その58 フェルミ問題は「何を軸にして考えるか」が大切 |
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前回の解答に初歩的な不備がありました。この不備に気づき助言を寄せていただいた当連載欄の愛読者の方に、この誌上をおかりしここでお礼申し上げます。 では今号の設問はどうでしょうか。次に解説に入ります。
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以前よりこの連載を愛読されている皆さんや、あるいはまた何らかの機会でフェルミ推定という言葉や内容に触れた経験をお持ちの方たちであれば、いきなりこのような設問を問われても驚かれることはないと思いますが、やはりそうではない方たちにとっては、とんでもない設問ということになります。 世界中のピアノ調律師といっても、まずは北朝鮮の情報などありませんから、世界の統計数値などがあるはずはありません。したがってこのような設問は、正確な数値自身を求めているのではなく、その概算値をどのようにして導き出すかの思考過程を見ようというもので、つまり、一見とらえどころのない数値でも、「A はわからないが、BとCさえわかれば計算できるし、Dがわかっていれば、Bは計算できる・・・」と考えることによって推理し、概算値を出せるということで、面接応募者の思考プロセスが評価の対象となるということです。 だからフェルミ問題は、内容をいくつかの要素に分解し、順次その中身を仮定で推定しながら最終結論にもっていくという方法を取りますので、その回答は千差万別になりますが、ここで前出のピアノ調律師の問題で取った道筋を振り返ってみますと、以下のような形でまず日本での調律師数の概算値を求め、順次、欧米と残りの地域の調律師数を出していく方法をとりました。
これからもわかりますが、その思考構造の基本は需要と供給の形で進め、出発点は現存するピアノの台数でした。そのあと、ピアノがどれくらいの頻度で調律師を必要とするかを仮定することによって最終の調律師数を導き出しました。
では解説に移ります。 まず、出発点となる乗用車の台数です。と、ここで疑問を持つ人が出てくるかもしれません。バスやトラックも給油が必要なのに、なぜ乗用車だけを対象にするのか?と。
さて、ここで需要と供給ということから、すぐ頭に浮かぶのはガソリンの量ということになります。しかしその量は、排気量などからもわかるとおりバラエティに富んだ各種乗用車の種類によって違い、車種・型別の細かな数値の仮定までしなければならなくなります。さらにまた供給側のスタンドを考えれば、大きなところもあれば小さなところもあり、たとえ平均といっても1軒のスタンドでどれだけのガソリンを用意しているか、その概算値すら知らない一般人には、それ以上前に進めないことになります。 まず、Aがわからなくても、Bがわかれば式のアプローチで、アメリカにおける乗用車の台数をその人口から推定し、その1台当りの給油時間の仮定から、それに対応できるだけのスタンド数を割り出そうという算段です。
では需要におけるこの1億2千万台の1台当り給油頻度はどうか。日本の場合の平均3週間〜1ヶ月に1回を想定した上で、スケールの大きなアメリカの土地事情を考えると1週間に1回程度とします。
そこで供給側は1週間にこの12億分に充分耐えるサービス時間が必要となります。昼夜営業のスタンドもあるでしょうが、平均して1日15時間営業として1週間で7日x15時間x60分=6300分。 したがって、1週間の需要12億分に対して、供給側として12億分÷9450分≒127000軒のスタンドが必要になるということです。しかしこれは間断なく給油が行われている状態で、実際にはそのような光景は見たこともありません。余裕を見て130000軒というところで手を打ちます。 フェルミ推定の設問は、一見、荒唐無稽な問題のようにもみえますが、身近なビジネスとも密接な関係があります。 ピアノ調律師のところでも触れましたが、フェルミ推定問題の出題背景は、応募者の示す解答までのロジックにあり、つまりその重要な論理思考過程から、明日何が起こるかわからないという未知の分野における問題解決力、思考力、創造力、あるいは洞察力を垣間見ることができるだけでなく、困難な状況下でいかにねばり強く難問に取組んでいけるかといった、潜在する強い忍耐力や実行力、そして行動力までをも見られるということです。 おわかりのように、フェルミ問題は思考過程を見るもので、その正確な数値を求めているものではありません。したがって解答の仕方も千差万別です。次はその1つの解答です。 |
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それでは、次の設問を考えてみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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