連載

あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
バックナンバー

その60 複数の事柄で複雑に見えるとき、1つのキーポイントを探す
前号へ
  次号へ

 自分のものは見えなくて相手のものは見える状況でのパズルは、世の中に多くあると思いますが、その中でも前問は比較的簡単な部類に入る設問でしたので、どうしてこんな易しい設問が取り上げられるのか、との疑問を持った人たちも多かったと思います。
 しかし、そこで解説しましたように、その背景として論理思考を見ると同時に、その解答に至るスピードも重要視されているということでした。

 では、今号の問題はどんなポイントを見ようとしているのでしょうか。

問題 設問60 5頭の競走馬 A、B、C、D、Eの出走前に、どの馬が1着で入るか4人の仲間で次のような予想を始めた。
春男「AとBはダメだと思う」
夏男「いや、1着にはAかDがくるだろう」
秋男「いや、多分BかCがくると思う」
冬男「AとEは無理だろうな」
結果、この中の2人の予想が当った。1着に入った馬はどれだったか。

パドック 競馬場

 この設問も完全な論理思考の問題ですが、皆さんはどんな解き方をされたでしょうか。
当命題の解き方として応募者は3つのタイプに分かれるようです。解くうちに混乱してきてギブアップするタイプ1、混乱しそうだが時間をかけて解くタイプ2、そして、まずは見通しを立ててからアプローチをするタイプ3です。

 まずタイプ1は、設問の最初の2人すなわち春男と夏男を見て、この2人はAについて相反することを言っているから、この組合せは除外。次に、春男と秋男を見て、やはりこれもBについては相反することを言っているからこの組合せも除外、といった具合に、順番に消去していけば、意外に簡単に解けていくのではないかとの思いから、具体的に2人の組合せから始めるタイプです。
 そして次に春男と冬男を見ますと、AとBとEが一着に入らなかった場合には、たしかにこの2人は当ったことになります。ところがこれだけでは、設問の問い、一着に入ったのはCなのかDなのかわかりません。
 そこで一着を云々している夏男と秋男の組合せを見ると、この2人はそれぞれまったく別の馬を一着に予想しているので、この組合せもダメです。

最後の直線

 そこで考えます。CかDが一着に入った場合、どうなるのだろ、と。ここまで来てハタと壁にぶつかるのです。
 CかDが一着に入れば、すでに春男と冬男の組合せが当っていますから、その上に夏男か秋男のどちらかのもう1人が当ったことになると、結局、当りが合計3人となって命題の2人ではなくなるからです。
 このように2人の組合せから具体的に進んでいくと、どこか途中で「ウ〜ン、次第にややこしさが増してくるだけだなあ・・・」と、道なかばにしてギブアップするのがタイプ1です。

 次のタイプ2は、具体的に始めるのは同じであっても、解答は必ずあるのだからと、たとえどんな壁にぶつかったとしてもねばり強く解いていこうとする部類の人です。
 全部の組合せを順に検証していけば、どれかの組合せで解答が見つかるわけですから、許されている面接の時間に留意しながら、それぞれの組合せをしっかりと見ていくことにより、正解に到達します。
 しかしそんな中で、「どうもこの方法だと時間もかかる上に、面接官をすっきりと納得させるような論理展開ではないのではないか。もっと他にいい方法があるのでは・・・」と、制限時間のことや、またスマートな論理思考ということに、その途中で気づく人がいるかもしれません。しかし、始めてしまったが以上、もはや後戻りできないところまで来てしまっていることになります。

  この懸念に最初から留意して取り掛かるのがタイプ3の人です。
まず、この連載でたびたび言及している糸口、突破口、手がかりのことを思い出してください。ここでビル・ゲイツの言う「よ〜く考えよ」が、ヒントを与えてくれます。
 そこで今一度、当設問で命題を整理してみますと、
1. 4人はいずれも2頭の馬の予想をしている。 電光掲示板
2. その2頭は一着に入るか、入らないかの
どちらかを予測している。
3. さらに4人は、入るほうの肯定組と
入らないほうの否定組の二手に分かれている。
4. その予測が当ったのは2人である。
ということになり、前のタイプ1とタイプ2の解き方を複雑にしているのは、この4つの事柄がそれぞれ複数のことを云々していて、それらが入り組んでいるということです。

勝ち馬1
 そんなことはわかっている、だからどうなの? との反論が出てきそうですが、この入り組んでいる複数のことに目を向けることで、初めて気づくことがあります。
 それあまりにも普通過ぎて、ついその出だしで見過ごしてしまいがちなことなのですが、つまり命題の中で複数ではなく単数で唯一のもの、それをベースにして考えていけば、以外とスムーズに早く解けていくということがわかってきます。 
 その唯一のものとは? そうです、1着に入る馬は1頭しかいないということです。あとの残りの馬はみなハズレ。

 これまでにもしばしば言及してきましたが、当連載では早く確実に解答に至るその解き方や方法を、丁寧に説明していくことを心掛けてきています。
 ここまでくれば、もうおわかりだと思いますが、この一頭の馬に注目することが、その解き方や方法の糸口、突破口、手がかりになります
 つまりそれぞれの馬を1着にしたケースを4人の予想表に照合、当てはめていけば、次のように簡単で確実にわかってきます。

表1 命題の予想表 表2 Aが1着の場合
表3 表2(Aが1着に入った)を表1に重ねた場合

 まず、○を当り予想、×をはずれ予想として設問の内容を表にすると、表1のようになります。夏男と秋男は「又は」の条件で2頭の馬を予測していますので、この表の中ではそれぞれを独立にしてあります。
 もしも面接会場でこのような表を頭の中に描くことが難しければ、メモ用紙をもらえばよいでしょう。そして1着の馬がAならば、表2を表1に重ねた表3のような表を作り、各人において○と×が同一馬で重なったら除外し、結果、2人だけが残るようなケースを探していけばよいわけです。
 つまり、条件を満たしている横に見たラインが、縦に見た何人を満たしているかを、各馬ごとに見ていく方法で、早くて見落としがなく確実に解答が得られるということです。 

表4 Aが1着の場合
表5 表4(Bが1着に入った)を表1に重ねた場合
 こうしてAからEまでを検証していけば、Bの勝ち馬のときに、秋男と冬男の2人の予想が当ったことが簡単にわかります。Bが勝ち馬のときの表4を、表1に重ね合わせたものが表5です。
 ここまでで、すでに正解がわかってしまいましたので、これ以上CからEまでの場合を、もはや検証する必要はありません。早く済んでしまいます。実際、それらの検証を進めても結果は同じです。

 たまたまA〜E順の初めのほうにあるBが勝ち馬だったがゆえに早く終われたからいいものの、もしも後ろのEが勝ち馬のように設問が作ってあったらもっと時間がかかるではないか、とのご意見があるかもしれません。
 しかし、実際にやっていただければわかりますが、重ね合わせだけの作業であるがゆえにその時間はほとんど誤差の範囲に収まります。
勝ち馬B
  さらに馬の数を増やして設問を複雑にすれば、このスピードの差異が一層はっきりと現れてきます。

 したがって同じ正解であっても、組合せを順に見ていくタイプ2のような解き方より、早くて見落としのない確実性が保証されるタイプ3の方法による解き方のほうを、採用者側はより高く評価するはずです。

 このように、当設問の出題背景として論理思考を見ようというのはもちろんのことですが、その解き方の過程およびスピードを重視した見方があることが考えられます。

 では、正解です。



正解 正解60 一着に入った馬はB。

  スピード重視の設問が2問続きましたが、では、ストップウオッチを持った面接官の前で、あなたは次の問題をどれくらいの時間で解答できるかやってみてください。

問題 設問61 点のように小さい一匹のてんとう虫が、真っ直ぐな高さ3メートルの棒の一番下にいます。このてんとう虫は1日24時間の中で、次のような行動をとります。明るくなり初めの午前6時から午後6時の間は登りで、30センチ上へと登りますが、暗くなり初めの午後6時から翌日の午前6時の間には20センチ下に戻ってしまいます。このてんとう虫が4月1日の午前6時に棒の一番下から登り始めたら、棒のてっぺんに到達するのは、いつでしょう。ただし、点のようなてんとう虫の大きさは計算に入れないものとする。


前号へ   次号へ


 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

出版

連載

新聞、雑誌インタビュー 多数

※この連載記事の著作権は、執筆者および株式会社あーぷに帰属しています。無断転載コピーはおやめください

Page top