません。

 この出題背景は「思考の仕方」を見ようとするものと思われ、実際の面接試験ではExcelなどを使って計算することはできませんので、あくまで上記のような確率の考え方を説明し、式などを提示すれば充分ではないでしょうか。

 3番目のグループに属した方たちは、どのように考え、またどこまで詰められたかわかりませんが、それでは1つのサンプル解答です。



正解 正解55 サンプル解答
特定の名前といっても、同じ頭文字で始まる名前が数十ページに亘るものもあれば、1ページ内に収まっているものもあり、また同じ分割探索でも、その都度開く回数に違いが出てくる。したがって平均して開かねばならない定まった回数というものは一概に求められないが、無作為に開いていくときの回数を平均確率で出せば、1−(499/500)nの値がn回開いたときの確率になる。

 それでは、次のビル・ゲイツ出題の問題を考えてみてください。
 自分で創立したアップル社を一度追い出されたにもかかわらず、12年後、またCEOとして復帰、それ以来スティーブ・ジョブズは、iPodやiPhoneなど次々とヒット製品を世に送り出していますが、電子書籍端末としても使える今度の新製品iPadは、この4月3日アメリカで発売した途端、爆発的に売れはじめ、日本での出荷が予定より1ヶ月も遅延を余儀なくされました。斬新で時代にマッチしたアイデア製品は、いつも市場を熱狂させます。
 これまでもいくつかの設計問題がありましたが、次の設問56であなたの考える斬新なアイデアがあればrensai@arp-nt.co.jpまでにお寄せください。まだどこにも発表されたり、考えられていないようなあなたのアイデアで、そのユニークさや利点などを詳しく書いたものを2010年5月5日までに送っていただき、次号の本連載に掲載させていただいた分には、サイン入りの拙著「成功者の地頭力パズル(日経BP社)」を贈呈いたします。もしも同じアイデア類のものの場合には、抽選で1名様にさせていただきますが、奮ってお寄せください。


問題 設問56 コンピューター制御の電子レンジを設計するとすれば、どうしますか。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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