その63 物事の終わった状態から逆に考えてみる |
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見ただけではとても複雑そうで難解とも思われる前号の田んぼの面積問題は、以外にも小学校で学んだことを実行するだけで解ける設問でした。 さて、今号のポイントはどんなところを見ようとしているのでしょうか。では解説に入ります。
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この設問が面接試験の場で出される問題という認識に立てば、紙の上で計算するなどしてその結果を出す方法よりは、やはり口頭でしかも早く回答をしたほうが歓迎されるはずです。もちろんそれが直感、あるいはひらめきからのものであれば、道筋の通った内容である限り、なおさら好評価の対象となるでしょう。 まず直感なり、とっさに考えられることと言えば、次のような感覚的に受ける2つの見方だと思われます。 感覚的な1つの見方としては、まず右のミカンコップに注目しますと、最初の溶液移動で100%という濃いミカンジュースの中に、たった1杯分のリンゴジュースが入ったという印象を持ちます。さらに今、入ったばかりのリンゴ成分の幾分かが、戻しのスプーンによってミカンコップから抜き取られて、結局、ミカンコップには濃いミカンジュースが残るという感覚が残り、そしてまた左のリンゴコップには薄められたリンゴジュースが戻るという感覚から、結局、リンゴコップにあるリンゴジュースよりも、ミカンコップにあるミカンジュースのほうが濃い、言い換えますとミカンコップの中のリンゴ粉末のほうが、リンゴコップの中のミカン粉末よりも少ないという直感です。 いや、そうじゃない、反対だよ!という感覚的な見方がもう一方にあります。 この相反する直感的な感覚はどちらが正しいのでしょうか。 そこで具体的に、当初用意されているリンゴとミカンの粉末がそれぞれ100gあって、スプーン1杯分の移動は10gと仮定して計算してみることにします。 次にこの混合粉末を均等に混ぜてから、その10gをリンゴコップに戻すわけですから、この10gの中のミカン粉末とリンゴ粉末の量は、それぞれ10x100/110gと10x10/110g含まれていることになります。 また、ミカンコップに残されている混合粉末は100gですが、先にみたミカン粉末とリンゴ粉末の割合、100/110と10/110を使えば、その中のミカン粉末量は100x100/110g(=10000/110g)、リンゴ粉末量は100x10/110g(=1000/110g)と出ます。 この同じ量になるというのは、当然の結果なのです。 図2、図3、図4は、それぞれのコップに粉末が1個、2個、3個ずつ入っている場合の移動で起こりうるすべてのケースを見てみたものです。 この連載の設問の題材によっては、中学受験生やそれに関連する読者の方たちもまた多いようなので、題材によってはできるだけ解答までの内容が分かりやすくなるような解説も試みておりますが、これらの図解分析もその一環と考えていただき、面接の場では必要に応じこれらの図を頭の中で想像していただければいいと思います。 こうしてリンゴコップの中のミカン断片数と、ミカンコップの中のリンゴ断片数が、常に同じになることが容易にわかります。 ここで当設問に対して、このひらめきに該当する考え方を次にご披露します。 当初、リンゴ粉末もミカン粉末も同じ量だけあってそれぞれA、Bコップに入っているとする。そして両者の一部を入れ替えるが、それぞれのコップの中にある両者を足した全体量は変わらない。両者の粉末が他のどこにも行かない以上、Aコップにリンゴ粉末が10%あるとしたら、Bコップには残りの90%があり、またミカン粉末はそれぞれのコップの残り部分として、Aコップには90%、Bコップには10%なければならない。したがって、A、Bに入っているリンゴ粉末とミカン粉末の量は、常に同量となる。 これからもわかりますが、当初2つの粉末が同量あり、それがどこにも他に紛失しない限り、何回入れ替えたとしても、あるいはまた入れ替え部分にたとえ密度のムラがあったとしても、それぞれのコップにあるそれぞれの粉末の量は同じになるということです。 しかしまた単に、「それぞれ同じ量のリンゴジュースとミカンジュースが入った2つのコップがあります。それぞれの濃度はまったく同じです。最初にリンゴジュースをスプーン1杯分すくって、ミカンジュース側に混ぜます。次にそのリンゴジュースが混ざったミカンジュースをスプーン1杯分すくってリンゴジュース側に戻し、混合ジュースとなった2つのコップの溶液量をまったく元通りにもどします。このとき、リンゴコップの中のミカンの量と、ミカンコップの中のリンゴの量とでは、どちらが多いか」とするのも、面白いかもしれません。 当設問の背景は、このように受験者があまりにも直感に惑わされてしまうタイプかどうか、あるいはまた、ひらめき、つまり紙上で計算するまでもなく、「最終的に入れ替えたあとに残るそれぞれの量に目をやれば、すっきりと簡単に解答できる」といった考え方ができる能力の持ち主なのかどうか、といったところを見ようとするものです。 このような能力の持ち主であれば、解答まで数秒とかかりません。当連載の設問その32で見ていただいたテニストーナメントの問題を思い出してください。それはトランジスターの発明者・ショックレーがシリコンバレーの面接室でストップウオッチを隠し持ちながら出題したもので、論理パズルが面接試験の問題として一般企業にまで大きく広がったその起源となる問題でした。 それでは解答です。 |
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それではまたその出題背景を考えながら、次の問題をやってみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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