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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その56 日常、目にするものの特長や難点を理解しておく
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 1000ページもある電話帳をでたらめに開いて、その中にある特定の名前を見い出せる確率は、3000回開いて99.8%、4000回で99.97%、5000回で99.996%であることを前問で見ましたが、でたらめということを考えれば、以外に少ないという印象を持たれた方もおられたのではないでしょうか。
 確率という分野を探検していくと、いろいろ面白いことがわかるというよい例かもしれません。

 さて、今号の問題はどうでしょうか。皆さんのアイデアを公募いたしましたが、〆切り期日に余裕がなかったためか、投稿らしきものがありませんでしたので、次にこちらで考えた解説に移ります。

問題 設問56 コンピューター制御の電子レンジを設計するとすれば、どうしますか。

電子レンジ

 ビル・ゲイツの面接試験の設問には、論理思考を見る問題とともに設計の問題がよく出題されます。これまでにも、設問24の「ビル・ゲイツの浴室を設計するとしたらどうしますか」をはじめ、設問34の「ブラインドのリモコン装置を設計してください」や設問44の「盲人用のスパイス置きの棚を設計しなさい」などがありました。

 それらの出題背景には、応募者の豊かで斬新な発想力を見ようという意図がそのベースにあるのですが、切り口として機能性や利便性、コストやデザインなどの観点に加え、マイクロソフトのビジネスにも配慮した提案が暗に期待されていました。
 今回はすでにこの設問の中で、はっきりとコンピューターという言葉が出ていますので、その辺のところを充分に意識して取り掛かればいいと思います。

 そこでこのことを考慮しながら、いざ電子レンジの設計という本題に入ろうとしたとき、ハタと気づかされることがあるのではないでしょうか。
  つまり普段、われわれは電子レンジという言葉そのものよりも、それに代わるものとしてよく「チンする」という言葉を使っているように、一部メーカーなどの専門家を除けば、多くの人々の頭の中には、「電子レンジとは食材などを短時間で温めてくれる加熱調理機器」という程度の認識に留まり、よく聞くオーブンとはどう違うのかとか、なぜ電子という言葉がついているのかなどをはじめとして、その温める詳細な原理ということになりますと、もはやお手上げになる方たちが多いのではないかということです。

オーブン

 この電子レンジのこと自体がよくわからないまま、その制御設計を云々することなどはちょっと無理な話なので、そこでまずはその基本的な知識となるものをここで見てみることにします。
 オーブンとは薪や炭で古くからパンなどを焼く手段として発達した、もともとは密閉した蒸し焼き窯のことで、今日ではその熱源がガスであったり、ヒーターによる電気エネルギーであったりすることから、ガスオーブンとか電気オーブンと呼んでいますが、では電子レンジとはどこがどう違うのか。

 この電子レンジという名前は和製英語のようで、正式の英語名はmicrowave ovenです。このレンジ(range)という言葉はイギリスではもはや古語に相当していて、今日ではcookerという語に、そして米国ではstoveという語が普通になっているようですが、microwave ovenというその名のとおり、熱源はヒーターではなく、超短波を利用しているというものです。
 つまりオーブンはガス、電気による直接の熱源を利用して食材を温めているのに対して、電子レンジは熱そのものを当てているわけではなく、マイクロウエーブの超短波で食材の中の分子を振動させ、その分子同士の摩擦により食材の中に熱を起こさせるという仕組みを利用しているものです。

 ノーベル賞を受けた白川英樹氏や田中耕一氏の発明・発見は、長い実験生活の中で触媒を間違えたり、あるいは資料の混合割合を間違えたことからもたらされたものですが、これら身近な例が示すように、世の中には偶然の産物による発明や発見が非常に多く見られます。この電子レンジもまさにその類に入ります。
 その発見は第二次世界大戦末期の1945年、アメリカレーセオン社に勤めるスペンサー氏が軍事用レーダーの開発でマイクロ波の実験の最中に起きた偶然の出来事がもたらしたもので、あるとき、スペンサー氏がポケットに入れていたピーナツチョコレートキャンディだけが溶けていることに気づき、その理由を調べたのです。

 その結果、マイクロ波がチョコレートを溶かしたのだと言うことが判り、それが電子レンジの原理発見だったわけですが、このマイクロ波は水分子だけに反応し、チョコレートの中の水分を溶かしていたということで、さらにコーンで試してみたらポップコーンが出来上がり、また鶏卵でやってみると爆発してしまいました。このことから卵やイカといった殻や膜があるものは破裂する恐れがあり、注意が必要だということがわかります。
  ちなみにこの周波数は食材の中に含まれている水の分子を、毎秒24億5000回も振動させる2450メガヘルツで、FM放送の約30倍、AM放送の約2000倍に相当する電波です。

 したがって電子レンジの特長をあげれば、この強力な電波ゆえに水分を含んでいる食材を短時間で温めたり、あるいは冷凍食品の解凍、さらにはまた根菜類など火の通りづらい食材を効率よく温めることができるというメリットがあります。また食材を乗せるガラスや陶器などの水分を含まない容器には何の変化ももたらさないということなどがあげられます。
  しかしその容器が、ときたま熱くなっていることがあるのは、容器そのものをマイクロ波が温めたわけではなく、温められた食材の熱が伝わって熱くなっているためです。
  ただ銀紙なども含め金属の場合には、その極表層でマイクロ波による「渦電流」が発生して火花が散るため、金属製の容器は使用できない状態です。

 このことから電子レンジは、直接の熱を使わずに食材の内部から加熱できる一方、マイクロ波が当たった部分しか温められず、したがってその照射・吸収にむらがないように、中にターンテーブルを設けたり、あるいはまた食材によってはラップに包んで蒸す方法を取らねばならないことなどが起きてきます。
 この点、直接の熱源を使うガスオーブンや電気オーブンは、食材の中身はジューシーに、外側はまんべんなく加熱してこんがりと焼き上がることから、今日ではこれらオーブンに電子レンジ機能を内臓させ、両者の利点を生かしたオーブンレンジも商品化されています。

 以上、オーブンと比較しながら、電子レンジについて少々詳しく見てきたのは、原理や機能とともにそのメリットや不得手な点を理解した上で設計を考えれば、コンピューター制御による電子レンジの一層効果的な利便性上の付加価値を追求できると考えたからです。
 そこで今度はコンピューターの特長を見てみますと、計算、記憶、条件検索、プログラム、そしてスピードなどがあげられますから、これらコンピューターの特長と電子レンジの利便性との組合せを考えていけばよいと思います。

 そこで、まず最初に日常食している食材のデータベースを作ることです。そのデータベースとは、いろいろ試しながら自分好みにできあがる各食材ごとのマイクロ波最適照射時間とターンテーブルの最適回転速度およびラップで包むかどうかなどの基礎データです。
  ラップで包むというのは、食材をあたためた場合に発生する水蒸気を副次的に利用し、蒸すのに類似した効果が出ることや、水分の蒸発による食材のパサつきを抑えるためです。
  従来の電子レンジでは、冷凍食品なら○○分、温野菜にするなら○○分、生魚なら○○〜○○分などという非常におおざっぱな固定指示時間しかなく、
バーコード
とても自分好みで食材を仕上げるなどというきめ細かな時間指定まではできませんでしたが、このように作成した基礎データを利用すればそれが可能になります。
  すべての食材にはバーコードがついていますので、そのバーコードとこれらのデータを一緒にしたテーブル(表)を作ればいいわけです。

 一旦これらのデータベースとなるテーブルを作ってしまえば、あとはその都度、食材のバーコードを読み取らせて、食材をレンジにセットするだけで、コンピューターは記憶しているデータベースから条件検索後、自動的にレンジに指示を与えてくれることになります。これが一番簡易な方法です。
マイク
  そのとき、ラップで包むかどうかや、食材ミックスでのセットなのか、その他の条件があればそれらも含めた基礎データも、あらかじめこのデータベースに入れておき、この場合は、オプション選択のキーボード番号操作1つでスタートできるようにしておけばよいと思います。
  さらに音声認識機能を付ければ、バーコードを使わなくとも指定するデータベースの番号を読み上げるだけで済むことになります。たまたまバーコードが付いていないような食材の場合には、この方式かキーボード番号操作でいきます。

携帯電話

 また電子レンジは、ガスやヒーターなどの火力をじかに使用しないので、その場に人がいなくとも安全です。したがって先ほど見たように、金属製容器を使わないとか、殻や膜がある食材は置かないとかの注意事項を守っていれば、遠隔からの操作が考えられます。インターネットなどを利用して、前述したようなコンピューター操作を外出先の携帯からできることになり、帰宅したときには、すぐにおいしい食材が仕上がっているというわけです。
  これらの利点となるポイントは、自分好みの温度による食材仕上げが可能であり、何よりも食材の種類がどれだけ多かろうとも、的確簡便に仕上げられるということです。

 この出題背景は、電子レンジの利便性とコンピューター利用がらみの「発想の豊かさ、奇抜さ、斬新さ」を見ようというものですが、上記はその1つのアイデアです。
 回答は千差万別になりますが、提案のどこかにこの「発想の豊かさ、奇抜さ、斬新さ」で光るものがあればパスできるでしょう。

 それではサンプル解答です。



正解 正解56 サンプル解答
上記のように、まずはバーコードを使用した自分好みのマイクロ波最適照射時間とターンテーブルの最適回転速度との関係、およびラップ包みなど、その他のオプションも含めた選択用データベースを作り、あとはバーコード読み取りの自動検索やオプション番号入力でいく。また、音声認識機能を付け、音声で指定したり、あるいは携帯からのアクセス用プログラムを組み込んで、外出先の携帯から同様の指示が出せるように設計する。

 それでは、次の設問を考えてみてください。

問題 設問57 外からは中が見えない箱に、まったく同じ大きさの玉が4個入っています。そのうち2つは白色の玉、あとの2つは黒色の玉です。この箱に手を突っ込んで玉を取り出すとします。最初に中から2個の玉を取り出したとき、それらが同じ色の玉である確率はいくらか。次にそれらを戻してよくかき混ぜ、今度は1個を取り出したら白玉だった。残る3個の中からもう1個白玉を取り出す確率はいくらか。さらにもう一度玉を戻し、よくかき混ぜて、再度2個取り出したところ、そのうちの1個は白玉だった。もう1個も白玉である確率はいくらか。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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