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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その97

見えないところは論理思考で!

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 日本発の素晴らしいニュースが、この1月末に飛び込んできました。
博士号を取ってからまだ3年未満の30歳、小保方晴子さんという女性が、新万能細胞を作り出すことに成功したというニュースです。
小保方晴子さん
 この万能細胞作りでは、つい1年ほど前の2012年12月10日、山中伸也教授がノーベル賞を受賞したことは記憶に新しいところですが、今回、それに匹敵する偉業を、この若き女性がやってのけたということです。

 彼女がこの偉業を成し遂げた課程を少しだけ覗いて見ると、この連載問題にチャレンジされている皆さんにも、おおいに参考になることが見えてきます。
 たとえば、万能細胞の作製方法ですが、権威ある論文審査委員から「何百年にもわたる細胞生物学の歴史を愚弄している」とまで言われたほど、その分野の専門家にとっては、とうてい考えられない方法でした。
小保方晴子さん(研究風景)
 彼女は医学とは無縁の理工学部出身の工学博士ということで、それがかえって専門外という視点から、医学の世界からはまったく相手にされない、あり得ない常識やぶりの方法を考えつかせた源泉となり、いわゆる視点を変えた発想の転換が素晴らしい結果をもたらしました。
 この連載シリーズでも、この発想の転換によって解ける問題が多々あるということは、度々取り上げているとおりです。

15歳の米高校生Jack Andraka

 また、膵臓がんの画期的な早期発見方法を見い出し、国際科学技術賞を受賞した15歳の米高校生Jack Andraka少年の場合も、小保方さんのケースと非常によく似た経緯をとっています。
 彼は最愛の叔父さんの命を奪った膵臓がんについて、Wikipediaやインターネットに公開されている論文を読みあさり、8000種類以上のタンパク質のうち、膵臓がんにかかるとメソトリンというタンパク質が特に増えるということを知ります。
 そんなある日、科学雑誌を読みながら、片手間に聞いている授業でやっていたのが特定のタンパク質に結びつく抗体の話でした。そこでひらめいたのが、その雑誌に載っていた電気を通す新素材のカーボンナノチューブとこの抗体とをうまく組み合わせれば、チューブの中の紙に染みこませた血液からメソトリンの量を電気測定できるのではないかという、やはり医学の世界とはまったく違った視点を持った発想でした。
 しかし、それを実践実験する場所がないため、次々と大学や国立機関に協力依頼のメールを送るものの、200件のうち199件は冷たい反応だったという、まだ高校すら卒業していない素人を相手にしてくれる医学機関はありませんでした。
Jack Andrakaとオバマ大統領
 しかし、そこでたった1人興味を示してくれた教授に出会います。かくしてその研究室で7ヶ月かけて開発した検査方法は1回3セント、時間は5分という超低費用かつ超短時間で済み、しかも検出精度はほぼ100%。この方法なら早期発見ができますから、生存率も100%になるという画期的なものでした。発想もさることながら、少年の行動力にはすごいものがあります。この功績によって、昨年、彼はホワイトハウスに招待されています。

 小保方さんも、愚弄までされて何回も論文を突き返され、泣き明かした夜は数知れないという彼女は「きょう1日だけ、あす1日だけ頑張ろうと思ってやっていたら、5年が過ぎていました」と言っているように、粘り強い資質と行動力の持ち主です。
小保方晴子さん(研究風景その2)
 発展著しい米IT企業などの面接試験にこの連載にあるような問題が多く出題される理由は、設問その23でも詳しく説明しましたように、論理思考のできる人だけでなく、ねばり強く問題に取り組んでいく気力のある人、あるいは常にハングリーでやる気があり勝負にこだわりを持つような人を、できるだけ多く採用したいがためです。
 特に、明日何が起こるかわからない変化の著しく激しい今日のビジネス界では、日常突発するどんな難問・難題に遭遇しても、くじけず粘り強く物事に取り組み、最後までやり遂げていく資質や行動力が求められているということです。

 世界の注目を集める万能細胞という分野で、山中教授とともに2件とも日本発ということは、日本人として誇らしくまた素晴らしいことです。そして遺伝子に手を加えることなく、きわめて自然な方法で万能細胞作製に成功した彼女の研究成果が、やがて臓器の再生やガン予防、さらには若返りという分野で人類に貢献する日を期待したいものです。

 さて、嬉しいニュースで前置きが長くなってしまいましたが、今号の設問はどうでしょうか。

問題 設問97   互いにIT企業に勤めている同級生の2人、AとBが24年ぶりに再会し、子供の話になりました。
    今、子供は何人いるんだい?
    息子が3人いるよ。
    すごいな。全員、男の子か。いくつになるんだい?
    う〜ん・・・そうだな、3人の年齢を掛けると72になり、足すとあそこに見えるビルの階数と同じ数になるよ。
    なるほど。いや・・・それだとまだはっきりわからないなぁ。
    あっ、そうか、すまん。次男との年齢が開いた長男は、サッカーをやり始めたよ。
    そうか!なら俺の一番上の子と同じ年だ!
    この2人の会話から、3人の男の子の歳を当ててください。

子供3人の絵(X歳、Y歳、Z歳)

 まずあなたは、この設問からどんなことを想像しましたか。
 24年ぶりに再会した同級生だということから、幼少の小学校低学年時代以降から会っていないケースや、あるいはもっと大人になってからの大学卒業時以来会っていないケースまでを含めて、2人の親の年齢は31、2歳〜45、6歳くらいとすると、子供の年齢もかなり絞り込めるのではないか、あるいはまた、サッカーを始めるには、普通、社会人になってからでは遅いと思われることから、長男は、小学生からせいぜい大学生あたりの年齢になるのではないかなどと、当初、あれこれ思考を巡らされたかもしれません。

 たしかに長男の年齢を、ある程度の範囲までに絞り込むことはできますが、設問で求められている3人の子供のそれぞれ具体的な年齢までをここからどのようにして出すのか、その解に辿り着く上ではあまり参考にならないようです。なぜなら、ここに大きな壁が立ちふさがっているからです。

ビルと計算式(X×Y×Z=72、X+Y+Z=■、X+Y+Z=?)

 その壁とは、年齢の前提条件として、Aには2つの数字がわかるように示されているにもかかわらず、あなたにはそのうちのたった1つの数字しか示されていないということです。
 つまりAには掛け算の72及びビルの階数の数がわかるのに対して、あなたはビルの階数を知ることができないからです。
 ましてや、たとえ2つの条件があったとしても、問題によってはそこから不明な3つのものの値を出すのは不可能なのです。

 たとえば、設問その6のスイッチの問題などを見ていただければわかるとおり、2つの条件だけでは、3つのものを判別することは不可能でした。
 その設問は、3つ目の条件を回答者が思いつくことによって、はじめて解決する問題でした。そこでは3つ目の条件を思いつくことのできる回答者の地頭力が求められていたということです。

 では、当設問はどうなのか。
 Aには2つの数字以外に、もう一つの条件・ヒントとして長男の情報が示されています。したがってAには、3つの前提条件から3つのものの値を出すという問題になりますから、連立方程式を頭に思い浮かべていただければわかるように、これは簡単すぎて改めて入社試験に出すような問題にはなりません。

 それを敢えて出題しているということはどういうことか。
 ここで地頭を働かせますと、それは、ビルの階数を見ることができないあなたに対して論理思考をうながすべく、あなたのために用意された条件ではないか、ということです。
 つまり、一歩踏み込んで考えますと、Aは2つの条件で解答が出せるのに、それだけではまだわからないとしているのは、あなたにもわからせるための条件なのでは、という意味です。

 このように考えて、次に進みます。
 最初の条件に72という数字が出ていますが、ここでこれまで度々やってきたことを思い出していただきますと、設問73に「解答への手がかりや糸口、突破口を探る方法としての対処法」がまとめてあります。その項目の中で当設問97に該当しそうなものを見ていきますと「小さな数字や量で単純化、シンプル化してやってみる」に思い当たります。

 では、この例にならって、たとえば3人の年齢を掛けると12になるとしてやってみます。
この場合の3人の年齢で考えられる組合せは、

 a) 1、1、12
 b) 1、2、6
 c) 1、3、4
の3種類です。そこでこの3つを足したものがビルの階数になりますから、たとえばAが見ているビルが9階建であれば、3人の年齢はb)の組合せであり、8階建、14階建であれば、それぞれc)、a)であると、Aはすぐにわかるはずです。

 ところが、Aがわからなかったということは、これだけでは判別がつかないことが起こっているということになります。このことが、ひいてはビルの階数がわからないあなたにもわかるヒントになっているのではないか、ということです。
表1(3人の年齢を掛けて72になる組合せと3人の年齢合計)
 そのことは、表1のように、実際に3人の年齢を掛けた72の数でやってみるとはっきりとしてきます。そのやり方は因数分解になりますが、そんな難しい言葉やその定義、内容などを知らなくても、こんなことは誰でもできますよね。

 表1で、ビルの階数が14階建以外であれば、それぞれ3人の年齢の組合せが1つしかないので、Aは一発でそれがわかるはずですが、14階建の場合は2つのケースがあり、ここまでに示された条件では判別できなかったということです。
 そして3つ目の条件「次男との年齢が開いた長男」によって、Aにははじめてそれが、3歳と3歳と8歳の長男という組合せだ、とわかったということです。
 したがって、たとえビルの階数がわからなかったあなたでも、この表1とAの応答から正解の組合せを割り出せることになる、というわけです。

 さて、当設問の背景は、設問49の村の女王、設問51の海賊、そして設問77の独裁者の問題と同様に、自分以外の相手の言葉や行動によって解を求める論理思考がしっかりできるかどうか、その地頭力を見ようとしているものですが、また起こりうる組合せの糸口に、いかに早く気づくかというスピード感も見ようというものです。

 それでは設問97の解答です。


正解 正解97  3人の年齢は、3歳、3歳、8歳。

 では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。


問題 設問98  ある国では人々は生まれてくる子には男の子だけを欲しがりました。そのため、どの家族も男の子を産むまで子供を作り続けました。この国では男の子と女の子の人口比率はどうなりますか?

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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