その67 設問の解答は問題文の中にあることがある |
|
||||||
前号の白黒カードの設問は、当初つかみどころがなく、考え方が発散しそうに思える問題でしたが、その答を知ってしまえば、実にすっきりとした理論的にも明快な解答に帰着するものでした。 さて今号の設問はいかがでしょうか。それでは解説に入ります。
|
この設問をWeb上に掲載upしたのが4月19日でした。 今日の日常情報通信において最も複雑で難解な暗号セキュリティを使っているのは、国の外交さらにまた金融界だと思われますが、この事件は一般の会社でそれほど厳格なセキュリティコードを使っていないことを思い浮かばせるような出来事でした。 しかしハッカーたちもさるもの。コンピューターシステムに関して彼らは最高の頭脳を持っている輩ぞろいで、時間をかければ暗号を解いてしまうのが常です。やはりタイミングを見て暗号セキュリティシステムを更新していく必要があるということです。 事例1 エニグマ(Enigma) 1942年、ドイツのロンメル将軍率いるアフリカ軍団に、食料や弾薬を補給するための輸送船団がドイツ同盟国であるイタリヤの港からアフリカに向かう折、ドイツ本国がロンメルとの間で交わしていたエニグマ無線通信を傍受した英国はただちにそれを解読し、その途中で船団を待ち伏せて撃沈してしまいます。 このことがさらに次のような最大の戦果を挙げることにつながりました。開戦当時ドイツはUボートという高速潜水艦を多数大西洋に出動させ、米国から英国へ向かう物資輸送船団を片端から沈めていました。しかし1943年になると、エニグマの解読に成功していた英国がUボートの正確な現在位置を割り出し、逆にUボートを次々と沈めるようになって、遂にドイツは大西洋からすべてのUボートを引き上げるに至ったのです。この時もドイツは英国のレーダーの性能が良くなったためと考え、エニグマが破られているとは考えなかったのです。 そしてドイツ空軍大編隊による英国地方都市・コベントリーの無差別空襲計画を、事前のエニグマ解読で知ったチャーチル英首相は、全市民を避難させた上で最低限の損害で済むよう準備したのち、あたかも不意を突かれように装い、敢えてドイツ軍の空襲をそのまま甘受したそうです。あくまでエニグマ解読の秘密を最後まで守るためでした。こうして最終的に勝利するわけですが、エニグマ解読の事実が公表されたのは、戦後も30年近く経ってからのことでした。 事例2 ミッドウェイ海戦 それは日本軍に傍受される恐れのない海底ケーブル通信を使って、「ミッドウェーの真水蒸留装置が故障した」 とミッドウェイにいる司令官に平文の無線電報を発信してくれるよう依頼したのです、と同時に、自陣の全局へ一斉に傍受体制に入るよう指示。 早速、東京の軍令部が 「AF では真水が不足している」 と関係先に暗号電報を発信する反応があったのです。オーストラリアの通信所がこれを傍受、AF はミッドウェーであるといことが、こうしてわかってしまったということです。 その直後、この事実を「米海軍は日本軍の攻撃を事前に察知」 と云う見出しで、米国の新聞が一面トップに掲載し、またラジオのニュースも二度にわたってその事を放送したにもかかわらず、日本はそれすらも知ることもなく、したがって暗号を変更しようともしなかったようで、このことが、戦局の行方を決定的にしまったわけです。 これら2つの戦時事例でもよくわかる通り、相手を欺く英米の「おとり情報」作戦が功を奏していたわけですが、それ以上に、暗号は定期的に更新しないと、まったくその意味が失われ、かえって墓穴を掘ることを示唆するよい例であることがわかります。 ところで個人の自宅で暗号などを使えば、たちどころにその居場所を突き止められてしまうことから、インターネットもあるいは電話すらも利用していなかったビンラディンは、それに代わるものとして信頼の置ける側近一人を連絡役にして一緒に住んでいました。 さて、前置きが長くなってしまいましたが、それでは当設問の解説に入ります。 「当然、友人は読むことができません」と設問にある通り、友人は暗号解読の能力を持つ特別なハッカーなどではありません。したがって、暗号を解いて内容を理解するスベをまったく知らない人間です。 なぜか。それはメールを受け取った友人の反応でわかるということです。 そこで返信をもらったら、あなたは友人に、「それには私の暗号が入っているので、その私のメールに君の暗号を盛り込んだものを送り返してほしい。そのあとで君の暗号はそのままに残して私の暗号をはずしたものを送る」旨のメールを打ち返すのです。 もしも友人が暗号作りのできないような人間だったら、でたらめな文章、あるいは漢字やアルファベットだけの文字列を随所に入れてもらうだけでも用が足りる旨伝えればよいと思います。もちろん友人自身の作る暗号ならそれにこしたことはないでしょう。 そして随所に友人の暗号が盛り込まれたメールをあなたが受け取ったら、今度は友人宛に先に送ったあなたの原文とそれとを照らし合わせれば、どこが友人の手の入ったところか簡単にわかりますから、そこだけ残したまま、自分の暗号をはずして送り返せばいいわけです。 この設問は単一的なものの見方をする人にはなかなか解けない問題であることから、その出題背景は、柔軟な考え方ができるかどうかを見ようとするものです。 |
|
それでは次の設問にチャレンジしてみてください。 |
|
前号へ | 次号へ |
ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult
of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most
creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。 |
執筆者紹介
テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)
出版
連載
新聞、雑誌インタビュー 多数
※この連載記事の著作権は、執筆者および株式会社あーぷに帰属しています。無断転載コピーはおやめください