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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その66 考えが分散しそうな問題は、設問を一度整理する

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 理髪店の軒数を出す前問はフェルミ推定の問題でしたが、すでに見ていただいた設問18のピアノ調律師の問題、および設問58のガソリン・スタンドの問題とともに、その推定の一番ベースとなるのが人口でした。
 市場は、企業活動の重要な場となることから、そのマーケット市場の大きさを測るという観点より入社面接試験にしばしばこのフェルミ推定の問題が出題されます。その場合、大抵この人口が出発点になることが多いので、日本の人口はもちろん、世界の人口および主だった地域の人口は頭に入れておいていただくことが大事です。

 さて今号の設問はいかがでしょうか。それでは解説に入ります。

問題 設問66 表が白でその裏が黒のカードが、テーブルの上に何枚か置かれている。あなたは目隠しをされていて、一切それを見ることはできないが、お手伝いさんがそばについている。そしてお手伝いさんから、カードは全部で何枚あるかわからないが、そこには30枚は白の表が出ている、と告げられる。次にそれらのカードをその状態のまま2つのグループに分け、それぞれのグループに同じ数だけの白色の表が含まれるようにしなければならないと告げられたら、どんな方法を伝えますか。もちろんお手伝いさんが自分の目で見て、両グループに同じ枚数の白の表カードを出すようなことはしてくれません。

カード分けゲーム

 カードがテーブルの上にあるといっても、目隠しのため自分の目でそれを見ることはできない上に、さらにそのカードが全部で何枚あるのかもわからない中で、しっかりとした枚数まで揃えなければならないという、まさに雲をつかむような問題で、考え方が分散してしまいそうです。
 しかしこれは論理思考の範疇に入るものと理解できる問題です。これまでも多くの設問で見てきましたように、思考を要する問題には必ずどこかにその手がかりや糸口、突破口があって、その着眼点を探ることで正解に至る必然性の道が開けました。

 以下、テーブル上の白あるいは黒が表向きになっているカードを、それぞれ白カード、黒カードと呼んで話を進めますが、皆さんの中には設問を見てすぐに、白カードを15枚づつ、目隠しの状態でうまく2グループに分けるにはどうするかというようにこの問題を解釈し、その方法を考えようとされた方もおられたかもしれません。

 しかしそうだとしたら、単刀直入にそのような問い方をするはずですし、その場合はもはや論理思考などを要するパズルという世界からは離れて、むしろ偶然かあるいは奇術の問題になってしまいます。
 なぜなら黒カードもたくさん混在している中から、白カードだけを目隠しのままきっちりと15枚づつ抜き出す方法など、それができるとすれば、まさに奇術の奇の文字が示すように、カード自体へ事前になんらかの怪しい仕掛けが必要になってくるからです。

 ではこの問題を解くにあたって、どこに着眼すればいいか。まずはこれまでもやったように、考え方が分散しそうで雲をつかむような問題は、その設問の中身を丁寧に整理してみることです。
それは、
  1.あなたは最初から最後まで目隠しをされていて、状況だけしかわからないこと。
  2.その状況とは、白と黒のカードがバラバラに何枚もテーブル上に出ていること。
  3.それらカードの全部の枚数はわからないが、白カードは30枚あるということ。 
  4.問われているのは、それらカードを2つのグループに分けて、両グループに同じ
    枚数の白カードが含まれる方法を、お手伝いさんに伝えること。
となります。

 なんだ、そんなことだったら問題そのものであり、改めて整理するまでもないではないか、とお思いになる方もおられるかもしれません。がしかし、このように分解してみて初めて気づく点が出てきて、それが往々にして手がかり、突破口になることがあるということです。この気づく点というのが着眼点になります。では、この気づく点とは何か。

 それは「カードが全部で何枚あるのかわからない」という点です。これは何を意味しているのか。そうです、それはカードが何枚あってもかまわない、100枚でも1000枚でもかまわないということです。
 ということは、これまでの例、100個のロッカーをトグる設問43や、大きな数でも一般化して考えられるような箱と1ドル札の設問48で取った方法が役に立つということです。その方法とは、つまり数を少なくして分析してみるわけです。

 では、2つに分けられるようにする一番少ない白カードの枚数といえば、白だけが2枚のケースです。言うまでもなくこの場合は、1枚ずつに分ければいいだけです。
 しかし、これに黒カードが1枚加わった場合はどうでしょうか。もちろんこの場合も白カード1枚づつ分ければいいのですが、目隠しのままどうやって1枚づつ見分けるのか、それが問題です。

図1 テーブル上のカードの分け方

 3枚を2つに分けるのですから、一方が2枚で、もう一方が1枚の組合せになります。そのときに起こり得る白黒の組合せは図1の2通りしかありません。ここでケース1の組合せは確かに設問の答えになりますが、ケース2はどうしてもダメです。
 しかしここで、この一番少ない組合せの場合ですらできないのであれば、カード枚数がさらに増えて組合せの種類が増せば、ますますもってできないはずだ、と思うことが大事です。

 正式な設問として出題されている以上、この一番少ない組合せの場合で突破できなければ、正解に辿り着くことはできない、何としても突破口を探る必要がある、との決意が解決へと導いてくれるのです。
 それでは解答に至る必然性を求めて、さらに進めます。

 そこでもう一度、図1のケース2をじっくり見てみます。何度見てもグループAには白が2枚、グループBには黒が1枚です。
 そこでこんなつぶやきが聞こえてきそうです。「そもそもケース2のグループBに白が出ていないという現実ではでどうしようもないではないか。この白カードが含まれていないという現実をひっくり返すことはできない・・・」と。

 実はここにヒントが隠されています。そうです。ひっくり返すというアイデアです。このケース2でグループBの黒カードを反転させると白になります。しかしこの場合、グループAの白カードは2枚ですから課題である枚数が合いません。
 一方このケース2で、グループAのカードを全部反転させたらどうでしょうか。すると黒だけとなり、白がなくなります、この場合グループAもグループBも白カードは0枚ということですから、両者に含まれている枚数という観点からは同じになり、設問の答えであることには間違いありません。
 
 ケース2はこれでいいとして、ではこの反転で残るケース1はどうなるか。そこでグループAのカードをケース1でも全部反転してみます。すると黒1枚、白1枚となり、白の枚数が1枚のグループBと同じ枚数になり、ケース1でもこの反転のやり方でいいことがわかります。
 どうやら、仕分けしたグループAにあるカードの反転が、ヒントを与えてくれそうですが、どうしてこの反転がうまくいくのか、ここでビル・ゲイツの言う「よ〜く考えよ」です。

 この反転がうまくいっているということは、とりもなおさず、反転する前のグループAにある黒カードの枚数とグループBにある白カードの枚数とが同じであるということです。
 そして当然のことながら、このグループBにある白カードの枚数は、全部の白カード枚数からグループAに白カードを持っていった残りです。
 ということは、グループAにある黒カードの枚数は、全部の白カード枚数からグループAに白カードを持っていった残りの枚数となり、このことはグループAにある白カードと黒カードの合計枚数は全部の白カード枚数に一致することを意味しています。
 文章だけではわかりづらい方は、同じ内容のものを色付けしたその説明チャートを見ていただくと、一層はっきりとわかるはずです。

説明チャート

 この反転でうまくいくケースとは、お手伝いさんから告げられた白カードの枚数分だけ、全部のカードから任意に選り分けて1つのグループにするということです。
 したがってこの設問の場合は、全部のカードを任意の30枚と残りのカードの2グループに分け、その30枚を全部反転させれば、両グループに出ている白カード枚数は同じになるということです。
 これでテーブル上の黒カードの枚数が何枚であろうが関係なく、表向きの白カードが何枚あるかさえきっちりとわかっていれば、解答できることがおわかりいただけたと思います。

カードの分け方サンプル

 さらにわかることは、最初に出ている白カードの枚数は30枚でなくても、どんな任意の数でもいいことや、お手伝いさんにその白カードの枚数を教えてもらったあと、カードに触って枚数を数えることが許されるのであれば、目隠しをしていてもあるいは暗箱を利用しても、自分1人でできます。
 したがってその場合、2グループに分けるところからはお手伝いさんを必要としませんので、お手伝いさんを友人などに見立てれば、友人を驚かすこともできます。
箱の中のカード
 この設問では回答者の解答の仕方やあるいはその説明の仕方にバラエティの幅を持たせようと、最初から最後まで、お手伝いさんが登場する形式になっているのかもしれません。

 また着眼点として、これまでの例にならい数を少なくして分析を始めました。設問では白カードが出ているということと、さらに2つに分けたとき両グループには同じ枚数の白カードが含まれるということから、その出発点として白カードだけが2枚のケースから考えました。
 そしてそのときは1枚ずつに分ければいいということだけで、その場はそれ以上のことを考えずに済ましてしまいました。

 実は、賢明な読者の方ならばすでにおわかりだと思いますが、白だけが2枚のほかに、白黒1枚づつの2枚のケースを考えても、前述3枚のときの反転論法が成り立ち、この段階で正解への解法に近づくことができます。
 しかし説明チャートに示したような考え方が、より必然的なわかりやすさで理解していただけるとの思いから意図的にそのようにしましたが、これまでのアプローチ例のように、やはり最少の数を考えて解けるということは理解しておいていただきたいと思います。

 当設問の出題背景は、一見つかみどころがなく、考え方が発散しそうに思えるような問題でも、1つ1つ丁寧に解きほぐしていける論理思考の持ち主であるかどうか、また当初、正解があるのかどうか、皆目検討もつかないような未知の問題に遭遇しても、冷静であきらめずに粘り強くチャレンジしていける資質を持っている主かどうか、いわゆる応募者の地頭力の有無を見ようとしているものです。

 それでは解答です。



正解 正解66 全体のカードから、どのカードでもいいから任意の30枚を選り分けて1つのグループにし、その30枚すべてのカードを反転してください、とお手伝いさんに伝える。

 それでは次の設問にチャレンジしてみてください。


問題 設問67 あなたは電子メールを使って秘密のメッセージを友人に送ろうとしています。特に重要な秘密であることから暗号化を考えていますが、一般の専門業者や無料の暗号化では信用ができないので、独自の暗号を使うことにしました。その場合、暗号のカギを知っているのは自分だけで、送り先の友人は知らないため、当然、友人は読むことができません。どうやったら、安全に友人に送ることができるでしょうか。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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