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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その98

難しく考えなくても解ける

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 前回はSTAP細胞の発見ニュースに沸いてコメントをしてしまいましたが、それも論文の不備から急転直下、今やSTAP細胞の存在までが疑われているようです。しかしハーバード大学、ネイチャー誌、理研といった、あれだけの権威の中での発表なので、STAP細胞の捏造までは考えにくいところです。

 どこかでSTAP細胞が再現されれば、それで一件落着ということになりますが、一方、そこでコメントしたもう一つのほうの話は、オバマ大統領からも祝福された15歳の少年による発明でした。
 多くの教授や専門家たちに相手にしてもらえない中で、その発明を成し遂げるまでの様子は、和訳の字幕がついたURLの 有望な膵臓がん検査
で、詳しく見ることができますので、興味のある方は一度、ご覧ください。

 さて、毎年3月に入ると、アメリカフォーチュン誌が世界の長者番付を発表しますが、本連載シリーズの設問源流とも関係するビル・ゲイツ氏は5年ぶりに1位に返り咲きました。1995年から通算15回目のNo.1 です。
 また、ソフトバンクの孫さんは昨年の世界128位から42位へと大躍進しています。携帯電話の業界で、世界に進出をしようとして買い取ったアメリカの携帯電話会社の株価資産などが加算されたものと思われます。
 個人では使いきれないその資産を、さらに一層、社会貢献の面で活用してもらえればと思います。

 では、今号の設問の解説に移ります。

問題 設問98    ある国では人々は生まれてくる子に男の子だけを欲しがりました。そのため、どの家族も男の子を産むまで子供を作り続けました。この国では男の子と女の子の人口比率はどうなりますか?

子供の絵

 この問題を見て、まず最初に皆さんが受けた印象はどうでしょうか。あくまでも人口比率はどうなるかという直感的な印象ですが、そこには次のような2つの、まったく正反対の受け止め方があったのではないでしょうか。

 1.男の子だけを欲しがる男子奨励の国なのだから、男の子ほうが多くなる。
 2.男の子を生んだらそれでお終いになるが、女の子の場合は次々と続けるわけだから、
   女の子のほうが多くなる。

 このような正反対の受け止め方といえば、昔、未開地のアフリカに行った2人の靴商人が、現地人のすべてが裸足で生活をしているのを見て、
 1.裸足で生活している彼らには、靴なんか必要ないものだから、靴は売れない。
 2.みんな裸足なんだから、彼らの全員がよいお客様。靴はおおいに売れる。

と、本国に向けてまったく違った2通りの報告をしたという話を思い出しましたが、さて本問はどうでしょうか。

 女の子の場合、延々と産み続けるわけだから、無限という数がチラチラしてくることや、それでも母親には出産年齢という制限があるのだから無限ということはないはずだとか、いや、そうは言っても国の人口を考える以上、やはり膨大な量を想定して取りかからねばならない・・・などなど、つかみどころのない複雑な世界に引き込まれるように感じられた方もあったかもしれません。

 では、本問のような設問に対してどのように取り組めばいいのか。
そこでまず、どうやって解き始めたらいいかわからないとき、あるいはそのきっかけがわからないときなどに、いつも使う常套手段を思い出してみてください。
 それは当連載のその73に解説している「突破口、糸口、手がかりの対処法」です。

 そこでその解説している諸項目の中で、当設問に該当しそうなものを探してみますと、その中の
 ・複雑に見える問題、数量が多い問題、読んだだけで気後れしてしまう問題、思考が発散してしまいそうな問題、長々とした文章の問題
という項目に思い当たります。
さらにその対処法の欄を見てみますと、
一番この設問に該当しそうなのが
 ・小さな数字や量で単純化、シンプル化してやってみる
です。

 これにならって、1組のカップルだけの場合を考えて、その家族構成がどんな比率になるかやってみます。
 設問には特に明記する必要がないということで但し書きがありませんが、男女の生まれる確率は、それぞれ1/2、1/2という天の摂理を大前提にして進めます。

 男の子が生まれるまで、進むにしたがってその確率は1/2ずつ下がっていきますから、出生順番別にケースを並べてみていきますと、

 男だけになる確率 :1/2
 女男になる確率 :1/4
 女女男になる確率 :1/8
 女女女男になる確率 :1/16
 女女女女男になる確率 :1/32
   ・
   ・
となっていきます。

 したがってこの確率で人数という点に注目し、男の子の人数の期待値を求めるなら、その和になりますから、
A=1/2x1 + 1/4x1 + 1/8x1 + 1/16x1 + 1/32x1 +・・・+ 1/(2n)
 =1/2 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + 1/32 +・・・+ 1/(2n) ------(1)
となります。産み続けるということは、ここでnが無限大の数を意味します。
 同様にして、女の子の人数の期待値を求めれば、
B=1/2x0 + 1/4x1 + 1/8x2 + 1/16x3 + 1/32x4 +・・・+ n/(2n+¹)
=1/4 + 2/8 + 3/16 + 4/32 +・・・+ n/(2n+¹)
となります。

 ここで、なんだか難しくなってきたと思わないでください。中には高校の数学に出てくる無限級数の和というような定理が脳裏をよぎって、こんな問題が面接試験に出たら、定理をしっかり覚えている人間だけしか合格できないのではないか、と感じた方もいたかもしれません。
 しかし、あわてなくてもいいです。面接側もその辺のことはちゃんとわきまえた上での出題ですから。

図1・2

 AとBを求めるためには図形にして、AとBの中の各数値を、図1-1と図1-2のように面積にしてみるのが1つの方法です。いずれもその最終合計は1となっていくことがわかります。

 図ではなく、もう1つの方法は、引き算という簡単な算数の計算で出ます。
つまり、上のAの式(1)の両辺に1/2を掛けますと、
 (1/2)A=1/4 + 1/8 + 1/16 + 1/32 +・・・+ 1/(2n+¹)となります。
 次に上のAの式からこの式を、左辺から左辺、右辺から右辺を引けば、
 (1-1/2)A=1/2ー1/(2n+¹) となり、nが∞では1/(2n+¹)=0となりますから、(1/2)A=1/2となり、結果A=1になることがわかります。

 Bにおいても1/2を掛け、同様にして左辺同士、右辺同士を引けば、
 (1/2)B=1/4 + 1/8 + 1/16 + 1/32 +・・・- 1/(2n+¹) ------(2)です。
ここでもともとのAの式(1)である
 A=1/2 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + 1/32 +・・・+ 1/(2n) ------(3)
とを比べます。
 nが∞では- 1/(2n+¹)も、+ 1/(2n)も0になることと、前の結果からAは1 でしたので、(3)の下線部分は1/2であることもわかり、これをもって(2)の右辺も1/2になることから、結果、B=1と出るわけです。

 結局、A対Bは1対1で、男の子と女の子の比率は同じということです。
1カップルで同じ比率なら、他のカップルも同じことになりますから、この国の人口比率は、両者同じになるわけです。

 しかし、そんな確率で解くのは苦手だという方には、もっと簡単に解ける別の方法があります。
今度は途中までに生まれてくる実際の人数から両者を比較する方法です。
 説明を分かり易くする意味でカップルを8組とし、子供は最多3人までというケースで考えてみます。

説明図

 天の摂理から、その8組の内の半分、つまり4組からは男の子が生まれ、この4組はそこで終わります。あとの4組は女の子で、次ぎを産みます。またその4組の半分の2組は男の子でそこで終わり、残りの2組は女の子で、また次ぎを産みます。その2組の半分の1組は男の子になり、残りの1組は女の子になります。

 これが、説明1の図です。この8組でもうけた男女それぞれの子供の合計数は7人で、結果は同じになることがわかります。
 国というレベルでカップル数がどんなに多くなっても、このやり方でみていけば男女の子供の数は同じになることは明らかで、この国の両者の人口比率は変わらないということです。

 さて、当設問の背景は、これを確率の問題としてとらえるのかどうか。その場合、無限級数の和の問題になるが、それをどう解くか。あるいは、生まれてくる実際の人数に着目して解くのか。いずれの場合も、面接の場でスムーズな解法のできる柔軟な頭脳の持ち主かどうか、また解法のスピードも見ようとしているものです。この問題はグーグル社の出題ですが、スピード解法という点や着眼点という観点から、難しい解き方をするよりも易しい解き方をする応募者のほうを歓迎したのではないでしょうか。

 それでは設問98の解答です。


正解 正解98  人口比率は同じ(解法は本文の中のいずれかの手法を示せばよい)。

 では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。


問題 設問99  図のようなシーソーがあります。シーソーの板の大きさは、厚み5cm、幅30cm、長さ3mで、重さは30kgです。支点は、片側から1m、反対側から2mの位置にあります。1m側の端には、シーソーと同じ幅の30cmで、厚みは10cm、長さは50cmの金属の板が、シーソーからはみ出ない状態で、ぴったりシーソーに重なっています。この金属板の重さは20kgです。シーソーも金属板も密度は均一な材質でできています。このシーソーを釣り合わせるには、2m側にどんな重りを載せないといけないか?

シーソーの絵
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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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