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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その84

論理思考のほかに、アナログ解答もある

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 全員の給料が個々にわからなくても、その平均値は出せるという方法を問う前問では、解答が2つあるということで、たとえ1つ方法がわかっても、それで安心しないでもっと注意深く掘り下げて考えよと、さらなる考慮を促す問題でした。

 それでは、今号の設問はいかがでしょうか。

問題 設問84  それぞれ全員が学校から表彰される論理思考賞を取りたがっている30人の生徒が校庭にいます。そこに校長先生が出てきて「君たちがどれくらい論理思考ができるかを今から試す。全員に縦一列に並んでもらってから、私が全員に赤か白のいずれかの帽子をかぶせていく。それから自分の帽子の色は何色かを、一番後ろの生徒から順に言ってもらう。もちろん自分よりも前に並んでいる生徒の帽子を見ることはできる。また後ろにいる何人かの生徒が答える声も聞くことができるが、自分と自分の後ろにいる生徒の帽子は見えない。もしも自分の帽子の色とその答が間違っていれば、表彰状はもらえない。だが、私が帽子をかぶせる前に、皆で相談して決め事を作っておいてもかまわない。しかし、着帽整列のあとは自分の答以外の発言や合図を送ったりすることはできない。では、表彰状をもらえない生徒を最少に食い止めるには、どうするか」と言いました。さて、あなたが生徒だったらどんな方法を考えますか。

帽子

 以前にも言及しましたが、「正解はこうです」といった、いきなり正解に飛ぶ解答形式では、正解に至るまでの考えを巡らして行く道筋がすっぽりと脱落してしまうことから、どうしても思考力を培うことができません。
 したがってその場かぎりの「思いつき」に頼ることしかできなくなって、明日、何が起こるかわからないという先行き不透明な今日の社会環境では、力強く生き抜くことからは程遠い、ただただうろたえる人間だけが取り残されてしまうことになりかねません。

 そんなことから当連載では、正解に至る道筋をできるだけ丁寧な形での解説を心がけていますので、聡明な皆さんの中には少々もどかしいと感じる方もおられるかもしれませんが、そのへんの事情をよろしく勘案してください。

 では、本設問を考えてみます。
 問われている内容は自分の前しか見えない縦に並んだ生徒たちが、自分の帽子の色を当てるという問題ですが、これまでずっとこの連載を読んでおられる方であったなら、「あれっ、これはどこかでやったことのあるような設問ではないか」との印象を持たれたかもしれません。
 そうです、それは帽子をかぶった生徒ではなく、赤か白のリュックを背負った生徒という設定の設問59でした。

 この設問59のことを思い出した方たちは、すぐに「な〜んだ。一体、どこが違うんだ」と、その中身の検討に入っていかれたかと思いますが、設定が同じような問題であっても、やがてこれらは本質的に違う設問であることに気付かれたはずです。
 しかし、あ〜そうなのかと、そこで終えてしまわないで、もう少し深く考えていただくことが大切です。というのもこの根本的に違うところが、それぞれの設問を正解に導く重要なポイントを示唆しているからです。

リュック

 ではどこが本質的に違うか。その違いは2つあります。
 まず1つは、リュックの3人と帽子の30人とで人数が大きく違うことです。しかしリュックの場合、人数が増えてもそこでの沈黙の時間が増えるだけで、基本的に3人でなくてもいいわけです。
 また一方、帽子の生徒は30人と多い設定数ですが、これまでの設定数の多い設問例からすると、これもまた30人という特定の数にはこだわらなくてもいいのではと思われ、そのことは後ほどの解説でわかります。

 もう1つの違いはと言いますと、リュックの場合にはあらかじめ部外者が、少なくとも1人は赤色のリュックを背負っている、とその状況を生徒に教えていることです。
 これに対し、帽子の場合は事前に生徒の状況を教えるようなことはなくて、代わりにあらかじめ生徒たちの間で決め事ができるとしている点
です。

 そこでリュックの場合の正解には、この状況説明がキーポイントだったことを思い出していただければ、当設問84もこのあらかじめ決め事ができるという点が、重要なキーポイントだということがわかるわけです。
 そんなことは言われなくても、初めからわかっているとお叱りを受けるかもしれませんが、「他のことは考えず、あらかじめの決め事だけに集中して考えよ」という重要なメッセージを確認できるということです。

 では、いよいよ正解に至る道筋の解説に入ります。
 まずどんな決め事をしていても、最後列にいる生徒は自分の帽子の色はわかりません。しかしすぐ前の生徒の色はわかりますから、それを伝えることによって少なくとも1人は表彰状をもらえます。
 この延長で順繰りに前の生徒の色を言う方法はどうかと考えても、そのあとが続きません。2人目からは、直前の生徒の色が自分の色と同じとは限らないからです。

 でも、これをふまえて3人目、5人目・・・と、飛び飛びに前の生徒の色を言っていけば、4人目、6人目・・・の生徒は正解になりますから、少なくとも半分は当たり、さらにこの場合、3人目、5人目・・・の生徒が4人目、6人目・・・と同じ色である場合もありますから、この方法なら半分以上の生徒は表彰状を手にすることができます。

 でも、もっと他に方法はないか。そこで解答への手がかりや糸口、突破口を探る方法として、設問73にまとめてある対処法を考えてみますと、当設問の場合は「小さな数字や量で単純化、シンプル化してやってみる」が必須です。

図1

 そこでまず、生徒が3人の場合を考えます。説明をし易くするために、便宜上ここで3人の生徒を最後列からA、B、Cとします。そしてそこでの帽子の色の組合せは4種類になります(図1)。
 設問で問われているのは、Aの回答によってBが自分の色がわかり、同時にCもわかる方法か、あるいはもう1つの方法として、Aの回答でBがわかり、次にBの回答でCがわかるような方法を考えてみよ、ということになります。

 まず前者の場合は、Aが赤か白と言うことにより、この(1)、(2)、(3)、(4)のうちの1つを特定しなければならないということです。つまり2つの言葉で4つを判別せよということですから、これは不可能です。
 ましてや、3人ではなく30人の組合せを2つの言葉で判別することなど問題外です。

 では、後者の順ぐりにわかるような方法はあるのか。ここが地頭力の発揮のしどころです。この(1)、(2)、(3)、(4)の4つを、何とか2つの場合に凝縮した伝え方がないものだろうか、と考える力です。
 この4つをじっくりと見つめますと、そこには同じものが2つあるケースと、違うものが2つあるケースとで、2つの場合があることがわかります。その結果、それを判別する方法として、それぞれの色の数が偶数の場合と奇数の場合であることに、ハッと気付くのではないでしょうか。

 つまり、AがBとCの色を数えて、赤が偶数あれば赤、奇数あれば白と言う、というふうにあらかじめ決めておけば、Aの回答を受けてBはCの色をみて、正解を答えることができ、またCはAとBの回答を聞いて自分はどちらの色かを答えることができるわけです。

 ここまでくれば、もはやほとんど解けたも同然です。この偶数、奇数という数え方は、生徒数が増えても普遍だからです。
 たとえば生徒Dを加えて4人の場合、最初Aが前にいるB、C、Dの3人の色を見て赤が偶数あれば、あらかじめの取り決めにより赤と言います。それを聞いたBはCとDの色を見て、赤が偶数あれば自分は白であり、赤が奇数であれば自分は赤であることがわかります。

 さらにそのあとCは、そのBの回答と残りのDの色とを照合すれば、偶数か奇数かで色の解答できます。Bが赤と言って、Dが赤の場合はCは白、Dが白ならばCは赤と分かります。最後のDは、BとCの言った色を照合すれば、自分の色がわかるというわけです。

 このように考えていけば、人数がふえても同様な方法で、当の生徒は前の生徒の言った色と残りの生徒の色を合計した数とを照合していけば、自分の色がわかり、こうして順繰りに30人目まで正解が得られるわけです。
 したがって29人は確実に、またさらに最初の最後列にいる生徒の色も、たまたま当っていれば全員が表彰状を手にすることができます。

 しかし、めでたし、めでたしと、ここで安心してはダメなのです。これ以外に方法はないのかと、さらに貪欲に考えることです。そこでまた地頭力を働かせて、再び3人の場合をじっくりと考えてみるわけです。
 偶数と奇数を使った伝え方以外の方法といえば、やはり前の生徒の色をダイレクトに伝える方法しかないようです。つまり後ろの生徒と前の生徒と両者で色が違っていても、後ろの生徒が自分の色をきっちりと伝えると同時に、前にいる生徒の色もきっちりと伝える方法です。そんな方法があるのか!?

 そこでこの連載をずっと読んでおられる方は、設問その6のスイッチの問題を思い出してください。そこではびっくり!五感のうち触覚を使った方法が解決してくれました。
 そうです。この設問84では聴覚に訴える方法を使うわけです。その方法とは、あらかじめ、後ろにいる生徒が自分の色をボソボソと低い声で言ったときは、直前に並んでいる生徒の帽子の色は赤、高いトーンではっきり言った場合は白とあらかじめ決めておけばよいのです。

 ただし一番最初に答を言う最後列の生徒は、二番目の生徒の正しい色を言い、二番目以降の生徒は後ろから伝えられた色をそのまま言うが、前にいる生徒の色を見て、赤であれば低い声で自分の色をボソボソ、白であれば自分の色を高いトーンではっきりと言えばよいわけです。こうすれば、後ろの生徒は自分の色とは関係なく、前にいる生徒の色を正確に順繰りと伝えていくことができます。
 この方法でもやはり少なくとも29人は確実に表彰状を手にすることができます。また、一番最初に答を言う最後列の生徒も、たまた合えば30人全員が表彰状をもらえるわけです。

 以上、高い確率で表彰状をもらえる方法として、偶数と奇数を使った論理思考による方法と、五感を使ったアナログ方法とを解説しましたが、この設問の背景はどの程度まで論理思考ができるか、あるいはまたアナログ的な解き方も発見できるかどうか、その解答手法から当人の資質を見ようとしているものです。

 それでは設問84の解答です。


正解 正解84  方法1.一番最初に答を言う最後列の生徒は自分の帽子の色はわからない。しかしこの生徒が、残り29人の帽子の色をかぞえて、赤色が偶数であれば「赤」、奇数であれば「白」と言うと決めておけばよい。そうすれば二番目の生徒は、後ろから聞いた色に、前にいる残り28人の帽子の赤色の数を加え、その合計の赤色が偶数であれば自分は赤、奇数であれば自分は白であることがわかる。三番目の生徒は、残り27人の帽子の赤色の数をかぞえ、この二番目の生徒の回答と合わせて考えれば、その偶数・奇数により自分の色がわかる。以下、順繰りに30人目まで同様にやっていけば、少なくとも29人は自分の帽子の色を当てることができ、表彰状をもらえる。また、たまたま一番最初の生徒の答が当っていれば、30人全員が表彰状をもらえることになる。(もちろん最初の決め事で、偶数・奇数における赤と白を逆にしておいてもかまわない)
 方法2.一番最初に答を言う最後列の生徒は自分の帽子の色はわからない。でも決め事として、後ろにいる生徒が自分の色をボソボソと低い声で言ったときは、直前に並んでいる生徒の帽子の色は赤、高いトーンではっきり言った場合は白とあらかじめ決めておけばよい。ただし一番最初に答を言う最後列の生徒は、二番目の生徒の正しい色を言う。二番目以降の生徒は後ろから伝えられた色をそのまま言うが、前にいる生徒の色を見て、赤であれば低い声で自分の色をボソボソ、白であれば自分の色を高いトーンではっきりと言えばよい。こうすれば、後ろの生徒は自分の色とは関係なく、前にいる生徒の色を正確に順繰りと伝えていくことができる。これにより、少なくとも29人の生徒は表彰状がもらえる。たまたま一番最初に答を言う最後列の生徒の答が当っていれば、30人全員が表彰状をもらえることになる。(最初の決め事で、低い声を白、高いトーンを赤としてもよい)

 では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。


問題 設問85  ここに3枚の札があり、裏返しに置かれています。札の表側にはそれぞれ違った数字が書かれています。そこでゲームを始めます。まず3枚のうちどれか、1枚目の札をめくって表を見ます。もしもその数字が一番大きいと思えばその札をとっておきます。そう思わなければ、その札を捨てて2枚目の札をめくって数字を見ます。そこでその数字が一番大きいと思えばその札をとっておきます。そう思わなければ、その札も捨てて、3枚目の札をめくりこれをとっておきます。このようなやり方で手元にとっておいた札の数字が3枚の札の中で一番大きければ、あなたの勝。そうでなければ、あなたの負けです。一番大きな数字の書かれた札を選ぶにはどうすればいいでしょう。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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