この設問を見た面接応募者は、ものすごく簡単だと受け取って短絡的に答を出すAグループか、あるいはそのように受け取ってから、待てよ、そこに何か落とし穴があるのではないかと考えるBグループか、あるいはまた、出題側の意図をいち早く汲み取って、しっかりとそれに応えられるCグループかの、3グループに分かれるようです。
まず、ものすごく簡単だと受け取るAグループとは、そのものずばり、4枚の札の中で最高額は1万円札なのだから、その1万円札ばかりをうまく10枚取り出せば10万円になる、と答えるグループです。
次のBグループは、面接試験にわざわざそんなうまくいけばというような問題を出すわけがないと、もう少し慎重に時間をかけて先に進むグループ。
そして最後のCグループは、出題側の意図を最初から的確に見抜き、要望通りに回答をするグループです。
さて、この設問は1万円札だけをうまく10枚取り出せばいい、といったことを回答してほしい「たら・・・、れば・・・」の問題ではないことは確かです。というのも、本来の試験問題には、このような「たら・・れば・・」といった条件付きの解答を求めるものなどは出題されるはずがないことや、また本問が最高額を最短時間で出すことを問う問題でもないからです。
そこで、同じ紙幣を10枚以上取り出せないという観点から、ついつい10枚という枚数だけに気を取られて混同してしまいがちなのがAグループです。
同じ紙幣に限らなければ、全体を通して取り出せる合計枚数は10枚に限らないということです。
したがってこのように考えれば、最終的に同じ紙幣が10枚目となるまでに取り出せる全体の最大の枚数は、それぞれの紙幣が9枚ずつの合計36枚になることがわかります。
そしてまたこの場合の金額が最高額になっているということもわかると思います。
つまりこの場合、1万円札が9枚の9万円、5千円札が9枚の4万5千円、2千円札が9枚の1万8千円、千円札が9枚の9千円で、合計16万2千円になっています。
ここまできて、初めてグループ1の回答が効力を発するわけで、最後の1枚が1万円札であったときに全体で最高額になり、その値は17万2千円になるというわけです。
このように解説してきますと、「な〜んだ、これだったらどこにも落とし穴のようなものや、論理思考を要するようなものがないではないか」と、疑問に思われる方もおられるかもしれません。
確かにその通りなのです。しかしポイントは、Aグループのような混同した考え方をしない人であるかどうかを見ようとしていることはもちろんのことですが、最後の1枚を取り出すまでに、この36枚を取り出す可能性についてどれだけ早く気付くか、その注意深さとスピード能力を見ようというのがこの出題背景の重要なポイントで、中身が暗算でできるようになっていることからも、当設問の回答時間は15〜30秒以内にしてほしいというのが出題者側のねらいのようです。
易しそうに思える問題や短時間に解けそうな問題というのは、どこかに落とし穴がひそんでいる問題か、あるいは注意深さや真にスピード回答の能力を見ようとしている問題かのどちらかです。そこのところを早く見極めることが重要です。
いずれもあわてて解こうとすると間違いやすい問題ですが、これまで見ていただいた落とし穴のあった問題としては、設問3の南東北1km、設問16の砂時計、設問17の異質玉、設問61のてんとう虫、設問64の自動車耐久走行テストなどです。
また、注意深さやスピードを見ようとする問題としては、設問32のテニストーナメント、設問46の2人の子供、設問52の金の地金、設問60の競争馬、設問69の自転車競争などがありました。これらはあらかじめ論理思考ができていれば短時間で解けるものばかりであり、それに備えてこの連載シリーズによって訓練しておくことが1つの解決法になるということです。
今回の設問は、注意深ささえあれば暗算でできる内容になっており、あらかじめこのスピード回答という出題者側の意図を的確にとらえて、15〜30秒ほどで正解するCグループが合格ということです。
ところで、注意深さもチェックされるというお札の問題が出てきたところで、ちょうどよいこの機会に、世の中の偽造紙幣防止にはどのように注意深い配慮がなされているのか、ここでその中身を少しだけ覗いてみたいと思います。
一般によく知れ渡っているのは「肖像のすかし」ですが、ちょっと気づかないのが、千円札は1本、1万円札は3本の「縦棒すかし」で、それらは紙幣の横端のほうに入っています。
ところでこの「すかし」は、視力のある人には有効ですが、視力が不自由な人たちにとっては何の役にも立ちません。そこでこの視力の不自由な人たちにもわかるよう、配慮されているのが、紙幣の下、両端にある棒状の、あるいはカギ状の「深凹版印刷」という技法で、手でさわると「ざらつき」を少し感じるようになっています。
また紙幣の角度を変えて見ることにより、同じ部分が3つの違った模様としてが浮かび上がる仕掛けも施されています。
また紙幣を傾けると、「NIPPON」の文字が浮び上がるところもあります。
さらに、緻密さの極地を彷彿とさせるのが、隠し文字です。これらの文字を見るには、マイクロスコープが必要で、普通のルーペではとても見ることのできない微小さです。
その隠し文字として、カタカナのニホンという3文字がどこかの模様の中にばらばらになって紛れ込んでいます。たとえば1万円札の表だと、こんなところにあります。
このように3種類の紙幣(弐千円札を除く)の表裏の両面には、やはり「ニ」、「ホ」、「ン」の文字がどこかに隠されていますので、興味のある方はチャレンジしてみてください。
また、1本の線にしか見えないところにはNIPPON GINKOの文字が入っていて、このような線はいたるところにありますので、これもチャレンジしてみてください。
この設問78の注意深さを見るという観点と紙幣の問題にからめて、偽造紙幣防止用に施されている仕掛けを少し見てみましたが、このように日本の紙幣印刷技術は、その緻密さにおいては世界一を誇っていて、他国の紙幣も印刷しています。
それでは設問78の解答です。
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