連載

あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
バックナンバー

その82

直感との違いに、早く気付くこと

前号へ
  次号へ

 100階建てのビルから2個の同じ製品を落として、その耐久性を調ようという前問は、解答の仕方など皆目検討もつかなく、お手上げだった皆さんも多かったかもしれません。
 しかし、どんなに難しそうにみえる問題も、必ずその手がかりや糸口、あるいは突破口があるはずです。
 そこを一歩、さらに中に踏み込んで忍耐強く、ビルゲイツの言う「よ〜く考えよ」を実践することにより、やがて光明が見えてくるということがわかるよい例だと思います。
 複雑な論理思考ができるかどうかも、この忍耐力にも大いに関係しているということです。

 では、今号の設問はいかがでしょうか。前問とは打って変って、論理思考などの要らないシンプルな設問のようにも見えますが、さて、どうでしょうか。

問題 設問82  1日24時間のうちで、長針と短針が重なる回数を、2つ以上の解法で説明してください。

3つの時計

 この設問は直感や感覚的な見方がまず先にくる問題として、易しすぎに思える問題、すぐに解けそうな問題に映ります。
 一方、2つ以上の解答を求めるこのような出題とは別に、解法にはこだわらず、単に1つだけの解答を求める設問例もあり、たしかにその場合は、出題時にストップウォッチなどが用意されていて、スピード解答を求める面接があるかもしれません。

 しかし、いずれにしてもこの設問を見た瞬間、たしかに論理思考などは要らない直感で解けそうな問題、という印象を受けます。が、しかし直感が働いて解けそうに思えるような問題は、あわてて解こうとすると間違いやすく落とし穴があるので、疑って取りかかる必要があり、よ〜く考えることと、各種問題の事例とその対策をまとめた当シリーズその73で解説しております。

 日頃、アナログ時計を見慣れている者としては、その短針長針を頭に描きながら、午前0時ぴったりに重なってから1時間経った1時の時点では、まだ長針は短針に追いついていないこと、そしてそれから少し経って追いつき重なることを知っています。
 つまり1時間と少し経過したのちに追いついて重なるということから、まずは1時台で重なり、さらにまた1時間と少し経った2時台に重なって・・・さらに22時台に重なって、23時台に重なるので、合計全部で24回重なると、直感的に考えてしまうものです。

2つの時計

 しかし論理思考も要らなく、こんなに簡単に解答が出るようだったら、たとえこれがどんなに早いスピード解答を求める問題だとしても、応募者の独創的な発想や、あるいは論理的思考に優れた頭脳なり、ねばり強い実行力・行動力といった資質を見ようとする問題とはまったく無縁で、面接側がわざわざ意図して公式の場で出題するような問題ではないわけです。

 直感派は、ただちにこのことに気が付き、改めて考え直さなければここでアウトです。
 そこで、改めて直感で感じた1時台に重なって、2時台に重なって・・という見方を、もう少し深く掘り下げて考えてみます。
 アナログ時計を頭の中で描けば、たしかに1時台、つまり1時と2時の間で一度重なり、次に2時台に・・・となります。しかしこの延長で考えていきますと、おかしなことが起こることに気付くはずです。

 つまりこの先、順々に進めて11時台に重なるということになると、11時と12時の間で一度重なり、また数分もたたないうちに12時の時点でも重なるということになってしまうからです。このことは、1時間と少し経ってから長針は短針に追いつくということと矛盾します。1時間のうちに2回も追いつき重なる時計などは存在しません。
 ここにきて初めて11時台の重なりはなく、それがちょうど12時のときに追いついて重なるということに気付くというわけです。
 結果、11時台と23時台の重なりはないので、24時間のうちの重なりは午前の11回と午後の11回で、合計22回になるということです。これが1つ目の解法です。

2つの時計

 では次の2つ目は、最もスマートな解法です。
 長針は1日に24時間で24周回ります。だからもしも短針がずっと同じ場所に止まっているのだとすれば、24回重なることになります。しかし、短針も1日に2周回るわけなので、長針が追いついて重なる回数は2回減ることになり、結果、22回とするものです。
 これが2つ目の解法で、非常にわかりやすく、すっきりしています。

 次は3つ目ですが、これは長針と短針が進むスピードと距離の観点から計算して解く解法です。
 アナログ時計の円周を距離として、それを角度で表しますと、長針は1時間に360度動き、短針は12時間で360度、つまり1時間には30度動きます。

 長針と短針がぴったり重なっている午前0時に、ヨ〜イドンでスタートするとします。ここで短針は長針よりも360度1周先でのスタートと考えて、長針が短針に追いつくにはどれだけ時間がかかるかを考えるわけです。
 その追いつく時間をχ時間とすると、先ほどみたそれぞれ1時間に進む距離を利用すれば、
 360χ=30χ+360となります。
 ここから330χ=360
 χ=360/330=12/11時間
が導き出されます。

 つまり12/11時間経って、長針は短針に1回追いついて重なるということです。
 したがって1日24時間の間では、24をこの12/11で割れば回数が求められ、結果、22回として解答が得られるということです。

 この他の解法として、長針と短針がそれぞれ1分間に進む度数の距離からその差を計算して解答を出す方法もありますが、これは3つ目の解法の別バージョンになります。
 ところで、当設問は「1日24時間のうちで、長針と短針が何回重なるか」というものでしたが、中には「1日24時間のうちで、長針は短針を何回追い抜くか」という問題も出題されています。
 ここまでの解説を知った皆さん、即答してみてください。22回と解答した人は、まだまだということになります。

 この設問の背景は、直感的な見方が先行して、簡単で易しそうに思える問題、すぐに解けそうな問題には、特に注意深く取り組こもうという姿勢を持っているかどうか、また複数の観点から問題を解く力があるかどうかを見ようとするものです。

 それでは設問82の解答です。


正解 正解82  1.アナログ時計を考えれば、長針は1時間と少しで短針を追いつき重なることがわかる。したがって0時の重なりが1回目とすると、1時台に2回目の重なりがあり、2時台には3回目の重なり、11時台には12回目の重なりということになるが、もしも11時台の重なりがあるとすると、その数分あとすぐに12時の重なりがあることになる。どんな時計も正常なら、1時間内に二度追いつき重なることはない。ということは11時台の重なりはなく、それが12時の時点での重なりとなっていることがわかる。したがって、午前の重なりは11回、同様午後の重なりも11回、1日24時間での重なりは22回となる。
 2.長針は1日に24時間で24周回る。したがってもしも短針がずっと同じ場所に止まっているとすれば、24回重なることになるが、短針も1日に2周回るので、長針が追いついて重なる回数は2回減ることになる。結果、重なりは差し引き22回となる。
 3.長針は1時間に360度動き、短針は12時間で360度、つまり1時間には30度動く。アナログ時計の円周を距離として、午前0時をスタート地点にし、一周先でスタートするとする短針を長針が追いつき重なるまでの時間をχ時間とすれば、360χ=30χ+360、χ=360/330=12/11時間となる。つまり12/11時間経って、長針は短針に1回追いついて重なる。したがって1日24時間では、24をこの12/11で割って、結果、22回という解が得られる。

 では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。現実に起こりそうな問題です。


問題 設問83  それぞれ全員が違う会社に就職した卒業10年目の同窓生が10人集まって飲み会を開いた。ミニ同窓会での話ははずんで給料の話題になり、他の会社の同僚たちは自分と比べて給料が多いのか少ないのか、どれくらいの給料をもらっているか、各自知りたくなった。しかしその中のいくつかの会社は、各自の給料を一切公表してはならないとしており、それが会社に知れたら多額の減給処分にされることになっていた。するとその中の一人が、各自の給料を公開することなく、10人の給料の平均値は出すことができるので、それで我慢することにしようと提案した。どんな方法を提案したか。


前号へ   次号へ


 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

出版

連載

新聞、雑誌インタビュー 多数

※この連載記事の著作権は、執筆者および株式会社あーぷに帰属しています。無断転載コピーはおやめください

Page top