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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その99

物理の基本的な考え方が大事

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 一定のルールで無限に続く無限級数を想定し、あたかもそれを解かなければならないのかと思わせた前問も、実は、視点を変えれば無限級数から離れた形で、スムーズに、しかも分かり易く解けることや、たとえ最終的に無限級数として解かなければならなくなったケースでも、むりやりその定理を覚えている必要もなく、数式を工夫することによって簡単に解けることがわかりました。
 どんな問題でも、視点を変えたり発想を変えることにより、解答は身近なところにあるということです。

 では、今号の設問はどうでしょうか。

問題 設問99    図のようなシーソーがあります。シーソーの板の大きさは、厚み5cm、幅30cm、長さ3mで、重さは30kgです。支点は、片側から1m、反対側から2mの位置にあります。1m側の端には、シーソーと同じ幅の30cmで、厚みは10cm、長さは50cmの金属の板が、シーソーからはみ出ない状態で、ぴったりシーソーに重なっています。この金属板の重さは20kgです。シーソーも金属板も密度は均一な材質でできています。このシーソーを釣り合わせるには、2m側にどんな重りを載せないといけないか?

シーソー

 この設問を見て、すぐにテコを連想されたかもしれません。そして具体的に示されている数値を使って単純に計算していけば、論理思考が必要とされるこれまで見てきた多くの問題とは違い、簡単に解けるのではないか、と考えられた方たちも多かったのではないでしょうか。
 そうであるが故に、中には、「単純計算で解けるようなこんな易しい問題が、どうして面接試験に出るのか!どこかに落とし穴があるのではないか」と、疑問をいだかれた人たちもおられたかもしれません。

 しかしその一方で、テコの問題であることはわかったとしても、いざ具体的な計算の段になって、この問題の数値をどのように使って進めていったらいいのか迷ってしまわれた方たちもおられたかもしれません。というのも次のようなことが考えられるからです。

図1

 テコと言えば、一般的に小さな力で大きな重いものを動かすときに使うものとして、図1のような棒状のものを使って大きな石を動かす様子が頭に浮かびます。
 そしてテコに働く力とその力が加わる位置を使ったテコの原理により、(石の重さ)x(支点から石までのテコの長さ)=(人の押す力)x(支点から人の押す点までのテコの長さ)という計算式から、例えば図2のような数値を出すとします。

図2

 もちろんこの場合、10kgの力で100kgの重さの石を動かすことができるという点に関してはその通りなのですが、しかし厳密な意味で考えると、このような計算はできないのです。
 つまり計算ということになると、石や人の手には大きさがあるため、計算に使う支点からの長さ、つまり距離をどこにポイントを置いて測ればいいのかはっきりわからないことや、さらに天秤のように釣り合うという観点から見れば、テコ自身の重さも考慮しなければならない、
ということからです。

 これらのことを考えてこの設問99に戻れば、たしかにテコである板自身の重さや金属板の重さは明示されているものの、それらの重力のかかる位置については何の記述もありません。
 この位置がわからない以上、計算へと前に進めないわけで、したがって迷ってしまわれたと思われる前述の方たちとは、この点おいてではなかったかということです。

 それでは解説に入ります。
 まずこれらの方たちには、重心という言葉を思い出していただくとわかります。つまり重力の中心を意味する重心です。
 どんなに大きなものでも、その重力はその重心に集中していて、その集中ポイントが重力を代表しているということです。
 ですから、材質の密度が均一である金属板もシーソー板の場合も、その中心に重力があるとして計算すればよいことになります。

 設問には、一応、幅や厚みなどの数値も示されていますが、左右の釣り合いという観点からすれば、長さの数値に焦点を当てて計算していけばいいわけです。
 そこで長さ50cmの金属版ではその中心、つまり両端から半分の25cmのところに20kgの重力があり、したがってこの重心は、テコの支点から75cmのところにあることになります。

 またシーソー板の場合は、それを1mと2mとに支点の左右で分けることにより、左右のシーソーの重心は、それぞれ支点から半分の位置である50cmと1mのところにあるということです。
 したがって30kgのシーソー板の左右の重さは、その長さである1mと2mとに比例しますから、それぞれ30x1/3、30x2/3、つまり10kgと20kgと出ます(図3)。

図3

 この状況のもとでテコの原理を使い、支点の左右で働く力を計算すればいいわけです。
 まず左側の力として、金属版の重力による力0.75x20=15と、テコ自身の重力による力 0.5x10=5 との合計で、20と出ます。
 一方右側は、テコ自身の重力による力で、それは 1x20=20 です。

 結果、支点の左右ともに20の力が働いており、これはちょうど釣り合っている状態であることがわかります。つまり今現在、シーソーはすでに均衡していて、右の2m側に改めて重りを載せる必要はないということです。

 当初、計算していけば簡単に解ける問題として、落とし穴を心配された方たちは、設問が「2m側にどんな重りを載せないといけないか」を尋ねているのに、何も載せる必要がないという結果が出たことで、これでいいのかと、改めて不安をいだかれかもしれませんし、あるいはまた肩すかしを食ったと思われたかもしれませんが、これが正解です。

 また、「どんな重りを」とだけ訊いていて、重りの特定の位置を尋ねる「どこに」という文言が入っていません。その理由は、重心という発想が湧かない人たちに対して、そのヒントにならないようにと、出題者側が考えたからかもしれません。

 当設問の背景は、一般にテコの原理として、そこに働く力とその支点からの距離だけが計算に使われますが、しかし、現実の世界ではテコの重力による力も考慮に入れなければならないことなど、普段から細かなところまで気を配っているかどうか、また物体の重力はその重心で代表されていることなども含めて、物理の基本的な部分を十分理解しているかどうか見ようとしているものです。

シーソー(公園の写真)

 この機会に、シーソーという言葉の由来について付け加えておきます。
英語でseesawと書きますが、これだとsee(見る)とsaw(見た)の単語から成り立っているようにみえるため、あの「ぎったんばっこん」が、どうして「見て見た」になるのか疑問に思う人も多くあると思います。
 しかし実際には「見る」こととは関係く、フランス語が英語化したことに基づくものです。フランス語のci-çaは、英語のthis-thatに当たり、こちらとあちらといった具合にシーソーの行ったり来たりする動きを文字どおり表現したもので、一方、物を切るときの「のこぎり」が前後に繰り返し動くことから、フランス語のscie(のこぎり)と、英語のsaw(のこぎり)を一緒にしたscie-sawの発音からseesawになったということのようです。
 もちろんフランスでは、シーソーのことを英語のようにsciesawなどとは言いません。Tapeculとかbalançoire à bascule などと言っています。

シーソー(子供が乗ってる絵)

 それでは設問99の解答です。


正解 正解99  現状のままでシーソーは釣り合っているので、新たに重りを載せる必要はない。(計算式は本文の中)

 では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。ヒントとしてこの問題は、グーグル社の出題であることを背景に考えると解け易いかと思います。


問題 設問100  あなたはA地点からB地点に行かなくてはならない。そこに到着できるかどうかは知りません。どうしますか?(設問の原文 You have to get from point A to point B. You don’t know if you can get there. What would you do ? )

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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