技術的特異点という意味で、発明家で未来学者のレイ・カーツワイルがシンギュラリティという言葉を使いましたが、その彼が今年2017年の3月、人類史上初めて人間よりも人工知能が賢くなる年は、当初予想していたよりも早まって2029年頃になると言っています。
前号でも見ていただいたように、カーツワイルは1990年出版で、インターネットシステムの台頭やコンピュータのチェス世界チャンピオン誕生を予言し、的中させましたが、同じく1990年から15年の予算でヒトゲノム解析プロジェクトが組まれていた当時、7年後の1997年時点で、進捗は1%でした。多くの学者が悲観的になる中で、カーツワイルは期限内の完了を予測。その後、ゲノムの解析スピードは急激にスピードアップし、期限より大幅に早く2000年には100%完了してしまい、これも的中です。
これらの的中率を考慮すれば、人工知能が人間の知能を超えるのは2029年頃という彼の予言、その信憑性は大です。
このシンギュラリティについて、「実現する年次に多少誤差はあるかもしれないが、今後30年前後で必ずその時がくる」と断言しているのが、ソフトバンクの孫正義社長です。
孫氏が昨年、ソフトバンクアカデミアの特別講義で語ったその概要は、次の通りです。
シーン①~③: 今の人間の平均知能指数IQを100とすると、天才は200程度。300という人間は考えられないが、孫氏の計算によれば、今後30年以内にシンギュラリティポイントがきて、そのときの人工知能のIQは10,000となるとしている。
シーン④~⑤: コンピューターのトランジスターは2進法で動き、人間の脳の神経細胞と物理的には同じ働きをしている。「トランジスターの集積度は18ヵ月で2倍になる」というムーアの法則に従って1チップに収まるトランジスターの数を計算すると、人間の大脳の神経細胞の数300億個に追いつくのは2018年。最初に計算したのは2000年。最近は2010年でやはり2018年として変わらなかった。そして2040年には3000兆個となり、人間の大脳神経細胞の10万倍となって、物理的な観点から見ても、もはやシンギュラリティに到達していることは疑う余地がないとしている。
シーン⑥: 人工知能を搭載したロボットの数は100億個体になると推定。
シーン⑦: 現在1人当たり2個のIoTが、2040年には1人当たり平均1000個となり、そのときに推定される世界総人口100億人から計算すると、結果、2040年の世界のIoT数総合計は10兆個になるとしている。1人当たり平均1000個にもなるのは、企業などで使われるIoT個数が膨大になるため。
そして孫氏はこう結んでいます。
「シンギュラリティという日がやってくるということが、人類にとっていいことなのか、悪いことなのか。
人間の知能を超えるロボットの時代がきたら、ロボットと人間の関係はどうなるのか。それは人間社会にとって進化なのか、それとも破滅なのか。
私は性善説、楽観主義的にものを考える性格なので、それだけ知能を持ったコンピューターは人類にとってきっと素晴らしいものになると信じている。
人間が2000年前、あるいは3000年前、食料のために毎日のように部族同士で殺し合いをしていた。しかし今日はそんなことをしなくても、コンビニに行けば食料が手に入る、生きていかれる。つまり社会がより進化することによって、人間が社会性を持ち、人間はより理性を持ち、人間はより助け合って、よりいい方向に進化し調和がとれて、2000年、3000年前よりは、よりよい時代になっている。社会性が出来てきていると見ている。
つまり人間の知性、理性、社会性、モラル、エチケット、こういうものが進化するように、我々をはるかに超えた知能を持つ彼らが無駄な、馬鹿げた、この地球を破滅に持って行くようなことは、必ず自ら制御するだろうと信じている。
つまりこの知的ロボットと共存できると信じたい」と。
脳のメカニズムが解明されないかぎり、人間の感情などを含め、完全に人間と同じような人工知能は作れないのではないかと思いますが、物理的な視点から見れば、科学技術が自分自身で、より優れた科学技術を作れるようになるポイント、このポイントを超えると進化は無限大に発散するという技術的特異点というものはあるのでしょう。
それでは今号の設問に入ります。
実際のオリジナルの問題には、「ただし、Xなどを利用した方程式は使わないこと」というコメントが付いていなかったそうです。
その場合だと、おそらく多くの人は未知数の方程式を使って、簡単に解いてしまうと思われるからで、なぜオリジナルにはこのコメントがついていなかったのか、その背景はのちほどわかります。
ではこのコメントが無しの場合、Xを使えばその解き方は簡単です。
まず、大、中、小、3つの正方形のうち、小さい正方形の一辺をXcmとすると、大きい正方形の一辺は(8+X)cm、従って中・正方形の一辺は{(8+X)−3}cmとなります。
すると図からわかるように、これら3つの長さの合計が25cmということですから、X+(8+X)+{(8+X)−3}=25、したがって3X=12 、X=4となり(図1)、大中小3つの正方形の1辺は、それぞれ12cm、9cm、4cmとわかります。
では設問に従って、未知数Xや方程式を使わないで、いきなり解け!と言われたらどうでしょうか。中には、う〜んと一瞬うなって、さすがに面接試験の問題らしいと考えた皆さんもおられたかもしれません。
当連載の愛読者によりますと、実はこの問題は小学校4年生の宿題で出されたもののようです。だからオリジナルの問題には、Xとか方程式と言った文言がなかったこともうなずけます。
大人は、方程式などの方法を知っていることから、すぐにそれに頼って解きがちですが、敢えてその方法でなくても解けるという、その原点に返って考えてもらおうというのが本問の主旨です。
では、Xを使わないでどうやって解くのか。ここで難しい知識や理論は横に置いておいて、素頭つまり地頭でよ~く考えてみるということです。
すなわち、Xを使わないということは、Xと置くべきところ、つまり図の中で数字のないところがあっても、この図を見ていればわかるということを意味しているわけです。
そこで設問の図をじっくりと見ます。Xと置くべきブランクの箇所の代わりに、余分とも思える25cmの直線があります。ということは、この直線がキーポイントです。
そんなことはわかりきったこととお叱りの声が聞こえてきそうですが、キーポイントとは、図として考えるということです。
どういうことか。つまり25cmの直線が、図としてブランクの箇所を補えるのではないか、という発想です。
子供は、積み木でたくさんのブロックを上下左右に回転させながら、いろんな形のものを作り上げていきます。
また折紙でも、やはりいろんな折り方で、たくさん違った形のものを作り上げていきます。
つまり折紙的発想をするのです。すなわち25cmの辺を、図2のように中央にある大きな正方形に沿ってその両端を折り曲げるのです。すると数字の欠けたところがぴったり埋まり、3辺の枡状の箱の形ができあがるということです。
ここまでくれば、もうあとは簡単です。枡状の周りの長さは8+25+3=36とわかり、したがって大きな正方形の一辺は36÷3=12となります。
だから小・正方形、中・正方形の一辺はそれぞれ4cm、9cmとわかります。
でもここで安心したら、アウトです。設問は正方形の面積を出せと言っているのですから、それを忘れてはなりません。
だから大中小それぞれの面積は、144cm2、81cm2、16cm2です。
それでは設問135の解答です。
先入観が邪魔をしたり、おうおうにして、いろんな知識があるばかりに難しく考えすぎてしまいがちになるところを、ときには白紙に戻り、その基本に立ち返ってよ〜く考えれば、現実に則した日常生活の上ですぐに役立つような問題解決に結びつく、という分かり易い例として、小学4年生の宿題を選びました。
大人はよけいな知識があるがために、すぐにそれを1つの手段として使おうとしがちです。
もちろんそれはそれでいいのですが、常に「素頭で深く考える」という習慣、 つまり地頭力を培う姿勢が欠けてしまうと、今日のような激変するビジネス界で、頻繁に遭遇する未知・未体験の問題に対処していけるだけの問題解決力も乏しくなり、したがって社会の要望にも応えられない人間になってしまうということです。
このような観点を踏まえると、当設問は地頭力の基礎問題でもあるということです。
当連載設問その19 ケーキ2分の問題を思い出してください。大人は知識があるがゆえに、すぐに難しい解き方に入るのに対して、小学生、しかも9歳の少年は、当然知識は乏しいものの、ダイナミックな発想・地頭力で、いとも簡単に解いていました。
わけへだてなく2分したケーキを早く欲しいと泣き叫んでいる子供を前にして、どちらの方法で分割したほうがいいか。解答は明瞭でした。
9歳の少年の分割結果は、すぐにできる分かり易い方法で、それはまた子供でも公平な分け方だと、容易に納得させることのできるものでした。
現実に則した日常生活の上で、9歳の少年の解き方は大人の解き方よりも理に叶っていたということです。
思えば、この連載はアメリカのIT企業の面接試験問題に端を発しました。
ロジカル・シンクングやクリエイティブ・シンキング、考え方の幅広さ、柔軟性、枠にとらわれない思考、解くスピードや直感を見るもの、ミクロ思考かマクロ思考か、常日頃から注意深く物事を見ているか、先入観にとらわれず視点や着眼点などを変えてあらゆる可能性を追求しようとするか、よく考え、また想定外のことにも細心の注意を払う注意力の持ち主か、正解はなくともそれ相応の説得力がある回答が出来るかなどなど、論理的な思考や創造的能力を見るために、多岐にわたって問題が出題されていました。
中でも、フェルミ問題を含めた荒唐無稽とも思われる問題では、明日、何が飛び出すか、何が起こるかわからないといった、学校では教わらなかった場面に遭遇したときのために、解答のない、あるいはすぐには解答が出ない、未知未体験世界での着眼点やそこでの問題をどのように解いていくか、その論理的な思考過程を通して、明日への問題解決能力や、異なった視点からの創造性能力を見ようとしていました。
さらには問題への取組姿勢から「やる気や行動力」あるいは「あきらめないねばり強い忍耐力」までも見ようとしていました。
つまりアメリカのIT企業の面接試験問題は、
- 自ら考え、ねばり強い行動が取れる人材
- 先を見すえて英知を考え出せる人材
- 未知・未体験の世界で果敢にチャレンジできる人材
の発掘、いわゆる独自性のある自ら考える力=地頭力を持った人材の発掘を目指した問題だということでした。
135回に亘ったこの連載中、NHKのクローズアップ現代や関西テレビ、朝日放送やスカパーテレビからの取材や出演、そして日経BP社からの出版もあり、少しは興味を持たれ、お役に立ったかと思っておりますが、この連載を通して少しでも皆さんの地頭力を培う一助となり、今後、更なる発展と飛躍にお役立つことができれば、この上ない喜びとするものです。
長い間のご愛読をありがとうございました。
また途中、設問の提供や誤りの指摘など情報をお寄せいただき、協力してくださった皆さんには、この場を借りて厚くお礼を申しあげます。ありがとうございました。
掲載した設問を、いざ面接の場で短時間に解答するとなると、私は落第生になると実感しています。
引き続き、またのご愛読を目指して、皆さまの明日の発展と飛躍に一段と役立つと思われる新たな題材、孫正義氏の生き様や、100年に一度あるかどうかの激変時代が始まる、といったテーマの連載を考えています。