その65 需要供給上のフェルミ問題は、サービス時間が軸 |
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大事なことゆえに、今回の災害関係に少々スペースを取ってしまいましたが、この辺でいつもの連載内容に入ってまいります。
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この連載シリーズを当初からお読みいただいている皆さんや、日経BP社から出版された拙著「成功者の地頭力パズル」の読者の皆さんならば、本題のような設問に接しても、もはや戸惑ったり、あわてたりということはないと思います。 そこでこのような問題に接するのは初めてという方たちには、まず当連載その18の設問、「世界中にピアノの調律師は何人いるでしょう」欄、および連載その19の冒頭部に記述したフェルミ問題やフェルミ推定に関連する説明部分を読んでいただくことにより、その出題意図や背景などの詳細をご理解いただけれると思います。 では本題に入ります。 Aはわからないが、BとCがわかっていれば、Aの概算値がわかる。またBはわからないが、DがわかればBの概算値もわかる。したがってそのときCとDがわかっていれば、Aの概算値を求めることができるという具合に、内容をいくつかの要素に分解し、順次その中身を仮定で推定しながら最終結論にもっていくという方法がフェルミ推定の基本的な解き方ですが、このときに重要なのは、その結論を出すときに「軸を何にするか」です。 ピアノの調律師やガソリンスタンドの設問では、需要と供給のバランスという観点から他のどんな方法よりも「必要なサービス時間を軸にする」ことで解答へとスムーズな展開ができました。またミシシッピー川流量の設問では、上流に降る雨量を軸にするよりも、ダイレクトな仮説として「地理上の物理的なサイズを軸」にしました。 では、本題の理髪店の設問では何を軸にしたらいいか。これは需要と供給の前例から「必要なサービス時間」を軸にすればよいことがわかります。そしてガソリンスタンドの例をそっくりそのまま応用できそうです。そこでは乗用車1台当りに必要な給油サービス時間を仮定し、そこから乗用車全体で必要とされる給油時間を算出、その後でそれに対応できるだけのスタンド数を割り出すというものでした。 すると、需要側として理髪対象者がどれくらいいて、どれくらいの頻度で理髪をするかが出発点になるということです。 まず需要のベースとして考える出発点は、日本の人口です。その数、おおよそ1億3000万人という数字は、このようなフェルミ推定において常識として知っていなければならない値です。 一方、理髪店で働く理髪師のサービス時間を考えますと、理髪師1人が1人のお客に割く時間をおおよそ1時間とすると1日8時間労働で8人のサービスができます。 さて、今度は25万人の理髪師が働く理髪店の数ですが、それは1店舗当りの理髪師の数がわかれば算出できます。都市の人口の集中する市街地では5〜10人の理髪師でやっている店もあれば、一方、人口の少ない田舎の理髪店では、夫婦あるいはどちらか1人で営業しているところもあります。 もともとフェルミ問題は、誤差が生じるのは承知の上ですが、中身の分解が細かになっていくほどそこで仮定した数値は最終的に大きな影響を与えることから、細かに分解したがためにかえって誤差を大きくしてしまう結果を招くことがあります。 そこで市街地、田舎と全部一緒にして日本全体という観点から、おおよその見当として1店舗当り2人と仮定して進めると、その結果、5000÷(2x200)=12.5万店舗という値が得られます。 当設問の背景は、フェルミ推定の問題として受験者の論理思考プロセスを見ようというものです。 それでは解答です。 |
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実際、厚生労働省の統計によると、2007年における理容師(床屋さん、理髪師)の数は24.6万人と出ていて、推定した25万人という値は非常にいい線をいっています。また理髪店の数は、全国理容生活衛生同業組合連合会のデータによれば、1990年代半ばより2007年まで14万軒前後で推移しているようで、これもまたいい線をいっていることになり、当初、皆目検討もつかないような問題であっても、フェルミ推定することにより、おおむね該当する数値が得られることがわかります。
ちなみに理容院は男性用で、美容院は女性用といった見方をしている皆さんもあるかと思われますが、実は男女の違いではなく、法律によって業務範囲が示されているということです。 それでは次の問題をやってみてください。 |
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ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
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